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【週1エッセイ】 1本ずれれば別世界

今の職場は渋谷3丁目。渋谷駅の新南口あたりだ。

僕の中で渋谷は何か目的があっていくところ。目的もなくふらふらするまちではない。むしろ歩きたくもない。

そう思っていた。


とある日の仕事の昼休憩。
休憩になると僕はだいたい散歩に出る。職場で食事を取ることもできるのだが、そこにいるだけで何かと対応しなければいけないことが出てきて休憩が休憩ではなくなる。それを避けたいのだ。

その日は、少し遠くまで行きたい気分だった。
お腹もすいていたので、散歩中に偶然見つけたお店で適当にランチでも食べようと思って歩いた。

明治通りを恵比寿方面に進む。
大きな通りは車が多く、歩道でも自転車が歩行者の間を縫うように走り去っていく。彼ら、彼女らはスリリングなサイクリングでも楽しんでいるのだろうか。

危ないし歩いていておもしろくないので1本路地に入る。
そして僕は足を止めた。

人の多さ、何にそんなに急いでいるかわからないほど早歩きの人、危険な自転車。イライラ要素満載の散歩だが、1本路地に入るだけで目の前に広がる世界が違って見えたのだ。数分間その場に立ち尽くした。

築十数年は経っているであろう住居、少し前まで商店を営んでいたことがわかる寂れた看板、薄暗いクリーニング屋、錆びたママチャリ、倒れている子供用の三輪車、時折現れる築浅の一軒家、家の敷地から飛び出て電線まで届いている松の木、目的のカフェに来たものの定休日で引き返していく女性2人組、カツ丼を手で持って歩くおじいさん。

トラック、タクシー、乗用車、自転車がビュンビュンと過ぎ去る道路から1本外れるだけで生活感がダダ漏れの街並みに変わる。
これがこのまちのおもしろさか。そう思った。

少し歩いて、昔懐かしい雰囲気の洋食屋を見つける。店の前に置いてあるメニューを吟味して決めるわけでもなく、吸い込まれるように店に入った。

ランチメニューはオムライスやナポリタン、ハンバーグなどオーソドックスなもの。先客はおじさん2人組のみ。従業員と話している様子を見ると常連のようだ。昨今、テレビや新聞で流れてくる時事問題を斬りまくっていた。昭和レトロな洋食屋で時事問題を斬るおじさん。その光景が妙にしっくりきた。
この店を偶然見つけるまでに時間がかかったので、少々急ぎめにナポリタンを食べる。

いい休憩だったな。朗らかな気持ちで店を出る。

急に現れる生活感満載の別世界。
でもそれをおもしろいと思うのは、おもしろくない大通りがあってこそ。
大通りのおかけで、よりおもしろさが引き立つ。

帰りは大通りを歩いて職場に戻った。

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