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第一章-4-ストリーミングによる分配率変化(全文公開)〜『音楽業界のカラクリ』サポートページ

 ストリーミングサービスの普及により、ユーザーの支払った金額のうち音楽家に支払われる金額の比率は増加しました。これに伴い、レコード会社と音楽家の間の分配比率にも見直しが求められています。

●分配比率はストリーミングのほうが多い

 サブスク時代の音楽ビジネスについて議論するときに、1再生の金額がいくらになるかということが語られることが多いのですが、そもそも比較する対象が間違っている情緒的な議論が多いため、注意が必要です。
 「CDを買うと3000円だったのに、ストリーミン グだと一回聴いても0.1円にしかならない」というのはよく耳にしますが、CD時代には、ユーザーが何回聴いたか知ることができないので、1再生あたりの金額比較はそもそも不可能なのです。
 音楽ビジネス全体を生態系として捉えるためには、 楽曲を聴くためにユーザーが支払った金額の総額と音楽家側に支払われる金額の割合が重要です。CD時代 は、原盤印税は販売価格の12~15%(最大で20%程度)というのが業界標準でした。著作権印税は6%です。ストリーミングサービスでは、原盤印税は 五割前後、著作権については、12%が世界標準(増加傾向にあり英国では15%)になっています。
 Spotfiy は自社のサイトでユーザーが支払った金額 の三分の二を音楽家側へ分配しているとサイトで公式 に説明しています。音楽家側への分配比率は、CD時代に比べて2〜3倍に増えてい るのです。製造や物理的な流通コストがなくなっているぶん、コンテンツに対する分配率が上がっているという、当然の理屈なのですが、誤解した言説を見かけることが少なくありません。この機会に、正確な理解をしましょう。

●CD時代の経費を削減

 本文19ページのCDとサブスクリプションサービスを比較した円グラフをご覧ください。CDの製造費や 物流費、小売店の手数料といった、音楽家とは直接関係のない経費割合が大きかったことがわかります。言い方を変えれば、フィジカル時代はプラットフォーム の維持コストがデジタル時代と比較すると非常に高かったということです。
 CDビジネスは、レコード会社(とCD店)がビジ ネスにおけるプラットフォームの役割を果たしていました。デジタル時代には、生態系の中心でなくなったレコード会社の売上規模は下がりますが、ユーザーの支払金額からの音楽家や音楽そのものに対する分配率は高くなっているという当たり前の現実をしっかり理解しておきましょう。

Spotifyが説明する図

●市場はロングテール型に

 ビジネス的な課題として語られているのが、ストリーミングサービスからの分配額の少なさです。クラウド側のストリーミングサービスは、楽曲の品揃えによるコストは小さいので、事業者は膨大な楽曲を提供することが可能です。音楽に対するユーザーの嗜好は多種多様ですから、「どんな曲でもある」ことが両者の 希望になってきます。これが再生数の少ない=分配額の少ない楽曲が多数存在する理由です。CDやダウンロードの時代と比べても、ロングテール型の市場になるわけです。
 同時に、新しい楽曲がたくさん作られて、配信されるのは、第5章で詳述する「個へのパワーシフト」も大きく影響しています。音楽消費体験が環境変化によって、大きく変わってきているのです。
 サブスク時代で始まっている議論は、原盤権と著作権使用料(音楽出版権)の適切な比率についてです。一部では、バトルと呼ぶような論争になっています。原盤権が55~60%というのに対して、楽曲著作権の12%が少ないという音楽出版社と作曲者側の主張です。後述しますが、レコーディングの費用もデジタル化で著しく下がっていますから、著作権の比率を上げるべきだという主張にも理はあります。
 サービス事業者側にとって、音楽サービスはデジタル・サービスにしては利益率が低いサービスになっていて 、Spotifyの決算資料はいまだに赤字決算 が続いています。ユーザーが支払った月額料金をどの立場がどの割合を受け取るのが正当なのか、まだ結論は出ていません。
 いずれにしても、音楽ビジネスのプラットフォーム がレコード会社だった時代は、製造や流通という部分の売上もレコード会社に入っていました。デジタル配信になって、分配率が上がったときに、レコード会社と音楽家がどういう割合で分配するのが適切か、少なくとも従来の業界慣習を大きく変える必要があることは間違いありません。

CDビジネスとサブスクの分配率比較


モチベーションあがります(^_-)