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メイの話

メイは若い頃飼っていた雄の猫だ。
職場の猫好きの田口さんという女性からもらった。
まだ生まれたての子猫を、洗濯ネットに入れてきて、喫茶店で貰い受けた。
尻尾が鍵の形に曲がった、いわゆる『鍵猫』、幸運を呼ぶという猫である。
地下鉄で、みんなにジロジロ見られながら、家まで連れ帰った。
メイは本当にまだ子どもだった。
部屋で私が上半身裸で寝ていると、親だとでも思っているのか、胸やら背中によじ登ってきて、いくら払いのけても、それを繰り返す。
上半身がメイの爪で傷だらけになった。
たまりかねて田口さんに電話をしたところ「爪は切ってやってるの?」との事だった。
迂闊にもそんなことも知らなかった。
また夏の暑い日のこと、メイを部屋に残し仕事へ行って帰ってきたら、飲み水を入れた容器は空っぽで、メイは脱水症の様になってヨタヨタしていた。
もし帰るのが遅くなっていたら大変なことになっていたかもしれない。
子供だったメイは遊んでやると、怪しい目をしてはしゃいだ。
仕事から帰ると甘え、足に擦り寄りゴロゴロいって餌をねだる。
食べ終わるともう知らん顔だ。
この頃、仕事は上手くいくし結婚を約束した女性もいて幸せな時期だった。
メイが大人になってきた頃、久しぶりに田口さんから電話がかかってきて、「メイをそろそろ去勢しないと飼えなくなるよ」と言われた。
手術のためにメイを一時的に田口さんに預けることになった。
二週間位して帰ってきたが、田口さんが別の猫を返したのではと思うほど、メイは変わり果てていた。
毛艶は悪いし、あちこち円形脱毛がみられ、拗ねた目をした猫だった。
家に帰ってきても、テレビの隅に隠れて出てこない。
田口さんによると、飼い猫達の中で、雄のボス猫がいて、それにいじめられたとのこと。人間と同じだ・・・
しばらくするとまた元のかわいいメイに戻ってホッとした。
その後結婚し、引っ越すことになった。
引越し先で猫が飼えないため、田口さんに相談したところ、引きとってくれることになった。
メイを送っていく車の中で、メイは確かにしゃべっていた。
何か訴えていたのだと思う。思い出すと今でも胸が痛む。
それから長い年月が経ち、いろんな事があったが、現在も幸せだ。
メイの写真がずっと見守ってくれている。

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