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ひとりじゃなんにもできないぜ、冬

先週の土曜日、「朝イチで厄払いに行こう」と厄年同士の友だちと約束した。久々に朝から車を出すために、早朝から雪かきをした。けっこうな積雪だったのでヒイヒイいいながらなんとか車を出せる状態をつくる。いざシャワーを浴びて化粧をして、友だちに「今から出るよ」とLINEしようと思ったら……。

あれ?スマホがない。

日ごろからスマホをどこに置いたか忘れる女なので、いつものことだ。「アレクサ~、スマホ鳴らして~」とお決まりのお願いをする。しかし家の中は静まり返っている。

あれ?

洗濯物のかごに埋まって音が聞こえない?マナーモードにしてたっけ?そうやって自分の生活範囲をいくら辿ってもスマホが見当たらない。その間、何度アレクサが呼びかけてもスマホの返事が返ってこない。そうこうしているうちに約束の時間が迫ってくる。冷や汗が流れる。

友だちが指定してきた集合場所の住所はLINEに送られていて、私が行ったことのない場所だった。PCでLINEにつなごうにも、スマホのQRコードを読まないとログインできない。PC上からAppleIDにログインして「スマホを探す」をやっても音が鳴らない。

パニックに陥った。友だちに現状を連絡しようにも固定電話はないし、そもそも電話番号もスマホに登録されているからわからない。スマホがないと私は誰にも連絡が取れないのだ。

スマホはいったいどこに?考えられるのはただひとつ。雪かきをしているときに落として、雪のなかに埋もれてしまったのだ。

「アレクサっ…スマホ鳴らして」と切羽詰まった声でお願いして走って外に出て耳を澄ましても、聴こえるのは近所のおじいさんが除雪機をかけている轟音のみ。やばい。まじでやばい。このままでは、待ち合わせをしている友だちに連絡をできないまま時間が経つばかりだ。

急遽スマホを持たないで車を出し、その友だちの連絡先を知る別の友だちが暮らす家に向かった。「頼む、家に居てくれ」と願ったが、出てきたのは友だちの母だった。残念ながら友だち自身は仕事で出ているという。厄払いの約束をしている友だちの連絡先はゲットできなかった。「はやくスマホが見つかるといいわね」と、眉を下げるやさしいお母様。「休日の朝からバタバタ訪問してごめんなさい」と深く頭を下げる。

今度は厄払いに行く約束をしていた友だち自身の実家に車を走らせた。そこで暮らす友だちの父に直接事情を説明し、なんとか娘に電話をつないでもらうことに成功する。ようやく友だちに事情を話すことができて、とりあえずことなきを得た。連絡が途絶えたうえにドタキャンになってしまったことに対する謝罪を重ねて、「厄払いはまた別日にしよう」と約束する。もっと早々に厄をはらっておけばスマホがなくなることなんてなかったんだろうか……と心から後悔した。

本来の予定であれば厄払いをしたあとパートナーと会う約束をしていたから、今度はパートナーの家に車を走らせる。これもまた、スマホがないから連絡できていない。連絡もせず予定よりはやく到着した私がパニックで泣きながら状況を説明すると、「とりあえず、スマホ一緒に探そう」と笑われて、我が家へ引き返すことに。私が取り乱しすぎていたので、パートナーに運転してもらった。寝起きなのに申し訳ない。ちなみに、両者宅間の走行距離は冬だと片道50分くらいかかる。それも含めてまじで申し訳ない。

パートナーがLINEを鳴らし続けながらふたりで雪を掘り返して、ようやくかすかに音が聞こえてきた。どうやら私は、落としたスマホをシャベルに雪ごと丸めて、そのまま雪原に放ってしまったらしい。深く埋まっていたスマホがなんとか息をしていて、安堵で泣き笑いをした。突然来訪したにも関わらず対応してくれた友だちふたりの母、父、そして予定を変更してくれた友だち、一緒にスマホを探してくれたパートナーに感謝してもしきれない。

自分のおっちょこちょいでたくさんの人に迷惑をかけてしまった土曜日は、どうにもくしゃくしゃの気持ちになってしまって、しばらく何をするにつけても「そうよ、私はスマホを雪に埋めて見つけられない女……」とつぶやいていた。


そこから土日はパートナー宅で過ごし、月曜の早朝、自宅に帰った。帰り道の道路状況をタイヤで踏みしめながら、嫌な予感が募る。「これはだいぶ“降った”だろうな」ということを、家に近づけば近づくほどひしひしと感じるのだ。

私の家があるエリアは、札幌近郊のエリアの中でも屈指の豪雪地帯だ。Twitterなどで地名を検索すると「冬は住むところじゃない」とか「魔境」とか言われている。住んでいる当事者としては「失礼な!」と反論することができない。まじでそうだね、と思う。

案の定、土日不在だった家の前には高い高い雪の壁ができており、車を駐車することすらできなくなっていた。ただでさえ道路は雪がせり出して狭い。路駐すると、ほかの車が通れなくなってしまう。急遽最寄りのコンビニまで引き返して、コンビニの店員さんに事情を説明し、雪かきをするまでコンビニの駐車場を貸してほしいとお願いした。「いいですよ」と快諾してもらい、感謝の気持ちでいっぱいになる。せめてものお礼で、できる限り高額な商品を買いあさった。

とはいえ、月曜である。仕事の予定も、今日までのタスクもあった。昼間はPCに向きあうほかない。そうこうしているうちに、外はえげつない吹雪に。地元のニュースで取り上げられるレベルの集中豪雪だ。うちの近くの道路では、除雪が追いつかず車が立ち往生していたらしい。窓の外の風景がまったく見えないホワイトアウト状態が数時間続いていた。

仕事が片付いて、吹雪もすこし落ち着き、なんとか雪かきができる状態になって外に出ると、もう、家から出る時点でドアが開きづらいくらい雪が積もっていた。これから何時間かければ生活ルートを確保して、車をコンビニから移動できるのだろう……。

ひとりだったら絶望が押し寄せて動きも鈍っていただろうが、パートナーが事情を察してわざわざ仕事終わりに駆けつけて、雪かきを手伝ってくれた。ついでにカーポートの上にのぼって雪庇も落としてくれる。かつて階段から落ちて複雑骨折したことがある私は、不安定な足場が苦手だ。高いところの雪を落としてくれるのは、精神的な面でほんとうに救われる。

途中、近所の方が犬の散歩をしながら通りがかって、庭の裏手までヒイヒイ言いながらダンプを押している私の姿を見かねたのか、「たぶん今日の深夜か明日には雪を持って行ってくれるタイプの除雪が入るから、多少なら道路に出しても大丈夫だし、ぜんぶ持って行ってくれるはずだよ」と助言してくれた。そのおかげで、雪を積んで移動する距離がだいぶ短縮された。教えてくれてありがとう。そして、道路に雪を出すことへの申し訳ない気持ちを軽減してくれてありがとう。「ありがとうございます」と息を切らしながら、何度も深々と頭を下げる。

約2時間せっせと雪をかいている間、仕事が終わったあとのパートナーにこんな重労働を手伝ってもらっている申し訳なさで心がぐしゃぐしゃになりそうだったが、「大人の雪遊びだね~青春だね~」などと笑ってくれたおかげで、なんとか耐えられた。

カーポートの前の雪がなんとか片付いて、コンビニへ。結局一日中駐車スペースを借りてしまった。コンビニの店員さんに深々と頭を下げて謝る。なごやかな表情で「大丈夫ですよ」と何度も言ってくれた。今度もお礼の気持ちを伝えるべく、たくさんの買い物をする。

そこで買ったものを全部、雪かきを手伝ってくれたパートナーに感謝の気持ちをこめて渡した。「え、ありがとう」と意外そうに笑われる。いや、ありがとうはこっちだよ……。胸がグッと痛くなる。「家に入ると帰るタイミングを見失いそうだから、今日は帰るね」と言って、パートナーは休憩すら取ることなく車に乗った。

吹雪のなか消えていく車を見送りながら、「ほんとうに私、ひとりじゃなんにもできないなあ」と泣いてしまった。

でも、この涙は悲しくて流れた涙じゃない。みんな、私はほんとうにどうしようもない女だけれど、助けてくれるし、許してくれているんだ。見返りも求めず助けてくれる人たちがいて、その人たちが支えてくれる世界で、私は生きているんだ。なんだかそう思ったら嬉しくて、泣けてしまったんだよ。

友だち、友だちの親御さん、近所の方、コンビニの店員さん、そしてパートナー。今回助けてくれた、あるいは私を許してくれた人たち。その人たち、あるいはそうでない誰かを、もし私の力で助けられることがあるときは、全力で返すよ。長時間外で雪かきをしていてかじかんだ手をキーボードを打つことで温めながら、私は心に誓った。

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