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博士課程在学中の短期留学

博士課程在学中に短期留学に行きました。この記事を書くモチベーションは、「書きたい」が9割、「似た境遇の誰かの助けになるかもしれない」が1割です。


自己紹介

  • 大学院生(博士後期課程)

  • 専門分野:大きなくくりで機械工学

  • 学振:連敗

  • 好きな食べ物:ナス

短期留学の概要

  • 時期と期間:D2の夏、2ヶ月間

  • 行き先:ヨーロッパの地方都市にある大学

短期留学を決めるまで

自分が修士課程の頃に、ヨーロッパのある大学から研究室にポスドクの方(以下Aさん)がやってきて、年単位で滞在していました。研究室内でAさんと最も研究テーマが近いのが自分だったこともあり、Aさんとは日常的に研究の議論を交わしていました。私が博士課程に進学した後には、議論が新たな研究に発展し、共同で学会発表することもありました。Aさんが日本での任期を終えてヨーロッパに帰国した後もメール等で関係は続いていましたが、個人的に、Aさんと始めた研究はまだ発展の余地がある感触がありました。

そんな折、指導教員の先生に、博士課程学生に海外渡航の旅費を支援する表彰制度が所属研究科にあることを教えてもらいました。これに応募したところ、幸いにも渡航費の支援を受けられることになりました。

その後、Aさんのボスにあたる教授の方が講演のために日本に来る機会があると聞き、そこに出向いて「数ヶ月滞在させてください!お金はこっちで持ちます!滞在中の研究の下地もできてます!」とアピールしたところ、無事に許可をもらって短期留学が決定しました。

大学での手続き

渡航が決定した後の大学での手続きは、思いのほか時間がかかりました。もし似た境遇の方がいたら、できるだけ早急に手続きすることを勧めます。

旅費の支給に関する手続き

渡航前に、大学の事務に渡航計画と旅費の概算を伝え、旅費の支給の手続きをする必要がありました。航空便と宿(私の場合は現地の学生寮)が決まらないと金額を決定できず、なかなか手続きを進められませんでした。

安全保障輸出管理に関する手続き

私は輸出というと形を伴うものを思い浮かべますが、技術という無形のものも安全保障輸出管理の対象になります。つまり、日本の研究室で保有する技術を海外に持ち出す場合も、持ち出す先が安全保障の観点から問題ないことを確認しなければならないことがあります。私はこの手続きのために、大学の事務にいくつか書類を提出する必要がありました。

短期留学中の研究活動

これまでAさんと取り組んできた内容を発展させるような形で、新たに小規模な研究テーマを立ち上げました。研究テーマの中身は、私が自身の博士課程で用いてきた手法と、滞在先研究室が得意とする技術を組み合わせるようなもので、お互いの良いところを活かし合うようなちょうどいい落としどころを見つけることができました。

短期留学の間は、滞在先研究室の教員2人(Aさん含む)、博士課程1人、私を合わせた4人チームで研究に取り組みました。このメンバーでおおよそ週に1回ミーティングし、進捗の確認や方向性の議論をしました。実際に手を動かしていたのは、私と滞在先研究室の博士課程の2人で、1対1の小さいミーティングもよくやっていました。

行って良かったこと

行って良かったこととして最初に思いつくことの一つは、「研究のアイデアの着想〜データ収集〜解析〜議論」の一連の研究活動を、指導教員の影響下からはみ出して主体的に行えたことです。短期留学前の自身の研究活動を振り返ると、博士課程として主体的に研究するものの、ほとんどの活動が指導教員の影響下にあるように感じていました(※1)。これが悪いことであるとは思っていませんし、博士課程としてそれほど不思議なことでもないと思っていますが、それでもやはり、そこからしばらく抜け出して研究するのは良い経験であると同時に、とても楽しかったです。

また、英語能力の向上も実感しました。短期留学前でも、Aさんとは日常的に英語で話していましたし、それほど英語に苦手意識があったわけではありませんが(※2)、やはり短期留学中の議論を、すべて英語でやらざるを得ない環境に置かれたことの影響はありました。例えば、短期留学の終盤で、研究の成果をどのように論文投稿に持っていくかについて、2時間ほどの議論を自分が主導したときは、これは短期留学する前の自分にはできなかったことだと思いました。

※1 例えば、自身の博士課程の研究テーマの着想は、自分が考えた部分もありますが、源流をたどれば指導教員による部分があります。他にも、学会で発表して他研究室の方に挨拶すると、かなりの割合で「ああ!〇〇先生のところの学生さんね!」という反応をされることが挙げられます。

※2 英語に苦手意識はありませんが、自分が英語を流暢に話せると思っているわけではありません。英語のコミュニケーションは「気合」だと思っています。私と話すときにやさしい英語を話してくれる方々に感謝しています。

そのほかの良かったこと

滞在させてもらった学生寮で自分に割り当てられた部屋が、比較的高い階にあったのは良かったです。朝起きて良い景色が目に入るというのは、思いのほか心に良いものです。

学生寮の自分の部屋のシャワーからすぐにお湯が出るのも助かりました。シャワーから出てくる冷水がお湯に切り替わるのを待っている時間ほど虚しい時間はなかなかありません。

また、2ヶ月間海外で過ごすのは初めてだったので、「自分は日本を離れても生存できる」という自信が生まれました。もちろん、滞在中は受け入れ研究室の方々のサポートがありましたし、これが他の国になるとどうなるのかわかりませんが、ともかく自信がつくというのは良いことだと思われます。

行って良くなかったこと

数ヶ月間日本を離れたので、学会や興味があったセミナー、面白そうなイベントなどをいくつか諦めることになりました。オンラインで参加したものもありましたが、時差のため深夜に起きる必要がありました。これは渡航前にわかっていたことなので、この短期留学はこれらを捨ててでも行く価値がある、という判断をしました。

また、短期留学の間は、受け入れ研究室での取り組みに専念したので、博士課程のメインとなる研究テーマに取り組む時間はありませんでした。これが博士論文の進捗に及ぼす影響がポジティブかネガティブかは、判断が難しいところです。というのも、短期留学中の研究成果も、ストーリーの組み立て方によっては博士論文に組み込めそうだからです。メインの研究テーマの進捗が遅れたとも言えますし、メインの研究テーマの発展的な成果を一つ示せた、とも言えそうです。

おわりに

今回の短期留学の感想をまとめると、「心理的にゆっくりできた割には、研究としても進捗があって楽しかった」ということになります。ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。


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