毎日ばくばく

新聞社を定年して外国の子たちの勉強を支えるつもりが支えられてます。読書記録を兼ねます。…

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新聞社を定年して外国の子たちの勉強を支えるつもりが支えられてます。読書記録を兼ねます。小説、歴史が多いかなあ。

最近の記事

Rise and Kill First の教え

ロネン・バーグマン『イスラエル諜報機関暗殺作戦全史 上』(小谷賢一監訳、早川書房、2020年)  「600万人も虐殺された歴史を持つ民が、どうして虐殺する側に立つことができるのか」というのは、全く的外れ。なんと甘っちょろい間抜けな考えであったのかと思い知らされた。「600万人が虐殺された」という前提は正しい。しかしそこから導かれるのは、必要とあれば、「脅威」とみなした相手を殲滅することをためらわないという思考様式だった。悲劇を体験した者は、相手が同じ悲劇に見舞われることは避け

    • ユダヤ人はアラブ人の親類か

      メソド・サバ/ロジェ・サバ『出エジプト記の秘密』(藤野邦夫訳、原書房、2002年)  ユダヤ人は実はエジプト人の子孫だという説を裏付けるために、エジプトの象形文字とヘブライ文字との関係や、旧約聖書のエピソードと古代エジプトの政治的出来事との関係を関連付けて論じた本。  パレスチナに住みアラビア語を話すパレスチナ人はアラブ人であり、一方、エジプト人もアラブ人で、長い歴史の中でエジプトはパレスチナ地方を支配していた時期もありました。つまり、もしもユダヤ人がエジプト人の子孫だっ

      • なぜ続く「国際的公開虐殺」

         コルデリア・エドヴァルドソン『ユダヤの星を背負いて ― アウシュヴィッツを生き抜いた少女』(山下公子訳、福武書店、1991年)  昨年暮れ、名古屋市内の老舗書店の閉店セールを覗きました。いつもがらがらなのに、閉店と知ると混雑するんだよなあ。その例に漏れずわさわさと店内に集まった人をかき分け書棚を眺めていると、見つけた。「『アンネ・フランクの日記』は収容所に入る前で終わってるじゃないの!」というハラ帯を巻いた本。このコピー、うまいね。挑発的だ。  読む者すべてが涙を流す世界的

        • 寿地区を走り回る原始人の記録

          野本三吉『寿地区の子ども 裸足の原始人たち』(田畑書店、1974年初版)  名古屋市内で定期的に開かれている勉強会で、次回取り上げる予定の本。強烈な磁力のある本で、紹介される子どもたちと一緒にドヤ街をさまよっているような気持ちになった。ノンフィクションの迫力だ。  港湾関係を主に、どんな仕事もこなす日雇い労働者。「彼らの多くは農漁村出身者で、デカセギというかたちで都会に吸い寄せられるのである」(p.251)。新たな発見はたくさんあったのだが、とくにこの一文を読んだ私は、い

        Rise and Kill First の教え

          映画『Perfect Days』に悩む

          映画『Perfect Days』(ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演、2023年)を鑑賞。  2023年最後のめっちゃ長くてネタばれの書き込み。  公衆トイレの清掃を仕事にする中年の独身男の日々の暮らしの静かさと時折訪れるごく小さな波紋のお話、といえばいいのか。  生活の要素はひどく様式化され、毎日、機械のように繰り返される。自宅の古いアパートは東京・浅草近辺の下町。早朝、窓の下の路地を掃除する高齢女性の箒の音で目覚める。布団をたたむ。階下に降りて歯を磨く。鉢植えの

          映画『Perfect Days』に悩む

          カナリアの不穏な歌を聴く

          2023年12月5日付『毎日新聞』2面「焦点 極右台頭 EUに懐疑の風」  外国にルーツのある子どもたちと接する機会が増えたことで、移民をとりまく情勢に関心が生まれた。このニュースもそれで引っかかった。オランダはEU(欧州連合)にとり「炭鉱のカナリア」のようにいち早く危険を知らせる国なのだという。そのオランダで先月実施された下院総選挙の結果、「自由党」が予想外の第1党に躍進したという。同党は反移民・反EUを掲げ「オランダのトランプ」と呼ばれる党首が率いている。  つまり「

          カナリアの不穏な歌を聴く

          またやられたぞ浅田次郎

          浅田次郎『おもかげ』(講談社文庫、初出2017年毎日新聞出版)  生まれ育った家から最寄りの駅といえば、地下鉄有楽町線江戸川橋駅が開設された中学3年生になるまで、地下鉄丸ノ内線の茗荷谷駅だった。子供の足で徒歩約10分の距離だったと思う。赤い車体に白いリボンがねじれたデザインの地下鉄が、後楽園駅から茗荷谷駅に向かって走ってくると、トンネルを抜け、操車場を左に見ながら二つの跨橋をくぐってホームに近付く。線路には、床下のモーターに電力を送るための鉄路が車輪を載せる二本のレールに並行

          またやられたぞ浅田次郎

          どっちが先に手を出した?

          2023年11月5日付『毎日新聞』「時代の風 中西寛・京都大教授 イスラエル・ハマス戦争 世界を揺るがす衝撃」  戦争報道は時々刻々と動くから当然、外部依頼原稿には新しいことは求められない。今起こっていることをどのように考えたらよいのか。その方面の専門家がどうみているのか、現象の捉え方のヒントを読者は探す。だがこの原稿は要するに「びっくりしました。これからどうなるのかわかりません」という驚きに過ぎない。とはいえ、それしか書きようがないのだろうなあとも思う。  大好きで何度

          どっちが先に手を出した?

          すっごくでかい半生の記録

          野本三吉『水滴の自叙伝 コミューン、寿町、沖縄を生きて』(現代書館、2023年)  全518頁。大著だが実に興味深く読んだ。野本三吉(1941~)さんには、これまでに2度、那覇と横浜でお会いしたことがある。会う人に鮮烈な印象を残すなんとも魅力的な人で、温かい毛布に包まれているような気持ちにさせられる。永遠の青年のような純粋な人だ。  教育者、社会活動家、漂流者、思想家。ひとくくりにできないなんともでかい人だと思ったが、本書を読んで改めてスケールの大きさに驚かされる。そのまま昭

          すっごくでかい半生の記録

          無知の幸福と知恵の悲しみ

          グリボエードフ『知恵の悲しみ 喜劇四幕』(除村吉太郎訳、平凡社、「ロシア・ソビエト文學全集 古典文学集」pp.257-309所収、1966年)  実に長くて実にどうでもいい話。名門貴族の出で外交官だったグリボエードフが1823年に書いた古典ブンガクである。いつか読まなきゃいかんなあと学生の頃から(40年前!)思っていた古典をやっと読んだ。翻訳がなかなか見つからないので放っておき、仕事が忙しくて余裕がないときはすっかり忘れていたこともある。しかしこのたびようやく、えいやっと名

          無知の幸福と知恵の悲しみ

          ケン・ローチとコルナイ・ヤーノシュ

          是枝裕和、ケン・ローチ『家族と社会が壊れるとき』(NHK出版新書、2020)  めっちゃ長い。『私はダニエル・ブレイク』はよかったなあ。この本を読んで、ローチ監督が自らを「社会主義者」と名乗っていることを初めて知った。ローチ監督は、今の英国の貧困、格差社会の原因は、あれこれの政治家や政党の稚拙で愚かな政策が原因というのでなく ― それももちろんおおいにあるが ― 国の骨組みそのもの、つまり資本主義にあると信じている。  「かつて労働は、一日八時間、週五日制、家族を養うことので

          ケン・ローチとコルナイ・ヤーノシュ

          プーチン氏の「多極的世界」とは

          2023年7月20日付『毎日新聞』オピニオン面「発言 プーチン氏流の『多極化』とは 岩下明裕・北海道大教授」  いく度か書いたロシア流「多極的世界」についての興味深い文章。戦争に敗けて78年、主権を回復して(サンフランシスコ講和条約発効、1952年)71年もたつのに、日露間には平和条約が結ばれていない。その理由について書いてある。  領土問題を解決して平和条約を締結する。日本はお題目のようにそう唱えてきた。そして平和条約が結べない、つまり領土問題が解決しないのは、「固有の領土

          プーチン氏の「多極的世界」とは

          イエスはなぜ大審問官にキスしたのか

           2023年7月13日。ロシア文学者の亀山郁夫さんといえば、ドストエフスキーの5大長編をこのほど訳し終わったことで知られる人で、名古屋外国語大学の学長をしておられる。先月、亀山先生とほんの少しお話しする機会があったのでそれを少し。  2022年、2023年と亀山さんが講師になった同大オープンカレッジに参加し、ドストエフスキーのテキストについてのお話をお聞きした。  さて、「大審問官物語」というお話が『カラマーゾフの兄弟』の中にある。大学生の時に読んで以来、私の人生をひん曲げそ

          イエスはなぜ大審問官にキスしたのか

          戦争終わらない方がいいのかね

          2023年7月13日付『毎日新聞』3面クローズアップ「ウクライナ支援 NATO苦慮」  ロシアとウクライナの戦争をめぐる世界の対応には首をかしげる局面が多いが、この度のNATO首脳会議もその一つだった。 「ウクライナにとってNATO加盟は悲願である。」これはそうでしょう。「ロシアとの戦争状態のままでウクライナが加盟すれば、NATOとロシアの全面戦争に発展する恐れがある。」そりゃそうでしょう。だから「戦争が終わったら入れてあげる、かもよ」となったようだ。  この記事がいう

          戦争終わらない方がいいのかね

          非正規職員抜きに図書館は動かない

          2023年6月7日付『毎日新聞』対抗社会面「図書館非正規職員『待遇改善を』」  日本図書館協会が6日、東京都内で開いた記者会見によると、「全国の公共図書館の職員の数は約42,000人(2022年4月1日現在、兼任を除く)。過去15年間で、正規職員の割合は4割から2割に下がり、非正規職員の数が増えた。」  自治体と契約している会計年度職員などの非正規職員、自治体と契約している民間企業の非正規職員など、「非正規」といっても様々で、そうした人々が同じ職場で不安を抱えながら働いている

          非正規職員抜きに図書館は動かない

          「結婚相手を選ぶ範囲が民族になる」

          2023年6月1日。エマニュエル・トッド、片山杜秀・佐藤優『トッド人類史入門 西洋の没落』(文春文庫、2023)  1976年に25歳で処女作『最後の転落―ソ連崩壊のシナリオ』を書いてとても有名になった人口学者・思想家の最新作『我々はどこからきて、今どこにいるのか』(文藝春秋、2022)出版を機に佐藤優氏、片山杜秀氏の対談などを収めた。  日本の小さな町にも外国からきた若者たちの姿が見られるようになって、「日本人と彼ら」という区別・識別が日常的に意識されるようになった。こ

          「結婚相手を選ぶ範囲が民族になる」