見出し画像

【文芸センス】岡本綺堂『雪達磨』④べらんめえ口調

 言葉使いも、その作品の世界観を形成する大きな要素のひとつです。

 この作品は江戸を舞台にしているので、今では落語などでしか話されることがない、いわゆる「べらんめえ口調」が目白押しです。

 「べらんめえ」とは「べらぼうめ」がなまったものだそうです。「べらぼうめ」でも十分、昔風な言葉使いですが、それに加えて短気で威勢のよい江戸っ子らしさが「べらんめえ」には宿っています。

岡本綺堂『雪達磨』

④べらんめえ口調

青空文庫 岡本綺堂きどう雪達磨ゆきだるま


「ねえ」

 「ない」を「ねえ」に変えるのが、べらんめえ口調の基礎文法です。

「どうだ、半七。なにか掘り出したか。しっかり頼むぜ。たちの悪い旗本か御家人どもの仕業しわざじゃあねえかな」

作品序盤

 もし「仕業しわざじゃあないかな」だと、まるで江戸の風情は出ませんし、行儀がよすぎて、弱々しく感じてしまいます。

「てえ」「めえ」

 同じ要領で、「たい」を「てえ」に、「まい」を「めえ」に変えてみましょう。

「いや、少し待ってくれ。まだ訊きてえことがある。一体この甚右衛門という男はなんの用で江戸へ来ていたのか、おまえ達はなんにも知らねえか」

作品中盤

「なんぼ土産にするといって、こんなに南京玉を買いあつめる奴もあるめえ。商売にする気なら、どこかの問屋からまとめて仕入れる筈だ。割の高いのを承知で、店々から小買いする筈はねえ。どうも判らねえな」

作品中盤

使いどころ

 べらんめえ口調は威勢がよくて、この作品では、とくに犯人を追い詰めるときに、真価を発揮しているようです。

「まだそんなことを云うか。おれが無理か無理でねえか、南京玉に聴いてみろ」

作品終盤

おわりに

 べらんめえ口調は、現代の作品ではなかなか使いにくいかもしれませんが、時代劇ファンのキャラクターであるとか、江戸からタイムスリップしてきたキャラクターを描く際に使うとよいでしょう。

 また、べらんめえ口調だけでなく、関西弁による鋭いツッコミや、沖縄弁による温かい励ましなど、方言の持つ特色を活かすことができれば、作品はより魅力を増すはずです。

 次回もよろしくお願いします。

この記事が参加している募集

#国語がすき

3,776件

Forever 19 summer vacation !