自分の身に起きたことをおとぎ話風にしてみる

それより以前のことはいいとして、
気づくとある時「私」は「小鳥」で、
あるお城の鳥籠に暮らしていた。

そのお城には、魔女とお姫様が住んでいて、
2人は小鳥の囀りをたいそう気に召し歌をせがんだ。

小鳥もはじめは悪い気もせず応じた。

魔女とお姫様は、小鳥に歌わせ、人を集めて見せびらかした。
はじめは城の中の者たちに、やがて街、国、世界へと
その範囲は広がっていた。

小鳥は次第に声が枯れ、歌うことに草臥れた。

「もう歌いたくない・歌えない」
と小鳥が訴えても、魔女とお姫様は認めなかった。
特にお姫様からは
「かわいがってやった私たちを裏切るのか」
と小鳥は責められた。
魔女のほうは小鳥の気持ちをすこし理解するようだったが、
魔女も小鳥を手放したくない気持ちが勝っていた。

ある時、小鳥は城を出ることに成功した。

鳥籠の鍵が開いていたのか、
それとも鍵なんて初めからかかっていなかったのか、
それはもう定かでない。

ただ空に飛び立つその時、魔女は小鳥に気づいた。
気づいていながら「…お行き」と見逃してくれたのだった。
小鳥が最後に見た魔女の瞳は、深く傷ついていた。

小鳥は魔女を気がかりにしつつも飛び続け、
やがて羽を休められそうな庭園を見つけた。

恐る恐る庭園へ入ると、二人目の魔女がいたが…
その魔女は城にいた魔女とはすこし違う。
研究者のような哲学者のような出で立ち。

庭園の魔女は泉で小鳥に水浴びさせながら言った。
「はじめから鍵なんてかかっていなかったのよ。
あなたがそう思い込んでいただけ。
なんにしてももう自由。
あなたは好きに飛んでもいい。
歌っても歌わなくてもいいの。」

庭園の魔女にそう言われても、
小鳥には自分の きぼう がわからなかった。
必死の思いで城を出てきたけれど、
自分が飛びたいのか飛びたくないのか、
歌いたいのか歌いたくないのか、
この翼は、この声は、うまく働いてくれるのかさえ…

どんなに自分に問いかけてみても、
はっきりした自分の声が聞こえてこない。
小鳥はたいそう悲しくなった。

お城で無理矢理歌わされ続けた時よりも、
辛さをわかってもらえずお姫様に責められた時よりも、
それは小鳥にとって辛いことだった。

「自分のことがすっかりわからなくなってしまった…」

この呪いをどうしたらとけるのか見当もつかず、
途方もない自由の中で、小鳥は静かに絶望した。

小鳥は、魔女の住まう庭園の梢に巣を作らせてもらい、
しばし休息をとることにした。
そしてやがてすこしずつ、
巣になにかを運び入れはじめた。

美しいもの 哀しいもの 面白いもの 恐ろしいもの 
光って見えるもの

小鳥は、心が動いたものはすべて巣に運び、
ひとつひとつを大切に飾った。

中にはガラクタにしか見えないものもあっただろう。
それらがなんのためになるか、
そうしたところでどうなるのか、
小鳥自身もわからないまま
ただせっせと収集と陳列を続けた。

そうしてどれほど月日が経ったのか…
いつの間にか小鳥はまたしぜんと歌えるようになった。
いつ、だれと、どんなふうに歌おうか、どの空を飛ぼうか、
小さな胸には次々と きぼう が生まれるようになった。

小鳥はもう迷うことはない。

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