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【67】お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~

67 第二章② 政略結婚の悪夢、ふたたび?

「ライガ、ちょっと落ち着いて」
「今すぐ、用意にかかろう! 荷物をまとめて、今日中に出発する。一刻も早く、この国から出る……」
「ライガ!! 私の目を見て!」

 慌てるライガの肩を思い切りバシッと叩いて、私は低めの声を出した。パニクってる人には、やっぱり低い声が有効よね。
 ハッとした表情のライガに、私はこう続ける。

「ライガ。深呼吸しましょう。大きく息を吸って、吐いて。吸って……、吐いて……。はい、あと5回繰り返してね」

 ライガは、大人しく言う事を聞いた。こういう時に、私を遮り話を続けるのは得策でないと、よく理解しているのだ。
 私は彼の手をとり、優しく撫でながらゆっくりと話しかけた。

「ライガ、あなたがどうしたいかではなく、何があったのか、私にわかるように言葉で教えて。なぜ、私達が逃げないといけないの? 私の性格をあなたはわかってるでしょ? 納得いかないと、私はテコでも動かないわよ」

 ライガは落ち着いてきたのか、少し恥ずかしそうにしながら私の手を握り返した。

「すまない、チカ。焦るあまりに、説明不足だった。……実はさきほど、フランツ王子に会ってきたんだ」
「フランツ王子? ライガが?」

 フランツはこの国の第三王子だ。私の愛するダーリンとはいえ、ライガは平民出の剣士、しかも過去の誤解から未だに虐げられる事も多い、北の民出身だ。
 公爵令嬢の私でも、王族にはそうホイホイ会えるものではない高位のお方に、なぜライガが?

「月イチの情報収集でメシ屋を訪ねたら、ビーから手紙を渡された。王家の紋章があったので、指定された場所を訪ね、そこから王子のいる場所まで案内され話をした」
「それで?」
「彼は小声で、こう言った。私が王族でなければ、友に今すぐ国を出ろと忠告できるのに、と。彼が話したのは、それだけだ」

 私は黙ってライガの次の言葉を待つ。フランツが声にださなくとも、ライガには彼の考えが読めるのだから。

「チカ、例のアーシヤの事件の時に、シャムスヌール帝国のヌンジュラという王族の話が出たのを覚えているか?」
「最初に、犯人の黒幕だと思ってた人よね。シャムスヌール帝王の甥だったかな、たしか。コフィナさんとピーターソンさんも、シャムスヌール帝国のお坊ちゃまがヨーロピアン国の乗っ取る計画を立てたと、最初に言ってたよね。結局、怪しいけど、決定的な事件との関連はみつけられなかったんじゃないの?」
「その、お坊っちゃまが、来週この国にやってくる。神鳥の信託を受けた公爵令嬢へ結婚の申込みをしに」
「はっ……? え、神鳥の神託を受けた令嬢、って……」
「そう、チカ。あんたの事だ」

 予想外の人物の名前に、予想外の展開に、私の頭はフリーズする。

「えーーっと、なに、その……。よその国の王族のお坊ちゃまが、私に求婚しにやってくる、って。なんで?」
「求婚じゃない。実質、チカを寄越せと圧をかけてきたんだ。シャムスヌール帝国は、言わずと知れた軍事大国だ。今のヨーロピアンに断る力はない」
「……政略結婚……。今さら……嘘でしょ」

 そう、去年の冬にフランツ王子の祖父でもある、このヨーロピアン国の武の名門、キエフル公爵が疫病で亡くなられた。公爵と共に、剛腕を誇ったキエフル一族と家臣の剣士達も、大勢が鬼籍に入った。

 キエフル公爵家は長年ヨーロピアン国の武を担い、国内外への軍事の要として、また、政にも深く関わってきた。その一門の力が、約半分に激減したのだ。

 いくら残った家門の者達が、訓練を受けてきた優秀な戦士だとしても、その戦士を束ね、作戦を立て、指揮を執る軍師・指揮官やリーダー役がいなくては戦では勝てない。

 戦は組織プレーだ。勿論、チート能力というか魔法とでもいうべき、心威力しんいりょくを持つ能力者が何人かいれば話は別なんだろうけど。現在、心威力を持っているとされる人間は、公式には一人もいない。

 ヨーロピアン国には、今、国内外に対して武力を行使する力はないも同然。火種は極力避けなくてはならない。

 なぜ、今なの? 今この時期に、よその帝国の王族が、大昔に神鳥の神託を受けた単なる貴族令嬢の存在を掘りおこして、政略結婚しようするの? これは、そのお坊ちゃんの意思なの? それとも別の誰かが、何らかの目的の為にお坊ちゃんを動かしているの? 何が狙い? 誰が関わってる? 例の国王暗殺事件の実行犯ロバートを口封じに殺した人間が、やっぱり国内にいるの? この状況で、私達はどう動くべき? 最優先事項はなに?

 ついさっきまで平和に過ごしていたのに、あまりにも急激な流れに、私の頭は混乱状態だ。

「ねえ、ライガ。ひとつ聞いておきたい事があるんだけど」
「なんだ?」
「私はライガを愛してる。心から信頼している。これは何があってもかわらないわ。そして、このナルニエント公国の皆の事も、ヨーロピアン国も、大切に思っている」
「……知っている。オレも、チカを心から愛している」

 ライガはそう言って、私を抱きしめた。
 私はライガの背中を撫でながら、こう続けた。

「ライガは、もし私が誰かに無理に行為を強要されたら、それでも今とかわらず私を愛せる? それも、ライガ以外の人間と密接な時間を持った私は、もうライガに愛される資格はないのかしら? 」

~続く~

あの、先に申し上げておきますが最悪の展開にはなりませんので、ご安心下さい。

お読みいただき、おおきにです(^人^)
イラストはAIで生成したものを使っています。

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