2. 流れに身を任せる初心者

多くの人は、水の流れをこうイメージしていると思う。

「手の上にある水が背中側」に流れて、「手の下にある水がお腹側」に流れる。


確かに、スタートやターンで壁を蹴って水中で蹴伸び(潜水)をする時は、それでおおよそ合ってる。

でも、「水中で潜水している時」と「水面に浮上して泳ぎ始めた時」では、「水の受け流し方」が違う。


「同じ水なのにそんなはずない」と思うかもしれないけど、水面を走る船と違って「潜水艦はどれも似ていてシンプルな形をしている」ことを思い出してみるといい。

あるいは、「四足歩行の陸上生活から水中生活に戻っていったクジラも、機械の潜水艦と同じような形をしているのはなぜか?」と思考してみてもよい。


「潜水中は体の周りの全てが水で、一層」

「水面は、水層と空気層の二層」

水中一層の流れと、水面二層の流れでは、流体力学的に理屈が違う。


「船底船首に球状の突起物を付ける事で水面に立つ波を打ち消して抵抗(造波抵抗)を減らし、水面を高速航行する仕掛け」である バルバス・バウ(Bulbous Bow) は戦艦大和で有名だけど、この理論からも分かるように、水面二層の水流は、水中一層よりも複雑に流れる。

バルバス・バウ (wikipedia)

「水面二層の境界面」を泳いで速さを競っているのに、潜水中と同じ「一層方式」で水を扱っていたら、遅くて当たり前。


初中級者は、潜水中と同じ「水中一層方式」で水を扱うから、前から来た水を手のひらから腕の下(脇の下)に通して、胸の下へと流し込む。

この水流が結果的に胸を押し上げ、上半身が自然と浮き上がる。

「浮き上がった胸の反作用」で腰が落ち込むため、胸を通過した水は、「お腹 → 腰 → 太もも → 足先」へと「まっすぐ」に流れる。


初中級者は、この「お腹から足先にかけてまっすぐ流れる水流」に「体をどっしりと預ける」ことで、「体(泳ぎ)に安定感」を感じていて、表面的な目先の安定感に安住しているから、自分では「いい泳ぎが出来ている」と錯覚して、進歩が止まる。


流れに身を任せてはいけない

水流に体を預けてしまえば、「腰が沈み」「エビ反って泳ぐ」ことになって、こんなにも体が立ち上がってしまう。

体が立ってしまえば、水の抵抗が増えるのはもちろん、手を掻き始めても「肘が立てられない(肘が使えない)」から、水面を撫でるだけになって前に進まない。

これほど深く腰が落ち込んだまま手足を動かしていたら、平泳ぎの50Mで40秒、クロールなら35秒を切るのは、まず無理だ。


初中級者には「僅かな違い」にしか見えない「腰位置の差」も、「競泳経験のあるコーチの目」から見れば、その姿勢の悪さは真っ先に目に付くので、「プルのキャッチ動作で水面を下」に押し、「キックを下」に向かって強く打ち込むことで体を高く保って泳ぐよう、適切な指導がされるはずだ。


もちろん、「前に進むための推進力」に使うべき「プルやキックの力」を、「体を浮かすための力」として「下向き」に使えば、当然、速くは泳げない。

ただ、初中級者はまだ、基礎技術を身につけていないから、成長プロセスの応急テクニックとして、手先足先の小手先対応でも短期的には有効な対処になる。


そもそも初中級者は、「自分で器用に動かせる手のひら」に気を取られて、「手のひらがどう動いて、指先がどのような軌跡を描いているか」を気にしているから、コーチが目の前で模範を示し、手を取って教えていても手の先っぽを見ていて、「肩や肘の動かし方がいかに重要なのか」には、なかなか気付けない。


表面じゃない。本質を捉えろ

「指先が描く動作軌跡」は、肘や肩といった「動作支点(動作始点)を動かした結果」だから、”手のひら”にいくら意識を向けても体は動かせない。


「陸上で速く走ろうとする時」をイメージして、「太ももを動かす事」と「つま先で地面を蹴る」関係に置き変えて僕の説明を聞けば、話の本質が理解できると思うけど、指先が体を動かしているのではなく、体が腕を動かしていて、その腕の動きに指先が追随しているだけだ。

初中級者が考えるような「指先(手のひら)の動きをイメージして泳ごう」とすれば、関節の動きは指先の不自然な動きに制限されてしまい、関節が止まって、体を”しなやか”に動かせなくなる。


速い選手たちは肘や肩、背中やミゾオチ、丹田、膝といった「動作支点(関節動作)をどのように連動して動かしたら効率的に体を動かせるか」に意識を集中していて、手足の先っぽに関しては、水が引っかかっているかどうかの「感覚があるだけ」で、先っぽをどうこうしようなんて「意識」はない。

「初中級者は、結果(指先)に意識を向けて、結果を変えよう」と努力しているけど、「速い選手は根本側(動作支点側)を変えよう」と努力していて、同じ「努力」でも、その内面に広がっている世界はまったく違う。


速さの本質は、目に見える指先には存在しない。

大切なものはいつも根本側にあって、物事の本質は目玉からは見えない。


感じるんだ

肘の内側で水の流れをコントロールすれば、関節を動かす小さな力から、水流の大きな補助を受けられる。


抵抗を、自分の力に転化して、味方にする

戦国武将(孫子の兵法)が「戦わずして勝つ」と言っていたのはこういう事で、物事を根本部分で捉えれば、水泳の世界もまったく同じ。


手足から直接的に推進力を発生させることばかりに目を向けるのではなく、「マイナスをプラスに転化して、余った力を推進力に回す視点」が、初中級者には必要だ。

本質を捉えて、根本側で対処する

それがなすべき次のステップ、上級者への入り口。

produced by yamato bear. 2019.07.07

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