なつ みかん

元進学塾講師。中学受験生を中心に教えていました。今は駆け出しの作家。気まぐれ更新。たま…

なつ みかん

元進学塾講師。中学受験生を中心に教えていました。今は駆け出しの作家。気まぐれ更新。たまに覗いてください

マガジン

  • レトリックの練習帳

    レトリックの練習のために書いた文章をまとめています。エッセイだったり、フィクションだったり、ショートショートだったり…… どのレトリックを使ったのか予想しながら読んでみてください。

  • センセイの日常

    進学塾のセンセイだったときの日常を書いていきます。受験ノウハウではなく、私がセンセイとして考えたこと、感じたこと、出会った人たち、子どもたちについてをまとめていけたらいいなぁと思っています。 塾のセンセイってどんな生活してるの?何を考えてるの?ということに興味がある方は気楽にのぞいてみてください。

  • 四百字日記

    気まぐれで始めた四百字で書いた日記みたいなものをまとめています。

最近の記事

私と牡蠣

牡蠣は私の唯一最大の敵である。  元々は大の好物であった。網の上で焼き、少し火の通ったところで食べる牡蠣はなんとも言えない塩味で、口の中でとろけ私へ幸福を運んでくれた。新鮮な生牡蠣は所謂「海のミルク」。一度噛むと広がるクリーミーな味わい。缶の中で蒸し焼きにしたものは言うまでもない。鍋にするのもいい。冬になり、おいしい季節になると、このチャンスを逃すまいと手を伸ばし食べたものだった。  それがなぜ敵へと変わってしまったのか。あれは旅行先で牡蠣のバター焼きを食べた夜のこと

    • 髪を切った日

      髪を切った。それはもうばっさりと。 隠れていた耳は上から下まで観察できるほどはっきりと姿を現し、切りっぱなしで特に手入れもされていなかった眉毛も隠れる場所を奪われた。足下にはいくつもの黒い小高い山ができた。この山がついさっきまで私であったと思うと不思議なものである。さっきまで私とつながって存在していたものが、今はもう別の何かになってしまった。小高い山はほうきで払われ別の誰かが作った山達とどこかへ片付けられてしまった。残ったわずかな髪の毛達は心許なさそうに頭の上で肩を寄せ合って

      • 深夜の渇き

        真夜中の金曜日。帰宅後の眠気に耐えられず、着替えだけを済ませてベッドに潜り込んだ私は、深夜に目覚めた。そんなにたくさん眠る気はなかったので電気はつけっぱなし、エアコンも元気に温かい空気を吐き出し続けていた。 喉が渇いた。お茶を一口飲む。それでも気持ちは収まらない。なにかシュワシュワとして、さっぱりしたものが欲しい。でもこんな真夜中にでかけていいものか。カロリーを取ってもいいものなのか。 渇きを満たしたい欲望と、少しの理性とが戦って欲望が勝った。そういえば隣のアパートに自販機

        • 冬の晩ご飯

          寒い日には鍋を食べる。気温が低い日だけでなく、心が疲れさみしくつらく冷え切った日にもよく鍋を作る。 鍋は良い。何も考えずに作ることができる。冷蔵庫にある野菜をちぎって入れる。マイタケも同じようにする。冷凍されたお肉があればそれもちぎって入れる。何もかも混ぜてぐつぐつ煮る。 幸い一通りの調味料はそろっているので、鶏ガラスープの素とか、酒醤油みりん砂糖を適当に入れたらそれなりの味になる。キムチがあればそれとコチュジャンを溶かしてキムチ鍋にしたりするのもよい。 洗い物は自分の手

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        • レトリックの練習帳
          7本
        • センセイの日常
          17本
        • 四百字日記
          7本

        記事

          花粉症の季節

          今年もまた花粉症の季節がやってきた。私に現れるアレルギー症状は、まるで溺れているかのようである。 腫れた鼻腔は空気の通り道を封鎖し、その奥から止めどなく流れてくる水が防波堤を破壊し尽くす。たまらず口を開けて息継ぎしても、満足に空気は吸い込めない。視界はぼやけて、ゆらゆらと水面が揺れる。酸欠の私の意識は遠のき、水の中へと沈んでいく。 そんな私を助けてくれるのは、溜まった水を流れ出してくれる魔法の液体。鼻の奥にノズルを差し込み数回それを吸い込むと、ひときわ大きな津波が起こる。

          食後のまどろみ

          余暇に取る午睡ほど心地よいものはない。特に、起きる時間が決まっておらず、目覚めてから何かを慌ててする必要のない時などは言うまでもない。 仕事から帰り、食事を済ませるとよく眠気に襲われる。以前は、太ってしまうのではないか、寝ている時間に何か有意義なことをするべきではないかと思い悩んだり、寝てしまった自分に自己嫌悪したりしていた。 だが、自己嫌悪するくらいなら寝てしまってもいいかと思えるようになってからだいぶ気持ちが楽になった。 食後の眠気に任せて布団にくるまる。黄金のまどろ

          食後のまどろみ

          頭の上の小さな宇宙

          雨の帰り道。坂道を下って家路へ急ぐ。雨に濡れないように上着を着込み、両手でしっかりと握った傘で顔まで隠して早足に。見えるのは交互に動く私の靴。みぎひだり。同じ靴でも、靴紐のゆがみや足先の汚れやべろの形が少し違う。水を蹴飛ばしてしずくが跳ねる。 一瞬ぱっと足元が照らされた。それは轟音と水しぶきを残して走り去る。照らされたそのとき、青い空が地面に映し出された。傘を越しに空を見る。何もない。真っ暗な雨の曇り空。 靴の先とズボンを濡らしながらまた歩く。時々頭の上から光が振ってくる

          頭の上の小さな宇宙

          「なんで漢字を覚えないといけないの?」への私なりの答え

          塾講師だったころの思い出を細々とつづっています。 中学受験のクラスでは、どの学年にも漢字テストがあった。毎週範囲が決められ、授業内でテスト。その場で答え合わせをして、間違い直しが宿題。月末になるとその月行った漢字テストから必ずいくつか出題されて、そこでも点数がつけられる。 暗記が得意な子であれば、漢字は得点源なので喜んで書くのだが、必ず苦手な生徒もいる。算数の計算をするのや戦国武将を覚えるのは好きだけど漢字をただ覚えるのは嫌い。めんどくさがりで何度も漢字練習したくない。字が

          「なんで漢字を覚えないといけないの?」への私なりの答え

          スピッツに救われた日

          17歳の夏。何もかも上手くいかず、死ぬのは怖いけど生きていたくない、消えてしまいたい、でも私がここにいたというしるしはこの世界に残したい。そんな矛盾した思いでがんじがらめになっていた頃、「今の君はスピッツの猫になりたいみたいだね。ぜひ聞いてみるといい」とすすめてくれた人がいた。 これが私とスピッツとの出会いだった。こんな鬱屈した気持ちを持って生きているのは私だけじゃない。「消えないように傷つけてあげるよ」その歌詞に救われたような気がした。 それから十年と少し。20代も終わ

          スピッツに救われた日

          2024年 波乱の幕開け

          1月1日。私は新潟の海の近くの街にいた。 生まれ育った実家に戻り、久しぶりに両親、妹弟、祖母、愛犬の家族みんなでのんびりとした夕方を過ごしていた。 前の晩、1日に出かけるかどうか実は家族で揉めていた。お寺に新年の挨拶に行かないとという父と、2日に行っても別にいいじゃんと言う子供達とでちょっと険悪な感じになっていた。 結局父はお寺に行き、帰ってくるのが遅かったのもあって、待ちきれなかった弟がドライブに行き、残った家族はもういいよとどこに出かけることもなく家の2階でテレビを見な

          2024年 波乱の幕開け

          イルカに会いに島へ行こう~鳥羽への旅

          イルカとの出会い  私のイルカとの出会いは、遙か昔、保育園の親子遠足まで遡る。地元の水族館に遠足に行った私は、そこで人生で初めてイルカショーを見た。ショーのプログラムの中に観客の一人がイルカと握手できるというものがあった。恥ずかしがりやでシャイだった私は控えめに手をあげていたが、隣にいた母は私が興味津々であることを察知したのか帽子を振って猛アピール。残念ながら私よりも少し前の小学生が選ばれ、プールサイドでイルカと握手していた。それを指を咥えて見ているしかできない私。ここか

          イルカに会いに島へ行こう~鳥羽への旅

          kakunoで描いてみた

          久しぶりになぜか万年筆を使いたい気分になった。たぶん、インスタで「kakuno」の投稿を見かけたからかもしれない。 「私も持ってるじゃん、インクもまだまだたくさんあるじゃん」と思い出し、インクを入れ替え、ペンを走らせた。 インクの濃淡が、すらすらと書ける書き心地がなんとも心地よい。書きたい内容は思いつかないけど、とにかく真っ白いページを文字で埋めていくのはなんとも言えない気持ちよさがある。 明日にはもう飽きて書かなくなるかもしれないけれど、インクは消えずに残り続ける。いつ

          kakunoで描いてみた

          誰のために文章を書くのかー自己紹介に代えて

          進学塾の講師だった頃の思い出や、これまでの人生の思い出、日々の出来事などを短いエッセイとして細々とつづっています。 noteでは基本的にエッセイを投稿していますが、本当は小説家になりたいただの会社員です。自己紹介に代えて、少し私の考えを残しておきたいと思います。 少なくとも私は、小説もエッセイも読者のために書いています。ただし、一番の読者は私自身です。この「私」は五分後の私かもしれないし、ずっと先の年老いた私かもしれないし、過去のいつかの私かもしれません。 私が文章を書くと

          誰のために文章を書くのかー自己紹介に代えて

          妹への懺悔

          三つ下の妹がいる。姉の私が言うのもなんだが、見た目も美人で健気で、努力家でいい子である。妹とは大人になった今、仲良く愚痴を言い合ったり、一緒にでかけたりする関係であるが、子供の頃はけんかばかりしていた。  あれは高校生の頃だったか。どういう経緯ででかけたのかもう覚えていないのだが、二人でショッピングモールに出かけた日のことだった。お昼時。どのお店も混んでいて、お昼ご飯はどうしようと悩んでた。なぜそのときイライラしていたのか、何にそんなに腹を立てていたのか全く覚えていないのだが

          センセイの初めての授業

          センセイの初めての授業

          センセイの月曜日

          塾講師だった頃の思い出を細々とつづっています。  センセイも人間なので休みが必要です。日曜日と月曜日が基本的に休みでしたが、日曜日は出勤日だったり、休みだとしても授業の「予習」をして過ごすことが多かったので完全な息抜きとしての休みは月曜日でした。  月曜日の街はどこも空いていて、世間の人たちが慌ただしく働いているのを横目に、気ままに街を歩いたり、繁華街に出てデパートをうろついたり、平日料金で少し安くなったカラオケに行ってストレス発散したり、映画を見たりしてすごしていました

          センセイの月曜日