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夫が地元・福岡にUターン。地方でもキャリアを諦めず、熊本と日本全国、海外をつなぐ女性社員

こんにちは。「竹の、箸だけ。」に、こだわり続けてきた、熊本のお箸メーカー「ヤマチク」です。純国産の天然竹を人の手で一本一本刈り取り、削り、「竹の箸」を作り続けてきました。

「地方への、夫の転勤に帯同しなければならず、仕事はどうしよう? 退職するしかないのかな……」「引っ越しをしても続けられるキャリアは?」

家族の転勤やUターンに伴ってキャリア変更を迫られ、不安を抱える女性は少なくありません。ヤマチクの社員として営業・SNS運用を担当している吉田真菜も、その一人です。

当時の交際相手(現在の夫)のUターンをきっかけに、2003年、出身である神奈川県茅ヶ崎市から福岡県久留米市に転居しました。

3社を経験した現在はお箸の取引先を訪問し、イベントや展示会で接客するほか、受発注管理、ヤマチク公式SNSの運用、イベント用のPOP作成など、幅広い業務に携わっています。

「仕事をやめることは考えなかった」と話す吉田。初めての土地で、どのように仕事を探し、働きはじめたのでしょうか?


交際相手のUターンにともない、茅ヶ崎から久留米に転居

吉田は、現在久留米に住んでいます。九州最大の河川である筑後川が流れ、多くの花の名所がある久留米では、久留米絣や籃胎漆器などの伝統工芸、足袋、スニーカーなどの暮らし用品が作られてきました。

久留米市の「高良大社」(撮影:吉田)

3歳から中学2年生になるまでは、家族の仕事の都合で、出生地の茅ヶ崎を離れ、シアトル(アメリカ)、茅ヶ崎、香港(中国)と、転居を繰り返し、その後は社会人になるまで茅ヶ崎で過ごしていた吉田。

久留米に引っ越したのは、当時の交際相手(現在の夫)が、久留米出身の実家の事業を手伝うことになったからでした。それまで縁のなかった土地へ行くことについて、吉田はあることを決めたといいます。

「もちろん不安もありました。結婚すれば、それまでの親元での暮らしからガラッと変わるだろうし、久留米でどんな仕事があるのかもわかりませんでしたから。でも、ある言葉を思い出しました。『何をするかよりも、どう生きるかが大切だ』。昔から親に繰り返し言われてきた言葉です」

「何も始まらないうちにイメージを膨らませすぎても仕方がない、その時に自分のできることを精一杯やろうと決めました」

希望はなかなか通らない……久留米での求職活動

吉田は2003年10月に久留米に転居した後、まず仕事を探しはじめました。得意な英語を使う仕事を希望していたものの、就職先はすぐには見つかりませんでした。

「地方では東京のように仕事の選択肢がたくさんあるわけではありませんでした。甘かったなと思います」

久留米市の風景(撮影:吉田)

そこで吉田は条件をゆるめ、まずは市役所の臨時職員として働き始めました。その1年後には割り箸や箸袋、紙おしぼりなど飲食店関連の消耗品を製造する会社に就職。事務職として勤務することになりましたが、まず最初にぶちあたったのが『言葉の壁』でした。

「方言がわからない。電話も聞き取れないし、製造現場で働くベテラン社員さんの言うことは90%理解できず、何度も聞き返して怒らせてしまったこともありました。コミュニケーションを取るのが本当に大変で、『やばい、英語を話すより難しい……』と頭を抱えました。今となっては笑い話ですが」

仕事に慣れていくにつれ、デザインソフトも勉強して自社サイトや販促物、展示会で使うパネルも作るようになりました。

さらに13年後には、藍染をはじめとする天然染めの会社に転職しました。営業として働く間に、手仕事への興味がどんどん育っていきます。

吉田が所有する手仕事のもの(撮影:吉田)

土壌となったのは、スタッフとして多くの展示会へ出向き、各地のものづくりに携わる人に出会い、自社で染色に触れる日々でした。

「それまで住んでいた場所には『その土地ならではのものづくり』に触れる機会が少なかったので、九州の豊かな土地からたくさんの手仕事が生まれていることが新鮮でした。個人的なプレゼントには、作り手の想いや生産背景を聞いたり調べたりして、共感できるものを選ぶなど、仕事としての関心に留まらず自分の生活にも取り入れるようになりました」

ふと見たお箸に一目惚れ。ヤマチクとの運命的な出会い

吉田がヤマチクに出会ったのは、天然染めの会社に入社してすぐに参加した、太宰府の「thought」という合同展示会です。そこで一目惚れしたお箸が、デビューしたばかりのお箸「okaeri」でした。

「展示会場入り口付近の一番目立つところに置いてあって、『かっこいいお箸だな』と目が止まりました。デザインはシンプルで無駄がなく、パッケージもお洒落で。さらに、手に取ってみるとびっくりするほど軽くて持ちやすい。『地域に根ざしてものづくりの営みを守る』というメーカーのコンセプトにも感動しました」

『okaeri』

その場ですぐにSNSをフォローし、「okaeri」も購入。この出会いからヤマチクに就職したのは、3年後のことです。

「仕事について改めて考えようと会社を辞めたタイミングで、求人をSNSで見たんです。業務内容も営業で前職と同じだったこともありますが、“あの”okaeriを作っているヤマチクの求人ということが応募の後押しになりました。『一員として働きたい、真摯なものづくりの現場に携わりたい』と思い、即応募を決めました」

無事に入社が決まると、ものづくりとは未来へつながる仕事なのだと改めて感じるようになったといいます。

ヤマチク社員の松原淑子。カップラーメンに使うと便利な「うら技箸」を開発

「手仕事ならではの個体差には魅力を感じるものですが、そこに甘えず、製造から検品まで気を配り、高いクオリティを追求する姿勢に感銘を受けました。作ったものを作品ではなく『商品』として流通させることで、竹を切る切り子さんをはじめ、ものづくりに関わる人達に還元する。こういう取り組みがあってこそ、技術を継承していくことができているんですよね」

日常のモヤモヤから生まれた「煮物名人」が、会社の商品に

実は吉田には、入社前から決めていたことがあります。それは、「ヤマチク社内デザインコンテスト」に参加すること。

「社内デザインコンテスト」は、ヤマチクの社員から、新商品のデザインを募集する取り組みです。年に1回開催され、社員なら誰でもエントリーできます。審査は考案者によるプレゼンを経て行われ、Youtubeの配信で誰でも見られるようになっています。

入社前に配信を見ていた吉田は、満を持して2022年、入社9ヶ月年目にして「煮物のための菜箸-煮物名人-」(以下、「煮物名人」)をエントリー。賞を獲り、商品化されたのです。

「煮物名人」の特徴は、形の違う両端それぞれを使い分けることによって、煮物をおいしくきれいに仕上げられることです。

細く研ぎ出した端では、ジャガイモや大根など根菜に刺して煮え具合の確認を。太い方の端ではやさしく煮物を持ち上げられるため、形が崩れてしまうことがありません。安定感があって、手が疲れないのもポイントです。

思いついたのは、自宅で肉じゃがを作っていたとき。煮え具合を確認したいのに、竹串が見つからないという体験がアイデアの元になりました。

「竹串の代わりになるものを探したんですが、菜箸では太すぎて、つまようじでは短すぎました。煮え具合の確認のために使い捨てるのも忍びなくてもやもやしていたとき、以前SNSで『#料理のハードル』というハッシュタグを見たことを思い出したんです」

改めてSNSを見ると、「竹串って他に使い道がないから家にない」「(レシピの)突然の竹串の登場に戸惑う」という声がありました。同じような悩みを持つ人の存在が、開発の後押しになりました。

「開発をいざ始めてみると、お箸を作ったことの無い私が形にするのは本当に大変で。試作の最中に作っていた箸先を折ってしまったこともありました。調理に必要な強度、使いやすい重心、長さなどを検討して完成するまで、他の社員に相談し、何度も力を借りました」

完成した「煮物名人」は、2023年6月の商談会でお披露目されました。手に取った方からは「主婦の味方」「竹串って、いざ欲しい時にないんですよね」「毎回使い捨てするの、モヤモヤしていた」と共感の声をもらったそうです。

久留米へ引っ越して、世界が広がり人生が豊かになった

久留米に来て20年、ヤマチクで働いて1年9ヶ月。これまでの自分自身を振り返り、吉田が今感じるのはどのようなことでしょうか。

「その場その時の環境の中で一生懸命やってきて得た経験が積み重なって、今になっていろいろな場面で活きているのを実感します。また、新卒のときには日本と海外をつなぐ仕事をしたいと考えていましたが、久留米に引っ越してきて、当時の自分にとっての日本は『東京』だったと気づきました。今は、久留米に住んで、熊本のお箸の会社で働きながら日本全国や海外と繋がっている。自分自身の世界が広がりました」

「コロナ禍の最中に入社したこともあり、今まで国内外のお取り組み先に伺うことができずにいました。これから日本から海外まで、できる限り足を運んで自分の目で見て、その土地の方々と直接お話する機会を作りたい。そして私たちのことを知っていただくとともに経験し得たことを、尊敬する作り手である仲間たちに還元したいと思っています」

久留米市全景(撮影:吉田)

自分の人生は豊かであると気づいたとも話します。

「小さい頃から転居を繰り返したこともあり、『自分の人生、根なし草みたいだな』と感じていました。地元に生まれ育ち、親子や姉妹で一緒に働くヤマチクのスタッフを見て素敵だな、と少しうらやましい気持ちになることもあります。でも今は、それぞれの場所や人との出会いが、自分を豊かにしてくれていることを知りました。自分の人生に少しずつ納得できる形になってきたと思います」

久留米に引っ越して来たばかりのときは辛いこともあったけれど、好きな読書をしたり、映画館に行ったりして自分一人の時間を作ることから始め、次第に音楽ライブやランニングを楽しんだりするようになったことから新たな出会いが生まれ、心に余裕を作ってくれたという吉田。

「不器用なので」と言いながらも、目の前に積極的に向き合い、新しい視点を取り入れていく姿勢が、パワーアップの秘訣のようです。

2023年夏に出展した展示会で。右が吉田。左は、新入社員の山田

ヤマチクには、ファクトリーショップ「拝啓」のスタッフとして7月に山田真莉奈が入社しました。11月に「拝啓」がオープンすれば、ヤマチク、熊本や九州、日本の内外から、たくさんの視点が加わるでしょう。

「ショップがオープンして、どんなヤマチクになっていくのか楽しみですよね」と目を輝かせる吉田の進む先には、どのような世界が待ち受けているのでしょうか。

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#ヤマチク

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