短歌72
定置網 抱き締め返してくれるかは意外と問題ではないらしい
縫った痕あるいは切り開いた痕の真横の虫刺され 生きている
大好きなあなたの記憶を書き留めて保ち続ける器でありたい
ネットミームだらけの花火が打ち上がりだけれどとても綺麗だった夏
折れ曲がる愛は金属 丈夫だし疲労もするしいつか壊れる
半ば意地でもう一度雲に隠れるまでを見ていた、月に限らず
寒冷紗 僕はというと僕の物真似が上達する一方だ
金木犀散らす大風の日などがあなたの誕生日にふさわしい
音楽で救われなかった人の作る音楽に救われて死にたい
その部屋の猫の置物 過去として君に残れることがうれしい
僕たちの間にあった言葉の腹の傷 君に詩を書かせたくない
無糖ミルクティー、悲しみを越えたって越えてきたそれはずっと悲しみ
順番に聴いてこそのアルバムだけどじゃなきゃ意味ないわけじゃないじゃん
蚊がたまに幸せを媒介しても気づかれないし許されもしない
消しかすは消し終えたかす私ってそんなに分かりやすい人ですか
今トーク画面を開いているのならわたしの逡巡が見えている
遠いのに綺麗なのに未だどの花火も宇宙には咲いていない
新作のパンのこと他人の言葉で言いたくなくて何も言わない
別に主語でも音量でもいいから大きい音楽が欲しかった
歩けるよ暗い夜ほど僕たちは二人のきずあとが光るから
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