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我が心の故郷、ハイラル平原との思い出


ときどき無性に帰りたくなる場所がある。ハイラル平原だ。

なんの目的もなく馬を繰り出して、快晴を見上げながら駆け抜けたくなる。
その道中、岩肌が目に留まればよじのぼって広大な大地を見渡したくなるし、池があれば飛び込みたくもなる。ついでに魚も獲っておこう。夜になったら火をくべて鍋に獲った食材を放り込み、スパイスや塩を加えて料理を作る。そんなたわいもない時間を過ごして、そっとSwitchの電源を切る。

ゼルダの伝説―ブレス オブ ザ ワイルド」が名作中の名作であることは、もうあらゆる方面から語りつくされたことだ。もう発売から6年も経っているし、もはや狂気の沙汰としか思えない隠し要素や作りこまれたギミックのほとんどが熱烈なファンたちによって明かされている。

そういう類の話を繰り返すのは不毛だと思うので、この神作品にまつわる個人的な思い出話をしたい。


もともと私はゲームが大好きだが、苦手だ。
ゲームのキャラクターに身も心も入れ込んで、ファンタジーの世界に没入できるあの時間は、小説やマンガ、映画などのコンテンツからは味わえないものだと感じる。
その一方で、操作センスが全くない。慣れればある程度できるはずの基本操作が、いつまでもおぼつかない。特にRPGでよく求められるバトルアクションが、ボケでやってんのかとツッコみたいレベルでへたくそだ。
あと、ルーティンワークが苦手な性格もゲームスキルの向上には不向きだった。RPGによくあるレベル上げや、FPSで必要な基礎スキル向上のための練習に、どうも飽きてしまう。だから結局、クリアなりドン勝なりの成果を得ることなく、中途半端に挫折する。

真面目で不器用な人間なので、遊びでやってるはずなのに挫折や失敗を直視しては落ち込む。大好きなのに、うまくできない。コンプレックスにも近い感情が、ゲームに対してぐずぐずと膿んでしまっていた。
そんな私がゲームから完全に離れることなく大人になれたのは、「ゼルダの伝説」シリーズに出会ったからだ。

同シリーズとの出会いとなった「時のオカリナ」は、初回はクリアこそできなかったものの、その操作感の新しさと世界観の魅力に圧倒された。操作がへたでも知恵を絞って謎を解けたときは嬉しくて、小さな成功体験の積み重ねが自信へとつながっていった。高校生になってから再プレイし、無事にクリアした。
「ムジュラの仮面」から受けた衝撃は今でも忘れられない。複数のストーリーが同時進行し、かつタイムリープする世界の中を、自分が何度も歩き回りながら伏線回収していく経験は、今まで平面でとらえていた物語を三次元で捉えるような新しい感覚をくれた。

……こうして振り返っていくときりがないのでいったんショートカットするが、とにかく「ゼルダの伝説」シリーズは操作がへたくそという苦手意識を凌駕する驚きを毎度与えてくれて、やっぱりゲームって面白いという喜びを思い出させてくれるのだった。
単に決められたシナリオをなぞってクリアをめざすのではなく、解釈の幅やプレイヤーの選択肢が豊かだったことも魅力的に感じられた部分だ。それほど複雑なストーリーが展開されるわけでもないのだが、街の住人などの細やかな設定が作りこまれていて、ユーザーに選択肢が委ねられている部分が大きいため、プレイ次第で隠れた宝物を発見できるようなワクワク感があった。どんなに些細なものにも目を向ける好奇心や、物事の裏に隠された仕掛けを探す観察眼を育んでくれたのは、ほかでもない「ゼルダの伝説」シリーズだと思う。

ちなみに大学時代プレイした「トワイライトプリンセス」は、シリーズの中で不動の1位と言えるくらい好きだった。人と獣を使い分けるシステムも、ミドナという魅力的なキャラクターも、影を感じる音楽も、すべてが私の好みに刺さっていた。


それでも、それでもだ。ついにその大好きな作品を超えるシリーズ最高傑作が誕生してしまった。それが冒頭で触れた「ブレス オブ ザ ワイルド」だ。

私が「ゼルダの伝説」シリーズに感じていた魅力、ほかのゲームにはない独自性の全てが、「ブレス オブ ザ ワイルド」に凝縮されていた。プレイヤーの選択肢の豊かさは、ついにオープンワールドという到達点にたどりついたのだ。時間経過によって変わる空模様、そこに生きる人々の生活ぶりといった要素も、今まで以上に壮大なスケール、かつ緻密さで描かれている。過去作品をプレイしていたら思わず二度見するような要素をあらゆるシーンで盛り込んでくれたことにも、涙が出るくらい喜んだ。

「ブレス オブ ザ ワイルド」は、大人になっても相変わらず操作がドへたくそだった私にとって、非常に難易度の高いゲームだった。でも絶対にクリアすると心に決めた。こんな感動と成長をくれた作品を、こんなに長い間好きな相手を、途中であきらめてなるものか、と。
ありがたいことに、苦手なバトルを極力避けるプレイスタイルでも、メインストーリーを進行できた(最低限戦うべき敵はもちろん戦うが)。自由度の高さが私の決意を後押ししてくれたし、タイミングよく連休が重なったことも相まって、日常生活のすべてを忘れてクリアをめざす日々を大人になってから経験できた。これは今振り返っても「フリーランスになって良かったと思う瞬間」歴代トップ3に入る。
メインストーリーをクリアできたときの達成感は、何にも代えがたいものだった。しかも、物語はそこで終わらなかった。というか、広大な大地はいつまでもプレイヤーが戻れる場所として存在し続ける仕様だった。

こうしてハイラル平原は、我が心の故郷となった。ここに帰ってくれば、いつだって私は自由にこの大好きな世界を駆け巡り、冒険を続けることができる。まだまだ発見できることがあるかもしれない、とワクワクしながら。その時間を通じて、自分が成し遂げた達成感と好奇心の火を心に灯しなおし、私は日々の生活の苦難にまた立ち戻ろうと思えた。大げさな言い方かもしれないが、「ブレス オブ ザ ワイルド」の世界に行くことが心の支えになっていた時期もある。これほど自分の心に深く根差したゲームは、ほかにない。


ありがとう、「ゼルダの伝説」シリーズ。感謝を心に刻みながら、私は2023年5月が来るのを今か今かと待ちわびている。「ブレス オブ ザ ワイルド」の続編にあたる「ティアーズ オブ ザ キングダム」がとうとう発売されるのだ。

今度はどんな発見をくれるんだろう。どんな冒険が待ち受けてるんだろう。でも相変わらず操作は難しいんだろうな。謎解きにも頭を抱えるんだろうな。それでも私はまたあの世界にチャレンジしたい。最後までたどりつきたい。最後と言わず、どこまでも続きを残してくれるゼルダの世界を味わい続けたい。

終わらない冒険という最高のエンターテインメントをくれた「ゼルダの伝説」シリーズと、それを象徴するハイラル平原のあのどこまでも続く美しい風景は、そういうわけで、私の心の故郷なのだ。

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