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サッカー日本代表をコンセプトから振り返ってみると


キャッチフレーズは成長のアイコン

これまでサッカー日本代表は、チームのコンセプトやビジョンを表すキャッチコピーが付けられてきました。このキャッチフレーズは、その時のチームの目標やアイデンティティを反映するものなので、サポーターやファンへのメッセージを伝える役割も果たします。以下はいくつかの代表的なキャッチフレーズの例と、それらがどのようにコンセプトの視点から振り返られるか考えてみました。

問題・課題の解決

以下の代表チームに付けられたキャッチフレーズは、サッカー先進国のスタンダードのスキルで、それが不足していることを意味していました。今改めて振り返ってみると驚きの内容です。

ハンス・オフト(1992-1994)
アイコンタクト、トライアングル、スリーライン

Jリーグの発足前で、代表選手の技術や国際経験が完全に未熟な時代です。そのため「アイコンタクト、トライアングル、スリーライン」の理解と実践を念頭に置かれています。このコンセプトは、現在は小学生から理解と実践の徹底が図られるので、当時のレベルが伝わってきます。

加茂周(1994-1997)
ゾーンプレス

味方との距離感をコンパクトにして相手選手にプレッシング(プレッシャー)をかける戦術です。この頃から1人の天才の「個」ではなく、優れた個が集まった「組織」の力が必然となってきました。しかし、まだ日本の選手や指導者の海外経験が無いため「ゾーンプレス」の理解と実践も不十分でした。これも今となっては当たり前の概念ですね。

イビチャ・オシム(2006-2007)
考えて走るサッカー、ポリバレント、運動量、日本らしいサッカー

日本人の俊敏性と規律性の高さを活かすには、「各選手が試合の展開を読み、状況に応じたポジショニング、そのためのインテリジェンスと運動量で日本の良さを高める」こと。オシム監督は、弱みを解決しながら強みを伸ばしていく教育者でした。

ヴァイッド・ハリルホジッチ(2015-2018)
デュエル、縦に早く、セカンドボール

ハリル監督は、デュエルで競えて、縦に素早く展開して、セカンドボールを拾えるチームづくりをおこなっていました。これはジーコとザッケローニがW杯敗戦の原因を日本代表のフィジカル不足と展開力遅さ(バックパスと横パスの多さ)と指摘したように、これまでの代表チームの大きな弱点となっていました。ハリル監督の「強さ、速さ、適切なポジショニング」は、それまでの代表チームが避けてきたように感じるテーマに映りました。

「見える化」で成長の共通認識

以上のように、現在の森保ジャパンでは考えられない問題・課題が多く存在していました。これらのキャッチフレーズは、代表チームの「見える化」です。日本サッカー界の興味深い特徴として、例えばJリーグのチームは代表のテーマを意識したチームづくりをする傾向があります。日本代表のコンセプト、目標、問題・課題をクラブチームが取り入れることで成長の共通認識ができ、日本のサッカー界全体の底上げにつながっています。

「理想と現実 - やりたいこととやれること-」

反対に、時計の針を止めてしまったケースもあります。

ジーコ(2002-2006)
黄金世代、自由、個性
制約が多かったトルシエ前監督と比べ、ジーコ監督は選手を戦略戦術に縛るよりも、選手の自主性を重んじた自由で創造的ななサッカースタイルを奨励しました。特に黄金世代と呼ばれる中盤の選手に大きな期待と注目が集まりましたが、最後までチームのスタンスや戦術が欠如していたことで、十分な成果を上げることはできませんでした。

ザッケローニ(2010-2014)
自分たちのサッカー、ポジショニング

当時のスペイン代表やバルセロナのようなパスとポジショニングでゲームをつくる「自分たちのサッカー」を掲げました。日本のサッカー界に新しい可能性を見出すかと思われましたが、このスタイルに固辞するあまり相手国に対策を立てられ、W杯で思うような成績を収めることができませんでした。

概念が「見えるor見えない」の差はとても大きい

コンセプトに整えてみると、前章のキャッチフレーズは「代表チーム=成長」に求められる現実を表し、当章の「自由、個性」「自分たちの」は「選手個人=自己実現」が求める理想を表していると言えます。これは、前者は成長に求められるものを「見える化」したのに対して、後者は抽象的・主観的で人によって解釈が異なる「イメージ」です。そのため「見える化」した概念は、定義できる要件をクリアすれば結果や成果を判断することができます。しかし、「イメージ」を理解して共有するための定義と要件を定めていないと、代表チームの行動、結果、成果を評価することは難しいです。そのため、後者の代表チームのようなコンセプトは、大会で記録を残すこと以外に評価する手立てがありません。

まとめ

結果・成果を残している日本代表は、特にキャッチフレーズがありません。岡田監督と森保監督はチームに求める理想を掲げつつ、現実的なマネジメントをおこなっています。それは、2人の監督は現実的なアプローチを重視し、目にみえる結果・成果を求める方針を採っています。結果は勝利、決勝トーナメント進出、優勝などで、成果は得失点、試合内容、選手選考など「理想を実現するための現実」をきちんと描いて決断実行したリアリストです。

今後、日本代表が新たなコンセプトやアプローチを明確にし、それをキャッチコピーとして表現する可能性は十分あります。チームの価値観や方針がより明確に共有されることで、代表チームとサポーターやファンとの結びつきが一層深まることでしょう。キャッチフレーズは、チームのアイデンティティを表現し、共感を呼び起こす重要な要素として機能します。

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