うちの劇団の主催と演出家は仲が悪い。京王線沿いに住み、下北沢の芝居を浴びる程見て育った演出家と、流行に敏感で大手広告代理店で働いている主催のカササギとは常に衝突している。

 彼は演劇に興味がない。気にしていることは、客の動員数や黒字運営にする事だ。ふだんは営業で働くカササギは、提案型の営業が上手い。

 この前も座付きの脚本家に、エッセーを書いてみないかと話を持ちかけ強引に書かせた。彼にとって芝居は自身が取り扱う商品の一部なのだ。

 私の所属している劇団「西荻ビターズ」は西荻窪の小劇場を中心に年二回ほど公演をしている。今年で結成して三年目になる。演出家が昔、深夜ドラマに出てたおかげで四十人ほどの劇場は常にお客さんでいっぱいだ。

 劇団員はバイトのシフトの融通がきくコンビニでアルバイトしながら、プロを目指す者も居れば、社会人としてバリバリ稼ぎ土日しか稽古に来ない者もいる劇団だ。

 もうすぐ次回公演の稽古がはじまる。脚本家は深夜のファミレスで人しれずにパソコンを叩いていた。演出家は次の舞台のシーン作りの為に、劇団員と一緒にスタジオで即興芝居の研究をしていた。
 全員でスタジオを出ると携帯が鳴った。

「お疲れ」

相手はカササギだった。

「今、一人で飲んでいるけど皆こない?」
「稽古来いよ」
「…芝居の事とか分からんし、じゃあ待ってる」

 電話を一方的に切られ、演出家は傍の自転車を思い切り蹴っていた。

「死ね」

 いつもの居酒屋に行くとカササギの顔は真っ赤だった。彼は料理と酒を次々と注文した。劇団員が演劇について話し出すと酒が不味くなるから止めろと、不機嫌になりスマホを取り無言でスマホのパズルゲームをやり出し朝まで飲み明かした。

酒豪のカササギの飲むペースには誰もついていけず、劇団員達は一人残らず酔いつぶれた。

 しばらくして、脚本は完成し稽古場では立ち稽古が始り演出が少しづつ付けられた。

「この台詞早く言いたい」

 脚本を読んだ劇団員から喜びの声が上がった。皆楽しそうだ。

しかし、稽古期間中にカササギが稽古場に来る事は一度もなかった。連絡すると、仕事で忙しいと一蹴された。主催不在のまま、通し稽古まで進んだ。

「なめてる」

 演出家は激怒していた。小屋入りの日にカササギから挨拶があった。

「今回も皆様のおかげで全公演売り切れです。ご協力有難うございました」

 演出家はカササギの挨拶が終わると、音響さんや美術さんと一緒に煙草を吸っていた。

「進捗管理すごいっすね」
「チケット一番売ったんじゃない」
「芝居に愛がないけどね」

 彼は毎度、主催に対する不満を口にしている。初日公演が終了した夜に事件は起こった。満員のお客さんを見送った後に、関係者だけの打ち上げが設けられた。その席にはグラビアアイドルや女優、メディア関係者がいた。

「面白かったです」
「うちで特集組ませて下さい」

劇団関係者は新作の舞台を絶賛していた。酔いもまわりカササギは、よからぬ事を口走った。

「今回の話を考えたのは実は、僕なんです」

周りにいた劇団員は青ざめた。

「僕の考えた原作で脚本書いてもらいました」
「本当ですか?」
「今度私も出してください」
「是非。一緒にやりましょう」

 その場の空気に耐えられなくなった、脚本家と演出家は揃って店を出た。劇団員達も慌てて二人を追いかけた。カササギは上機嫌で酒を飲んでいた。

「すみません。おかわり下さい」

 千秋楽が終わり、演出家と脚本家から退団する話しがあった。カササギは血相を変え止めたが、二人の決意は固かった。

「次回公演の予約も入ってるのに、どうすんだよ」

カササギの声は震えていた。

「お前が書けば?」

 こうして、演出家と脚本家の退団後に劇団員達も全員辞めた。やがて、劇団「西荻ビターズ」は解散した。

(了)

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