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(新々)三つ子の魂百までも 41



林田は納得いかなかった。
この様な中途半端な記事では、
都市伝説の解明ができていない。
また、不明確なあの程度の写真では、
霊の存在が明らかにされた訳でも無く
読者を満足させる事は出来ない。

だからかと言って、今の自分では霊が撮れない。

荒んだ心を以前の様に清らかな心に戻さないと、霊は撮れない。

林田は何故自分の心が荒んだのかを
反省していた。

……あの頃の僕は、人の役にも立つ事も出来ず、会社ではお荷物人間だった。
写真を撮る事が自分らしく生きていると感じていた。でも写真は評価されずに悶々と過ごしていた。

良い写真を撮る事のみを考えていた。
あの霊の写真を撮った時も、無心で夢中になって写真を撮っていたからこそ、
霊を撮れたのだ。
そう、その時の僕は無心だった。
純心だった。名誉や金儲けの事など考えずに、
写真を撮る事だけに専念していた……

また、あの時の心になって、真実を解明したい。
そうで無いと僕を頼ってきた
橋田少年に申し訳が立たない。

読者全員が納得出来る写真を撮ってみせる。
心を穏やかに欲を捨て純心さを取り戻す。
そしてあの生意気な杉田を見返してやる。

林田はそう決意した。
昔の自分に戻る為に
絶えず努力を心がけた。
一年後
その甲斐あって、霊の写真が撮れる様になってきた。
写真を現像するたびに、霊の写真が明確に映る。

林田は喜びを味わう。
今の心なら、あのビルの霊を明確に
写せる。必ず撮れる と、自信を胸に林田はあのビルに向かう。

草木も眠る丑三つどき。
真冬の風は冷たい。
防寒着を着ているとはいえ、
寒さが体の芯まで届く。

静まりかえったビルの中に一人で入る林田。

林田の胸には、真実の解明だけの気持ちしかなかった。
本当に地縛霊は此処にいるのなら、
明確で誰でも判る写真を撮る。

懐中電灯を灯して、一段一段階段を登る。
首には例のカメラをぶら下げて。
何も恐れない!
真相の解明に臨む林田智。

不気味なビル内も今の林田には恐怖とも思えない。

使命は勇気に変わりそして勇者となる。

一人の勇者は4階の廊下に足を踏み入れる。

壁に有る落書き。
「この壁に地縛霊が棲むのか」
誰も居ないのに独り言を云う林田。
林田は、壁を目掛け何枚も写真を撮る。

そして廊下全体の写真を無心で撮る。

「これで良し。明日この写真を現像するぞ」
と、嬉しいそうに呟く林田。

林田は始発の電車に乗り自宅に帰る。
今日した事を手帳に記した。
手帳はスケジュール帳でもあり
日記帳でもある。

それには一日の行動が大まかに書き込まれている。



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