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誰でもできる How to 避難

「車で片道5分の避難所までが避難だ」って、漠然と思ってるでしょ。

「車で5分の避難所まで、2.5往復する。計2.5時間が、避難」

これが僕の実測値。


そもそも、「避難する」という判断は、口で言うほど簡単じゃない。

やろうか、やるまいか迷っている状態は「静的」だけど、避難という判断には「動(行動)」が伴う。

そのギャップが、実際の避難を難しくしている。


水泳の世界でも、体を止めて関節単体を動かすのは簡単だけど、パーツごとの「静的な技」を連動させて、実際に泳ぐ「動的な技」に組み上げるのは難しくて、そこが「速さの違い」になっている。

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ただ、避難の場合は世界一を目指してる訳じゃないから、「静」と「動」の間にある「心理的ギャップ」を埋めるだけで簡単にジャンプできる。

これが僕の避難手順書。

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[静] 1.  ネットで情報を調べる。
[動] 2.  健常者だけで、「避難所の体育館の中」まで「見に」行く。

[動] 3.  一旦、家に戻りながら「実現可能なイメージ」を作る。
[動] 4.  弱者を連れて避難所に向かい「車を体育館の入り口近く」まで乗り入れて避難させる。
[動] 5.  再び車で家に戻って「トイレ」に座って「お風呂」に入り、忘れ物や食料を持って、戸締りする。
[動] 6.  自分も避難所に入る。
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この手順書には、静と動を繋ぐ「心理的な仕掛け」がしてある。2番。


いきなり「避難しろ」と呼びかけるのではなく、「避難所を見に行くだけで、まだ避難するわけじゃない」という心理的な言い訳が、「静から動への一歩」として置いてある。

「避難しろ!」だと敷居が高いけど、「見学に行って、戻ってくる」なら決断しなくていいから、動きやすいでしょ。


「見学なんてふざけてる」と思うかもしれないけど、違うよ。

避難初体験の僕自身、避難すべきかどうかモヤモヤ迷いながら一人で見に行った事で、「今すぐ避難開始」という判断に一気に傾いたんだから。


ネットやテレビから流れてくる「切り取られた情報」で作った避難イメージは断片的で現実感がないから「根拠の甘い希望的観測」から楽観的になるけど、避難所見学の行程で得た「自分の体験」から作った

「リアル版  避難イメージ」

は、避難行動がすでに、厳しい状況に入っている事を「感覚的に理解」できる。


その避難所見学で実際に起きた事。

「まず、駐車場に着いて体育館が見えているのに、入り口が分からない」

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毎朝、電車の窓から見ていた体育館は「2階」にあった


「学校の体育館は、教室から室内履きのまま移動できる」ように作られていて、「土足の屋外からアクセスする場合、入り口がどこだかわからないような所に存在」している。


当たり前だけど、風雨の中、案内係が立ってるわけでもないし、「避難所はこっち」なんて矢印もない。

試合会場じゃないから、会場に向かう人の群もない。

着いても「避難所はここ」なんて書かれてないし、風雨だから当然、扉は閉まっていて、中も見えない。


晴れた日の学校とは違って、風雨の中、「ぐちゃぐちゃの土で滑る校庭」で「ずぶ濡れ」になって入り口を探す事になる。台風だから。

「駐車場から入り口までの僅かな距離の出来事」ですら、初体験者は何も分かってない。


やっと入り口を見つけて避難所の中に入っても、僕の足はドロドロの素足で、足を拭くタオルすら持っていない。


テレビで見かける「明るい光があって、人がいる避難所」は、入り口の向こう側の世界。

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警戒レベル3(高齢者避難開始)の避難所ならガラガラで快適


避難行動で重要な情報は、「避難所の中の生活」ではなく、そこにたどり着くまでの「外の世界」の状況。


それまでの僕の楽観的で甘い迷いは、外の世界のリアルな体験で吹き飛んで、

「未来に水害が来るかどうかが判断基準じゃない。外を歩くのはすでに困難になっている」

「これで日が落ちてしまったら、歩行に障害のある親を連れては歩けない」

「未来がどうであれ、今、日が落ちる前にやり切らないと間に合わない」

と、自分の前にある課題が明確になったのが、日没3時間前(14時過ぎ)の出来事。


ただ、「この後の初体験は、非常にスムーズ」で、周囲の冠水状況を確認しつつ、「障害者を避難所の中まで、最短距離で送り届けるリアルなプラン」を立てながら家に引き返して、避難行動を開始。

「以前から持っている知識」で必要だと思うものと、「必要十分なタオル」を持ち、いつでも使えるように「首にタオル」を巻いて、「雨合羽」の代わりになるものを全員着て、2往復目、出発。


平常時のルールを無視して、体育館のギリギリまで車で近づき、障害者を避難所に入れ、荷物を運び入れて、シミュレーション通りに弱者の避難を完了。

僕は一人、再び家に戻り、トイレに座って、風呂に入って、戸締り火締りをしてから、避難所に向かって全員の避難完了。


今回体験した避難実験を考察すると、水が目の前に迫ってくるかなり前の段階、おそらく12時間以上前の段階で、暴風雨で、すでに逃げられなくなる。

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外の厳しい状況を体験していない人たちは、「避難所まで車で5分だから、水害発生の1時間くらい前に逃げれば間に合う」と考えていて、12時間も前に避難のタイムリミットが来て、自分たちが死に直面している事には心理的に全く気付けない事がわかる。

実際には「避難は3時間かかる」「日没後は暗すぎて避難できない」「避難所は高台にあっても、そこに行くまでのルートが水没してしまって通れない」といった状況も考えれば、12時間前でも避難に失敗する可能性はある。


体験してしまえば、この程度の予測は容易に立ち、「想定外を想定内にする」ことができる。


競泳でも、「空想したイメージ」だと、そのイメージは現実には起きない。

空論では勝てないし、どんな結果であれ、必ず、「自分」に負ける。


レースと練習を何度も繰り返して、「今の自分に出来る最大限」を体感的に割り出す作業を年単位で実施して、その経験を元に「現実感のあるリアルなレースイメージ」を作り上げた時、自分の能力を超えた「イメージ通りの現実」が、実際に起きる。

競泳の「イメージ構築手法」と同じで、現実の体験からくる「知ってる」には未来を切り開くほどの破壊力があって、Google検索から得た「知ってるつもり感覚」とは次元がまったく違う。


ただ、勘違いしちゃいけない。「家を出るのが避難」じゃない。

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競泳の勝者が、レース展開だけでなく、レース前の動きはもちろん、ゴールした後の「表彰台に上がる所までがレース」と捉えていて、表彰台の自分の姿まで完璧にイメージして勝っているのと同じで、避難所の入り口の先にある「避難生活を始める所まで」が避難行動だ。


ー 健全な精神は、健全な体に宿る ー


この「スポーツ界の定説」どおり、ネットを見て考え込めば込むほど、思考は狭くなって、動けなくなる。

体を動かすからこそ、現実感のある論理的思考ができて、大胆に勝負できる。


「でも、2往復半もするのは非合理的じゃないか。見学をしたあと、弱者と一緒に自分も避難すれば、往復回数が減って合理的じゃないか」

と思うかもしれないけど、それは違う。


車で5分の距離を、わざわざ2往復半して、必ず2時間半かけるべし!


理由はやってみれば分かる。

「2往復半するプラン」なら、避難開始のタイミングを結果的に早める事になるし、「人間の避難」と「人間以外の必要な物」とを切り離す事で、余計な事を考える時間が減って、弱者の避難に集中できる。

段階を分けて、ひとつひとつの判断をシンプルにすれば、論理的で合理的に、自分を、冷静に、運用できる。


勝負の世界と同じで、「やり直しが効く状況」が心理的余裕をもたらし、「勝つべきして勝てる状況」を作る。

その作戦手法をそのまま応用したのが、この避難手順書だから、「2往復半」が最もシンプルでリアルな手順書なんだ。


「それは分かるけど、自分だけ綺麗なトイレに入って、避難所にはない風呂まで入っていくのはズルいでしょ」

と思うかもしれないけど、それも違う。トイレに行きたいからトイレに入るわけじゃない。


大勝負になればなるほど人は浮き足立って、いつもと違った過ちを犯す。

決まり切った日常ステップをあえて踏む事で、脳をいつも通りの状態に引き戻し、予想を超える展開にも冷静に判断していける。

「スポーツ界の勝者がやっている作戦行動」を応用したのが、僕の避難手順書なんだ。


迷った時の基準は「後悔」


「人生で最悪のこと」って「後悔」でしょ。


勝負の勝ち負けで、最も大切な事は「納得感」。

負けた時に「悔しい」って思うのは努力が足りない。


「悔しい」って気持ちは、「他にまだやれる事があって、それをやっていれば勝てたかもしれない」という「目を逸らしていたい自分の負い目」から来ている。

自分の限界までやり尽くした時は、負けたプロセスにだって「納得感」が支配するから、がっかりする事はあっても「後悔」なんて気持ちは湧かないし、「そういうやり方をしてきた中の一人」が、「たまたま」勝者になる。


避難だって同じで、「やっとけば良かった」「なぜやらなかったんだ」「もしやっておけば・・・」なんて事を抱えながら生きるのは辛すぎるでしょ。

「秒を競う世界で、時間を扱う技を磨き続けてきたのに、肝心な時にタイミングを逃して動けないのなら、俺は長年、何を突き詰めてきたんだ」

って、間違いなく後悔する。


「水泳をやってます」って、そういう事でしょ。


         大和部屋 2019.11.04


ー  後日談  ー

結果的に、何も起きなかったよ。

確かに、避難しなくても大丈夫だったけど、実験は考察が大切だから、「今回何が起きていて、自分の立ち位置は全体像のどの辺りにあったのか」を検証するため、荒川の土手を見てきた。

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堤防に守られた さいたま新都心

たまたま決壊しなかっただけで、堤防の一部で水は溢れてたし、夜中に橋は、沈んでた。

「結果」には「人間がコントロールできない部分」が入り込むから、そこが運命だったりする。

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富士山がきれい


[備忘録]
・市のハザードマップを見ようとしても、アクセスが集中して実質、見れない。
・避難所では住所、氏名以外に「世帯」を細かく聞かれて記入させられるけど、住所を証明するものは必要ない。
・避難が早いと、いい場所を使えて、体育マットもあった。コンセントのそばも空いてた。
・避難所は綺麗なわけじゃないから、ビニールのゴザがあると便利。
・毛布はくれるけど、食料はほぼなし(ビスケット一個)。
・避難所の消灯は21時。頑丈な建物に安心感もあって、意外によく寝れる。
・本を持っていくと、時間も早く過ぎていくし、睡眠導入効果もある。
・避難所にラジオはあるけど、テレビはない。
・テレビの情報量と速さはやっぱり別格で、スマホからの情報だけだとイマイチ。
・ポータブルワンセグなんか持ってれば、より良い。
・使い捨ての室内用スリッパがあれば便利。


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・日が落ちる前に避難完了しなければ、避難は失敗。
・夜間の避難プランはありえない。
・避難所は歴史的に遠い時代から人が住んでいる安全地帯にあるから、住宅の込み入った細い道の先にありがち。
・みんなと同じ発想では、他のみんなも同じ行動を起こしていて手遅れ。
・みんなと同じ決断タイミングでは、道路が混雑して避難所に近づけない。たどり着いても避難所に入れない。
・避難所は高台にあっても、避難所に行くまでの道が水没地域にあって、実質避難できない事を考慮して決断する必要がある。

ー  以上  ー



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