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センセイの初めての授業

 初めての授業の機会は突然やってきた。一コマだけ、小学生への英語の授業。同じ文系の新人教師だけが集められ、「土曜日の一コマを代わりに担当する人を今決めます」と言われた。チャンスだ。まだやる気に満ちあふれていた私は、お手本で見せられた授業を必死で真似した。その結果、「一番授業を再現しようという姿勢が見られた」という理由で思惑通り私が選ばれた。
 
 選ばれたはいいが、その日は朝から緊張していた。生徒の前に初めて立った時、生徒も私もカチコチの表情だったのをよく覚えている。
 授業の内容としては月の最後で、その月学んだ英語の表現を使って自己紹介だか好きなものだかを紹介する文を作ろうという簡単なものだった。その月出てきた例文を復習で声を合わせて発音する。最初はみんなぎこちなく、静まりかえった教室だったが、だんたんと声が出てきた。盛り上げようとしてくれる生徒もいた。

 授業の最後に、作った文を発表し合う時間になったとき、それまでずっとぶすっとした顔で一番後ろに座っていた男の子が、真っ直ぐに手を上げ、つっかえつっかえ文章を読み上げてくれたときの驚きと喜びを私は忘れることはないだろう。

 あの日、授業を作り上げたのは私ではなく、子供達だった。

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