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イルカに会いに島へ行こう~鳥羽への旅


イルカとの出会い

 私のイルカとの出会いは、遙か昔、保育園の親子遠足まで遡る。地元の水族館に遠足に行った私は、そこで人生で初めてイルカショーを見た。ショーのプログラムの中に観客の一人がイルカと握手できるというものがあった。恥ずかしがりやでシャイだった私は控えめに手をあげていたが、隣にいた母は私が興味津々であることを察知したのか帽子を振って猛アピール。残念ながら私よりも少し前の小学生が選ばれ、プールサイドでイルカと握手していた。それを指を咥えて見ているしかできない私。ここから私のイルカ好きは始まった。自由帳にジャンプするイルカを山ほど書き、ピンク色のイルカが活躍するドラえもんの映画のビデオをすり切れるほど見、イルカのぬいぐるみを買ってもらったかと思えば学校の工作でそのぬいぐるみを住まわせる部屋を作った。

イルカに会いに行こう

 それから数十年。新型コロナウイルスが大流行する少し前、全国旅行支援がまだまだ盛んだった二〇二〇年の夏。私はパートナーと旅行先を探していた。そこで見つけてしまったのだ「イルカ島」という名前を。
 三重県の鳥羽湾にイルカ島と呼ばれる小さな島があり、そこでは名前の通りたくさんのイルカがいて、だれでもイルカと触れあうことができると言うのだ。あのとき触れなかったイルカに触れる。そう思うだけで、もういい大人だというのにわくわくが押さえられなかった。

ペットボトルのキャップで作られた看板

 旅行当日。とにかく暑い日だった。島の船着き場に降り立つ。施設の中に入って真っ先に目に入ったのは大きなプールとプールにあいた窓。プールの中で泳ぐイルカを観察することができるようになっていた。青緑色の水槽を優雅に泳ぐイルカたちが真横を通り過ぎていく。私はイルカに目が釘付けになった。

イルカの見える窓



 このイルカたちに触れるんだ。どんな感触なんだろう。固いのかな、柔らかいのかな。胸が高鳴っていく。
 イルカに触るためには、「イルカタッチ」というプログラムに参加する必要があったので、券売機でチケットを二枚購入。たったの一人八〇〇円でイルカに触れるなら安いもの。チケットを握りしめ待機列に一番乗りで並んだ。

 時間になるとプール横の待合室に呼び出された。そこで「荷物はすべてここに置いておいてください。ポケットの中身も、つけている腕時計や、ポケットの中のスマートフォンも全てです」と言われた。ポケットの中身も? そこまでするってどういうこと? プールから頭を出したイルカにタッチするという風景を想像していた私は、そこまでする必要があるのかな? と混乱しながらも言われた通りに準備した。
 備え付けの長靴に履き替えるとついにプールサイドへ。案内されたのは、プールの水面に飛び出した桟橋のような板の上。一歩でも踏み外したら水深2、3メートルはありそうなイルカプールに真っ逆さまに落ちてしまうような場所だった。私、パートナーと親子の四人で板の上に並ぶとついに待ちに待ったイルカの登場である。

対面

 我々四人の目の前にイルカが重たい身体を持ち上げて上ってきた。飼育員さんからイルカの紹介と説明を受ける。初めて間近で見るイルカ。ちょっと流し目の瞳。ところどころ傷やしわの入った黒く分厚い皮膚。私たち四人を品定めするような余裕な表情でどしんとそこに横たわっている。おそるおそる手を伸ばして皮膚に触れた。すごく分厚く固い。例えるなら、丈夫で真っ黒なタイヤのようだった。
 私とパートナーと親子の子供の三人は、遠慮なくイルカの皮膚をなでなでぺたぺた触っていたのだが、子供の母親はイルカが怖いようで手を伸ばしてもなかなか触れることができずにいたようだった。イルカは賢い。それを察知したのか、母親が手を伸ばして触れるか触れないかの距離になったときに身体を震わせて母親を驚かせた。イルカは人間の反応を見てケラケラ笑っているようだった。

 地元の水族館でイルカを見ると、いつも彼の愉快そうな顔と分厚い皮膚の感覚を思い出す。この感覚を忘れないうちに、またイルカに会いに島へ行きたいと思っている。

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