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「複数の業務を担当する」という身近な人的資本経営

ある日の新聞記事から。

1人で複数業務導入増

道内の小売店やホテルなどで、1人の従業員が複数の業務を担当する「マルチタスク」を導入する例が増えている。
人手不足対策や収支改善を図れる上、従業員の視野が広がるなどのメリットも期待される。

札幌丸井三越(札幌)は2021年から、中元・歳暮の受け付けや各種催事のアルバイト雇用をやめ、社員がレジや会場整理などを担当している。
収支構造改革の一環で、各催事で30~40人分の人件費を圧縮。
贈答品や売り場に関する知識を備えた社員が対応することで、接遇レベルが上がる利点もあるという。

広報担当の薮喜代美さんは今夏、業務の合間を縫って中元の受け付けやデータ入力を担当。
「他部署の仕事や店全体への理解が深まって良かった」と話す。

(中略)

胆振管内白老町の「星野リゾート界ポロト」(42室)では、従業員49人が全員マルチタスクを行う。
主な業務はフロント、清掃、配膳、アクティビティ実施の四つ。
総支配人の遠藤美里さんも清掃や宿泊客の出迎えなどを担うといい、「若手も経営視点が身につき、意欲向上ややりがいにつながっている」と話す。
(後略)

マルチタスクを導入した当初の目的は人手不足解消や収支改善だったが、副次的な効果として、従業員の視野が広がるなどの効果があったとのこと。

この現象を、《人手不足解消や収支改善》という経営の観点と、「本人の成長のための経験学習」という人材育成の観点とのバランスとして捉え直すと、こんなふうに見えてくる。

《レジや会場整理》といった仕事を「費用」として捉えると外部化(派遣社員、アルバイト)という方向性が出てくる。ところが、外部から労働力を調達できなくなったために《人手不足》が起こり、外部化した費用が肥大化してしまって《収支改善》が必要になった。

逆に、それらの仕事を、本人のスキルや関係性を積み上げる「投資」として捉えれば、内部化するインセンティブがはたらく。《複数の業務》を担うことは、経験学習の元手となる「経験」の量と質を高めることにつながるからだ。

「業務経験は本人の成長にとっての投資にあたる」という着想はもちろん、人的資本経営から来ている。

これまで見てきたように、「人財」を財産(人的資産)として捉え、会計でいうバランスシートのフレームワークで再定義すると、その本質が見えてくる。

それでは、人財の定義をバランスシートに落とし込むと、どのようになるのかを見てみよう。

まずは、会社が初めて登記されるときには資本金が必要である。
資本金は、資本の部が資本金、資産の部が現金(預金)としてバランスシートに記載される。
その後、事業活動を通じて必要な負債を容認しつつ、資産を増大させ、結果として資本の部(利益剰余金)を増大させることを目指す。

「人」、例えば新卒社員なら入社当初はビジネス経験は基本的にはスタートラインではまっさらな状態だが、その後の実務や教育を通して自己成長への投資(負債)をしていくことで、スキル・経験・人脈といった資産を積み上げ、結果として内的資本(価値観、向上心など)を増大させる。

実際の仕事をつぎ込む(投資)ことで、本人のなかの資本を増やし、その資本によって次の成果を出していく。

さきほどは、《経営の観点》と《人材育成の観点》を、両者の間でジレンマを生む二律背反のニュアンスで取り上げた。しかし、人的資本経営というのは、両者が二律背反ではなくて、同じ方向を向いているものなのだ、と言っている(と、私は解釈している)。

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