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111.深夜のアグレッシブ女子

イベントに遊びに行き、酒をたらふく飲んでその日のうちに最終で郡山から福島へ帰ってきた時の事。駅到着時刻は夜23:30。さっさと帰ってしまえば良いのだが、思考は酩酊状態にある。

【もう一軒呑んでから帰ろう】

そう心の中の己と堅い契りを交わし、知り合いのバーへ向かって寒空の下、颯爽と歩みを進めていた。その道中、駅前の多目的な広場的スペースがあるのだが、そこを歩いていると突然声が聞こえた。

『おにーさん!ライター持ってるー!?』

声の方を向くと若い女性が2人。辺りを見回すが人影は無く、そこには私しかいない。

『・・・?・・・俺?』

『そう!ライター無い!?』

だいぶ横暴な物言いである。まあ相手も酒を飲んでいるのだろう。大目に見るが基本的に目には目を歯には歯を、敬語には敬語を、タメ口にはタメ口でお返しする。

『あるけど何で?』

『タバコ吸いたーい!』

喫煙者として気持ちは痛いほど分かるが、10m先にコンビニあるんだからそこで買えよと思いつつ私はライターをそっと手渡した。

『はい』

ライターを渡そうとした所

『えー!火つけてよー!』

横暴な物言いである。だが私はあなたの鏡。目には目を歯には歯を。横暴な態度には横暴な態度である。

『何だお前。めんどくせえな。自分でつけろよ』

『ギャハハー!おにーさんつめたーい!』

アホ丸出しの会話である。

『いや、寒いから早くして』

ようやくタバコを吸えたその女は話しかけてくる

『これからどっか飲みに行くのー?』

『そうだ。俺はもう行くぞ。じゃあな』

私はバーに向かい再び歩き出した。少し進んで細い道に入ると今度は向かい側から

『山田さーん!』

男の声で呼び止められた。顔を上げるとそこには知り合いの男が立っていた。少し立ち話しながらさっきの出来事を伝えた。

『・・という事がそこの広場であったぞ。テンションおかしいからお前もあっち通るなら気をつけろよ』

『いや・・山田さん・・・多分それ逆ナンすよ』

『あ?逆ナン?・・ん〜・・んなわけねえだろ』

『いやー逆ナンだと思いますよそれ』

『へー・・・まあいいや、もう行くわ。ほんじゃ』

再びバーに向かって歩き出す。ようやくバーに到着した私は馴染みの店主に挨拶がてら先程の出来事を伝える。

『・・という事があそこの広場であったんですよ。失礼な奴らですよ』

バーの店主が口を開く。

『いや山田、多分それ逆ナンだ』

『ん・・やっぱそうなんですか?』

その場に居合わせた常連客の女性も口を開く。

『それ逆ナンですね』

『・・へー・・・まあいいや。とりあえず酒下さい』

という出来事があった。

確かにそう言われてみると、"ライター貸して"というきっかけを作り、その後に"どこか飲みに行くの?“という確認があった訳だ。逆ナンに思えなくもない。だが逆ナンだったとしてもあの横柄な態度はいかがなものだろうか。初対面であんな雑な絡みをするというのはどういった心持ちなのだろう。だが一方で、じゃあ下からお伺いを立てるナンパって何だ?とも思える。『そこをお歩きの若人様、手前に火付け石を拝借願えませんでしょうか?』などと口火を切られたら逆に警戒してしまうし『今宵、いずこかにお酒を嗜みになられるのでしょうか?』と言われてもそこから仲良くなれる気もしない。そう考えると横柄だと評したあの態度はあながち間違いではなく、ナンパとしては正しい方向性だと考えを改めた。

あれが逆ナンだったとして、あの時付いて行かなかった事に何の未練もなかったのだが、今思えばどうせなら口車に乗ってそのまま付いて行くのもアリだったかもしれないとも考えた。目的が金か酒か体か出会いか、もしかしたら美人局なのか分からないが、割と人の心理的動向に好奇心がある私にとってはどういうやり方で目的を達成しようとしているのか観察する絶好の機会だった様な気がする。次そんな事あったら付いて行くのもアリだと思いつつも、結局横柄な態度にイラついて悪態をついてしまう可能性もあるなあと、もどかしさに頭を悩ませている次第である。


という逆ナン騒動。実はこの出来事は前回前々回に記した腹痛とハシゴ騒動の前日の夜の出来事なのである。つまりはこの夜から翌日の夕方までの間に

【逆ナンされ、誰にも頼まれてないのに勝手に昼飯2軒行って、自宅で転んでウンコを漏らした】

という濃い目の時間を過ごしたのだ。改めて、出来事というのは外に出ないと何も起きないのだなあと感じた1日だった。

おわり

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