見出し画像

瞑想 縄文アニミズム

今から約7万年前にアフリカ大陸を出たアボリジナルの祖先たちは(諸説あり)、東南アジアに広がるスンダランドから、ワラセアと呼ばれる東の海峡を越え、サフルランドへと渡っていきましたが、そのしばらく後、スンダランドから北上して行ったグループがありました。
彼らがそこから太平洋を黒潮に乗って縦断したのか、もしくは陸行した後に大陸とわずかに隔てられていた対馬海峡や津軽海峡を越えたのかは不明ですが、最終的には東アジア沿岸に弓状に伸びた日本列島へと上陸しました。
これが縄文人の祖となった人々です(諸説あり)。

彼らが日本列島で暮らしていた後期更新世は、ヨーロッパの時代区分でいえば打製石器しかないはずの旧石器時代に属しますが、日本の「旧石器人?」たちは、すでにこの時代に石斧を磨き、大量の磨製石器を作っていました。
ちなみにこれは、アボリジナルの祖先たちが6万5000年前にサフルランドで作っていたとされている、人類最古の磨製石器に次いで古いものです。
また彼らは本州から170km離れた神津島まで、太平洋を渡って石器の材料となる黒曜石を採りに行ったりもしていて、これもワラセア海峡を船で越えたアボリジナルの祖先と共通する行動です。
こうしたことから日本のプレ縄文人たちは、「現生人類最古の冒険者」であったアボリジナルたちと、非常に近い世界観や文化を持つ人々だったのだろうと推測されます。

国立科学博物館のゲノム解析によると、縄文人はアフリカを出てユーラシア東方へ向かったサピエンスの一団からオセアニアグループが分岐した後、真っ先に東ユーラシア人の共通先祖より別れた、古い形質の遺伝子を残す特異集団から成っていたとのことです。
旧石器時代人たちが縄文人の祖となった、という根拠はここにあります。
もちろん旧石器時代の数万年間や、縄文時代の1万3000年間という長い年月の間には、列島の北から南から、様々な集団が波状的にやって来たことでしょう。
また南北に3,000km以上伸びている弧状列島の、幅広い気候帯と植生分布のおかげで、各地域の食料事情や暮らし方には、かなりの多様性があったはずです。
しかし彼らは縄文草創期より定住を始め、世界に比類のない高度なテクノロジーを持ちながら、複雑で豊かな精神文化を作り出し、集落間のネットワークを構築して長期に渡って共有し合い、大きな争いもなく過ごしていたことが、数多くの遺跡から窺われます。
縄文時代の日本はユニークでありながらも、多様な人々を受け入れられる、フトコロの広いダイバーシティ社会だったと言えるでしょう。

縄文人たちはムラに定住しながらも、農耕はせず狩猟・採集生活を続けました。
「定住=農耕開始」であったユーラシア大陸の各地域とは一線を画したこの生活スタイルは、彼らの持っていたエコロジカルな世界観を表しています。
彼らは「人間社会に自然を合わせよう」と試みる大陸的なスタイルではなく、「人間社会を自然に合わせる」独自の「縄文的ライフスタイル」を創り出しました。
星を読み、太陽や月を観察し、四季の移り変わりを追って植物や動物の旬を知り、自然の声を聞きながら暮らす、オーガニックでサスティナブルな生活スタイルを実践したからこそ、1万年以上もの間先進的かつ均質な文化を持続することができたのです。

縄文人はアボリジナルと同じように、山川草木神羅万象あらゆるモノやコトにカミ(神)やタマ(魂)を見いだす、アニミズムの世界観を持っていました。
縄文のムラでは竪穴住居を環状に建て、中央の広場には亡くなった仲間の遺骸を葬って、死者と生者がコミュニケーションする聖なる空間としていました。
日が暮れるとそこは祭祀場となり、火が焚かれ笛や太鼓が打鳴らされ、ムラビトたちは死者の魂や自然の精霊(アニマ)たちと共に、歌い踊って過ごしたことでしょう。
この祭祀空間でA S C(変性意識状態)となって共有する、世界や仲間たちとの一体感が、縄文時代の平等で争いのない万物一如な社会を支えていたのだろうと思います。

縄文の精神文化の黄金時代は、やがて大陸文化を持った渡来人が増えると共に終焉し、ムラからクニとなり国家が生まれ、弧状列島で暮らす人々は「日本人」と呼ばれるようになりましたが、縄文アニミズムの世界観は現代でも、われわれ日本人のこころの中に生きています。
八百万の神々のみならず、磐座(石)やご神木(樹木)などの自然物を祀り、日常使った道具(針や箸、刃物など)を供養する、今に残されている日本の習慣は、アニミズム的メンタリティの現れですし、世界中を席巻する日本発のポップカルチャー「アニメ」は、アニマが息づくアニミズムの表現世界そのものです。
1万3000年間続いた縄文の精神は、その後3000年経った今でも褪せる事なく日本人の集合無意識内に渦巻き、火焔土器の紋様のように萌出せんとしているのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?