ある日の新聞記事から。
マルチタスクを導入した当初の目的は人手不足解消や収支改善だったが、副次的な効果として、従業員の視野が広がるなどの効果があったとのこと。
この現象を、《人手不足解消や収支改善》という経営の観点と、「本人の成長のための経験学習」という人材育成の観点とのバランスとして捉え直すと、こんなふうに見えてくる。
《レジや会場整理》といった仕事を「費用」として捉えると外部化(派遣社員、アルバイト)という方向性が出てくる。ところが、外部から労働力を調達できなくなったために《人手不足》が起こり、外部化した費用が肥大化してしまって《収支改善》が必要になった。
逆に、それらの仕事を、本人のスキルや関係性を積み上げる「投資」として捉えれば、内部化するインセンティブがはたらく。《複数の業務》を担うことは、経験学習の元手となる「経験」の量と質を高めることにつながるからだ。
「業務経験は本人の成長にとっての投資にあたる」という着想はもちろん、人的資本経営から来ている。
実際の仕事をつぎ込む(投資)ことで、本人のなかの資本を増やし、その資本によって次の成果を出していく。
さきほどは、《経営の観点》と《人材育成の観点》を、両者の間でジレンマを生む二律背反のニュアンスで取り上げた。しかし、人的資本経営というのは、両者が二律背反ではなくて、同じ方向を向いているものなのだ、と言っている(と、私は解釈している)。