心の知能指数を鍛えよう〜ストレスケアとしての”許し”のステップ

心の知能指数ってなんでしょうか?

Intelligence QuotientがIQと略されるように、心の知能指数は、Emotional Intelligence QuotientでEQと略されます。

心の知能指数が高い人は、自分の感情をコントロールする能力が高いと言われています。また、他人の感情を察する能力も備えています。

つまり、心の知能指数は、他人の感情と自分の感情がぶつからないように他人とうまく付き合っていく能力のことです。

これまでに、他人とぶつかってしまったことがあるという人は多いのではないでしょうか。

特に、職場の対人関係で悩んでる人は多いように思います。

アメリカのビジネスマンは1週間に3時間、または1ヶ月に1日もの時間を職場のストレスや衝突に費やしていると言われています。

ドイツやアイルランドでは、ビジネスマンの10%が週に6時間以上も同僚との意見の衝突やその対応に時間を費やしているというデータもあります。

アメリカではこれらのコストは年間で、約35兆円、日数では385億日にのぼると見積もられています。

職場の対人関係が仕事の生産性にどれだけ影響するか、この数字を見れば一目瞭然ですね。数字を見なくても自分の体験として実感した経験をもつ人もいるでしょう。

上司が何も考えずに言った言葉で部下が威圧感を感じると自分の意見を遠慮するかもしれません。人によっては上司の評価を下げることに尽力するようになるかもしれません。あるいは、仕事に対する熱意を失ってサボるようになるかもしれません。もちろん退職を考える人もいるでしょう。

以上のようなストレスフルな状況を切り抜けるために、EQを鍛えることが有益だという知見があります。

EQの構成要素の1つにForgivenessがあります。日本語では、”許し”に訳されますが、”許し”は対人関係のストレスを緩和させ、メンタルヘルスも予防し、より良い心の状態へと繋がるというエビデンスがあるのです。

“許し”は、ネガティブ感情を解き放ち、わたしたちを傷つけた者に対してポジティブな思考や感情、行動を促進する作用があります。

さらに、”許し”を実践することで、友達や同僚のサポートが得られ、乗り越えるべき障害のハードルが下がるのです。

また、”許し”は、精神活動や認知機能の改善にも関連が示唆されています。

この”許し”を鍛える方法の1つに、”Forgive for Good”という方法があります。スタンフォードフォギブネスプロジェクトでドクターフレデリック・ラスキンによって開発された方法です。

日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカでは非常に称賛されており、戦争やワールドトレードセンターの9.11の事件で愛する人を亡くした人の心のケアとして活躍している方法です。

ドクターフレデリックが提唱する、“許し”の9つのステップも併せて、”許し”のエビデンスを紹介します。

〜”許し”の9つのステップ〜

以下は”ステップ”なので1から順に段階を踏むことをお勧めします。

Step1. 起こった出来事について自分の感情を正確に把握し、その出来事で何が良くなかったのかを明確にすること。信頼できる人にこれらの経験を話すこと。

Step2. 気分が良くなる行動をすることに専念すること。

Step3. “許し”は、加害者と必ずしも和解しないといけなかったり、その行動を受け入れないといけないわけではない。心の平穏を探すことに専念し、起こったこと全てが自分に原因があると受け取らない。

Step4. 起こったことを正しく認知すること。何が自分を傷つけたのか、ではなく、傷ついた感情や思考から生じる苦悩(心配事や辛い気持ち)を認識すること。

Step5. 辛くなった時にストレス反応を和らげる簡単な方法を知り実践すること。

Step6. 他人や自分の人生に期待しないこと。幸せを定義している自分のルールを認識すること。私たちはそれらを得るために尽力し希望を持つことができることを思い起こすこと。

Step7. 傷ついた出来事よりも自分の目的を達成するための他の方法に注意を向けること。

Step8. 自分なりに全力を尽くしてきたことを思い起こすこと。加害者を思い出して傷つけられた感情に注意を向けるより、自分の周りの優しさや愛を追求することを学ぶこと。

Step9. 辛かった出来事がメインのストーリーを”許し”という勇気ある選択をした自分がメインのストーリーへと作り変えること。

以上を繰り返し練習しましょう。

加害者やその行為に囚われずに、自分の感情の根底にある欲求を大事にし、愛や目標の達成などポジティブなことに注意を向けることが”許し”を実践するということですね。”許し”とは、加害者を許すのではなく、自分のために傷ついた自分を許すという過程のことだとわかりますね。

では、”許し”が健康にどのように影響するのか、1つの知見を紹介します。

〜”許し"のプロセスがストレス関連障害を最小限に抑える〜

2016年に健康心理学に関連する研究を扱う学術誌であるJournal of Health Psychologyに掲載された論文を紹介します。

Effects of lifetime stress exposure on mental and physical health in young adulthood : How stress degrades and forgiveness protects health.

P:米のリベラルアーツを専攻する中規模の大学キャンパスからリクルートされた148人の若年者(54%が女性)が対象者である。

EC:The Heartland Forgiveness Scale(HFS)に基づく“許し”特性が高かった人とそうでなかった人、The STRAINによるストレス評価が高かった人とそうでなかった人、また、ストレスד許し”特性の相互作用が高かった人とそうでなかった人のメンタル疾患との関連を評価。

O:強いストレスな出来事を経験した人ほどメンタル疾患と正の関連が強く、”許し”特性はメンタル疾患と負の相関が得られた。また、強いストレスな出来事を経験した人ほど”許し”特性と負の相関があった。より”許し”特性が高かった人ほどストレス疾患との関連性は弱かった。

ストレス評価では、11のライフ項目(生活環境・教育・仕事・健康・パートナー・性生活・経済状況・従順・死・人生を脅かす状況・所有)に分けて評価されています。

“許し”特性って何でしょうか?これはHFS(←こちらから質問表をダウンロードできます)を見ていただければわかります。

HFSは、ネガティブな状況下でその人がどのように反応するかをスコア化したものです。

つまり、”Forgive for Good”の9つの”許し”ステップを実践することで”許し”特性を高めることができます。

研究の結果でも示されているように、強いストレスな出来事を経験した人ほど”許し”特性が低いこと(”許し”特性が低いから出来事に強くストレスを感じたのか、という因果までは評価できませんが)から、9つのステップはこれを補うのに良いツールとなるかもしれません。

※ 英文は意訳しているので一部省略している箇所もあります

〜参考文献〜

Toussaint L, Luskin F, Aberman R, DeLorenzo A Sr. Is Forgiveness One of the Secrets to Success? Considering the Costs of Workplace Disharmony and the Benefits of Teaching Employees to Forgive. Am J Health Promot. 2019 Sep;33(7):1090-1093.

Toussaint L, Shields GS, Dorn G, Slavich GM. Effects of lifetime stress exposure on mental and physical health in young adulthood : How stress degrades and forgiveness protects health. J Health Psychol. 2016 Jun;21(6):1004-14.

サポート頂くと執筆時間が増えます。インプットしたものをこちらでたくさんアウトプットできるよう精進します。