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【追体験】後悔の陸前高田

目標は、47都道府県制覇!
旅行が好きだ。
だが、こんな目標を掲げるには抵抗も。。。
もう一人の私が無神経に耳を突き刺す。
「コンプリートが目的なの?」

た、確かに、、、旅行を楽しめているのか…?

ただ唯一、正当化できる持論。
発想の出発点が変わる。確実に変わる。

あの県には何もないから、と訪れることなく一生を終えたかもしれない。
でもそうではなくなる。

次はこの県に行こう。
まだ見ぬ土地に、果たしてどんな魅力があるのかな??


【第一幕】どっち!?
〜奇跡の一本松〜

ゾンビ

私が今立っているのは、岩手県の陸前高田市。
東北新幹線を一ノ関駅で降り、1時間ほどドライブして来たところだ。
そう、2011年、津波などの複合災害で甚大な被害が出た地区の一つだ。

進撃の巨人みたいだな。。
高い堤防が海を隠す。
堤防の上に立ってみた。

今日は嘘のように天気が良い。
どこまでも透き通った青い空。
風が気持ち良い。
見回すと、高い建物はなくのどかな空間が水平線まで広がっている。
多分、ここで写真を撮れば、ポカリスエットCMの主人公みたいに映ることだろう。

あぁ…平和だなぁ。

視線を移す。
目の前にそびえ立つ、一本松。

奇跡の一本松だ。

かつてこの地には…と言ってもわずか10年前だが、
ここに7万本の松が植えられていた。
思わず思考を巡らせてしまう。
なぜ1本だけ生き残ったのだろう。

高さは28mだが、根はたった1.5m。
よく流されなかったね、キミ。
運良く後ろのユースホステルに、波が遮られたか。
ホントよくもまぁ、元気に生きてるもんだ。
、、、と感心していたら、パークの人が教えてくれた。

ゾンビだよ、これ。

ゾ ン ビ?
えぇ~~っ!? 死んでるの?

保存するために枝を切断、幹を輪切り。
中身を抜いて、棒を突き刺した。
咲いているのは造花らしい。


市長の後悔

私が訪ねたのは、当時の陸前高田市長。
2月13日に市長に当選。
わずか1か月後。襲ってきた東北地方太平洋沖地震。
もしも自分が就任一ヶ月の市長だったら・・・?

正しいのは、どっち?
家族を探す or 公務に留まる?

この市には、市民がいる。
目の前には、職員がいる。
市長として、市役所を離れるわけにはいかない。

だが、父親である。

2人の子どもをピックアップし妻の無事を確認するくらい、車で10分もあれば行って来られる。
トイレにでも行くふりをして、誰にもバレずに帰ってこられる。

わずか10分。。。

それでも、市役所に留まることを決意した。
そして、後悔した。
行方不明となっていた妻と、4月5日に遺体として対面した。

1億5千万の使い道

市長の言葉で印象的だった。

災害を防ぐことはできない。
できるのは、後悔を減らすこと。それが減災。

元陸前高田市長の言葉

震災時は、決断の連続である。
ここで話はゾンビに戻る。
続いて迫られた決断。

一本松は、どっち?
剥製にする? or 処分にする?

7万本の松原の中で唯一生き残った一本松。
この松は、市民にとって生きる希望だった。

しかし決断は迫られる。
海水に浸かった影響で壊死。
放っておけば腐敗し倒壊の恐れも。

しかし、
死んでいる木を保存するには約1億5千万円が必要になる。

目の前には生きている人間がいる。
寒い。暗い。食料もない。情報も来ない。
そんな金があるなら、苦しんでいる市民を救ってほしい。

ここに、市長の後悔が蘇る。
減災とは、後悔を減らすこと。

今はどちらの選択をしても辛く苦しい。
非難は免れない。
それならば。
10年後、どっちがより後悔が少ないだろう。

陸前高田市など、日本で知っている人はわずか。
高齢化が進み、人口がどんどん減少している知名度の低い町。

一本松があれば。
奇跡の一本松を残せば。
日本中が、陸前高田市を覚えていてくれるかもしれない。

それを聞いて私も後悔した。
オブジェとなった一本松に、そんな希望があったなんて。
後悔した。
ゾンビと聞いて「えぇ~~っ!?」なんて思ってしまった瞬間を。



≪番外編A≫ 校長の後悔

あの日、中学校で校長を務めていた方にも会った。
思わず聞いた。

Q.最大の後悔は?
⇒A."生徒に津波を目撃させた"こと。

防災無線で「3mの大津波が来る」と知った。
チャンスだ!
3mなら5mの堤防を越えることは絶対にない。
学校は高台にあり、校庭からは海が見えていた。
良い機会だ。
防災意識を持たせるべく、全校生徒に津波を見せよう。

・・・数分後。

実際に来たのは3mなんてものじゃない。想像の2倍。
いや、3倍。
…でもなく、5倍。
15mの巨大津波が堤防を凌駕して町全体を飲みつくしたのだ。

後悔している暇はない。
町は浸水。避難場所は我が校のみ。

避難住民を合わせて、200名と共に夜を明かさなければならない。
リーダーのいない避難所で、リーダーと成り得るのは自分だけ。
ここの、学校長だ。

避難者は全員が各々不安の底にいた。
家を流された。
家族は無事なの?
これからどうすれば良い!?

教育委員会は、委員長と教育長、課長級以上が全員死亡で機能しない。
気温は-3度。
暖を取らなければならないが、
校舎はガス漏れ、体育館は鉄骨が歪み崩壊の危険。

一晩越すには、どっち?
気温-3℃の屋外? or 崩壊しそうな体育館?

いつ崩壊するかもわからない体育館で夜を明かすことを決めた。

年代別に場所を設けたり、薪や新聞で暖房を作ったり。
あらゆる容器に水を汲み、ろうそくで明かりを作る。

避難者には、どっち?
情報を提供する? or しない?

ラジオでは、
「日本が崩壊する」「陸前高田は全滅」
そんな情報が飛び交っていた。
避難者の動揺を減らすために、情報を提供しないと決めた。

こんな時、みんなでできることがあると良いだろう。
提案した。
一人一個、おにぎりを作ろう。

米を炊き、米を握り、米を食べた。
明日への希望のおにぎりだ。


【第二幕】どっち!?
〜命懸け市役所〜

判断と決断

ケンブリッジ大学の研究によると、人間は1日最大3万5000回の決断をおこなっているという。

おそらく、言葉が微妙に違うのではなかろうか。
"決断"ではなく"判断”だと思う。

判断は、誰にでもできる。

今日のディナーは、どっち?
オムライス? or ハンバーグ?

情報さえあれば誰にでもできる。
オムライスは1500円、ハンバーグは500円。なら値段を取ろう。
だけど、お昼もハンバーグだった。じゃあオムライスに奮発。
いやいやしかし、三ツ星レストランが今だけハンバーグ1500円。
じゃあ、ハンバーグにしよう! あ、でもブロッコリー苦手。
じゃあオムライス? だけど子どもが卵アレルギー。
よし、ハンバーグの方が良いだろう。

決断は、リーダーしかできない。

一本松は、どっち?
剥製にする? or 処分にする?

情報を集めても、判断がつかない。
どちらを選択しても、批判が起きる。
批判覚悟で決断する。
選んだ方を正解にする。
それがリーダー。

市役所

私が今座っているのは、陸前高田市役所の一室。
2021年5月に新庁舎が開庁。
おしゃれで綺麗。
最上階の7階には展望フロアがあり、街全体を見渡せる。

なぜ?

そう。なぜならあの日。
市役所は、沈んだからだ。
屋上まで、沈んだからだ。

職員443人のうち111人が、死亡・行方不明となった。
市の職員だって、津波が来たら逃げて良い。
いや、逃げるべきだ。
・・・だけど、
市民を置いて逃げて良い?
市民を置いて逃げられる?

残ったのは、泥に沈んだ旧市役所。
その他ボロボロになった様々な施設。
これらが震災遺構と呼ばれ一帯に残っている。
今壊せば、国が解体費を出してくれるという。

震災遺構は、どっち?
壊す? or 残す?

そんなの壊すに決まってる。
なにしろ、職員が111人も亡くなった施設だ。
あの場所で、家族が苦しみ泣きながら死んでいったのだ。
遺族は、連日連夜その市役所を見続けなくてはならないのか。
悲しみに暮れなくてはならないのか。

そんなの残すに決まっている。
なにしろ、111人の職員が命がけで守った施設だ。
あの場所で、家族が市民を逃し切るまで最期まで奮闘したのだ。
遺族は、二度と市役所に手を合わせることもできないのか。
意図も容易く取り上げられるのか。

判断ではない、決断のタイムリミットが迫っている。
壊すなら、解体費を国が出してくれる時までに。

市長は決めた。

減災とは、後悔を減らすこと。
10年後どっちがより辛く悲しいか。息苦しいか。

家族が死んだ遺構を見続ける方が遺族にとって辛いだろう。

市長は決めた。

死者の出た遺構は解体する。
死者が出なかった遺構は残す。

そう、市長は決めた。


≪番外編B≫ 校長の決断

一夜を越した。
朝が来た。
車は水に沈むと、一日中クラクションが鳴り続くらしい。
静かな町に至る所で不気味に鳴り響く。

避難所は移転。
そして、警察から要請が来た。
体育館を遺体安置所にしたい。

安置所要請は、どっち?
受け入れる? or 受け入れない?

将来、学校が再開したとき。
教職員、生徒、保護者はどう思う?
遺体を安置した場所で、元気に運動ができるだろうか。
雨の日に朝礼はできるだろうか。

今。
行方不明の住民はどう思う?

校長は、受け入れた。
そして体育館だけでは足りなくなった。

教室も、要請が来た。
特別教室を2つ、貸し出した。

さらに、要請が来た。
グラウンドに仮設住宅を建てたい。

仮設住宅建設は、どっち?
受け入れる? or 受け入れない?

運動場がなくなる。
じゃあ、野球部は? 

テニスコートは駐車場になる模様。
じゃあ、テニス部は?

既にグラウンドは、避難者が排泄物を埋め始めていた。
トイレは用意していても、制御しきれていなかった。

校長は決めた。

1日だけ待ってくれ。
今日だけは、中学生にグラウンドで思いっきり遊んでもらおう。

校長は決めた。

今日は最後の一日。思いっきり遊べ!!

そう、校長は決めた。


【帰り際】

陸前高田を後にする。
その前に立ち寄りたい場所があった。

米沢商会だ。
個人で残した震災遺構である。
屋上の煙突以外が水没した商店で、ご存命の米沢さんは煙突の上に逃げて九死に一生を得た。
市民会館に逃げたご両親は亡くなった。
公費で700万の解体費を賄えると言われたが、妻から「建物は一度壊したら戻せない」と言われ、残すことを決意したそうだ。

私は今、米沢商会の前に立っている。
海が近い。直線距離で1~2kmだろう。

米沢さんがおっしゃった。
震災前は町が発展していて、海なんか見えなかった。
だから海は遠いと思っていた。

ー ー ー

海を背に、一ノ関駅へと車を走らせる。
目まぐるしく蘇る言葉と情景。

校長は言っていた。
3mの津波なら大丈夫。

それもそのはず。
この地域で受け継がれている最大の津波は5m。
その時、堤防を越えてきた。
そして今は、5mの堤防がある。
津波が超えてくることはない。

なにしろ3mなのだから。

後日、YouTubeで震災時のニュース映像をいくつも見た。
どこでも言っていた。
岩手県、津波の到達予想時刻と高さ。3m。

ここで防災無線が切れたのだ。

動画を進めると、みるみる高さが上がっていく。
岩手県、到達予想時刻と高さ。5m。
…6m。
……10m。
・・・15m以上。

無線が切れているから、聞こえていないのだ。

ー ー ー

市長が語った。

一人ひとり「被災地」と聞いて連想する場所は違う。
災害は度々起きているので、いつまでも被災者ぶるつもりもない。
人口減少・高齢化が進む知名度のなかった陸前高田市。
こうやって交流人口・関係人口を増やしたい。

私は新幹線を待つ間、つい考え出してしまう。
もし明日、富士山が噴火したら?
首都直下や南海トラフが発生したら?

どれだけの後悔をしてしまうだろう。

ー ー ー

私が訪れた一番最初のきっかけは、
47都道府県制覇。

またしてもアイツが囁いてくる。
「コンプリートが目的なの?」

今度は私が、無神経にもう一人の私の耳を突き刺す。
「来て良かったでしょ?」



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