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半径50センチの宴(2023.08.22)

夕方、義両親がこの前の初盆会で各方面から貰った色んなもの、そして生鮮食品類を持ってきてくれた。はるばる佐賀関(大分市の東端)から。

義両親が玄関に到着するや、大慌てで食事用の椅子から降りようとする長女(3歳)と次男(2歳)。居ても立ってもいられないという様子だった。

ちょうどその時、子どもたちは夕飯のカレーを食べ始めた時だったのだが、食事は中断。彼らにとってのパーティーが始まった。

長男(7歳)はそのへんしっかりしており、義両親が来る前にしっかり食事を済ませていた。えらい。

ポメラニアンの幸子はよそ者を極度に嫌うので、おおいに吠える。そして子供たちは騒ぐ。妻が怒鳴る。そんな喧騒を後にして、私は一人PTAの会議へ出かけた。

会議から帰ると、すでに義両親の姿はなく、子供たちは死んだ目でドラえもんを見ていた。まさしくパーティーの終わったあとといった様子だった。テンションが激しく、低い。

そんな中、「明日は幼稚園弁当がいるよ」と告げる妻。つまり学童の長男と合わせて弁当を3つも作らなければならないという事。うんざりする私。木星あたりに降り立ったみたいに途端に重力が強くなったような気がする。体が重い。

私は弁当を作りながら、義両親が持ってきてくれた刺身の残りを食べた。素晴らしく美味しかった。そして冷蔵庫に冷やしていたジンを買って来た強炭酸で割って、飲んだ。キッチンにたったまま。

何かのきっかけで火がついて再びはしゃぎだす子供たち。私の後ろを駆けて行き、冷蔵庫から氷をつまんで食べるなどする。とても邪魔だ。でも刺身は美味しい。ジンも悪くない。妻は風呂に入っており、ほんのひととき、私の宴が、私の半径50センチくらいで繰り広げられた。「刺身が美味いなぁ。こんな美味しいものが食べられずに残っているなんて、有難い事だなぁ」などと刺身に舌鼓を打ちながら、次第に部屋の中の喧騒が遠ざかっていくのを感じた。

シンクの中にはカレー鍋などの洗い物がたくさん残っており、弁当作りも途中だった。だけど刺身が!止まらなかった。美味しいよ刺身。最高だよ。

やがてふと我に返り、私は冷食だらけの弁当作りを再開した。現実的で味気ない作業。冷食が足りないので、何か小さいハムみたいなやつを焼いて足しにする。

PTAの参加人数が少なかったのを思い出す。大人と大人は一旦仲たがいすると修復が難しいし、色んな種類の色んな反目・対立があって、とても面倒だと思う。それに対して、目の前でケンカしている子供たちは何かと言うとケンカをするが、次の瞬間には笑って遊んでいて、とても気持ちが良いなぁと思う。カラッとしている。

ああ、そろそろ妻が風呂から上がってくる。子供たちに歯磨きもさせねばならない。と、そこで長女がやってきて「おしっこー」と言う。便器に子供用の便座を設置して、長女を座らせる。

おしっこが終わった長女を下して手を洗い、再び弁当作りをする。子供たちを歯磨きさせねばならない。まだまだ走り回る子供たち。幸子が吠える。うるさい。

静かなところへ行きたい。ひとり、鮮やかな新緑が萌える森。小さなせせらぎの傍らでゆったりした椅子に座ってぬるいコーヒーを飲みたい。そして古本屋で買った少し茶色く日焼けした文庫本のページをめくりつつ、いつの間にかうたたねしていたい。

けど、現実は違う。だけど大丈夫。私には刺身がある。ありがとう刺身。


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