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【読書感想】「四角形の歴史」赤瀬川原平著 ちくま文庫 筑摩書房

書籍情報
タイトル 「四角形の歴史」ちくま文庫
著者 赤瀬川 原平
出版社 筑摩書房
2022年刊 本書は2006年に毎日新聞社から刊行されたものの再刊です。

 昨年(2023年)四角形と円形を組み合わせたようなアート作品を見ました。
作品の言葉による解説は最小限でした。
私はそれを見て、「分けがわからない。なんだろうこれは?」となり、しばらく考えました。そして、四角形は「大地」、円形は「太陽」または「大地を包む大気」だと連想して、この作品は「世界または地球」を表しているのだな、そうに違いない、なるほど分かった、と思いました。

 しかし、なんだか釈然としないものが残りました。
ふだんの生活の中で、四角と円、立方体と球体の組み合わせについて、ふと考えを巡らせることが多くなりました。

そんな時、大阪の国立国際美術館のミュージアムショップの片隅にあったこの本に出会いました。

本書の中で、赤瀬川原平さんは、「四角形とは何か」を問うています。

人間が風景を見る、ものを認識する、それを絵に描く、という過程をあらためて丁寧に検証していって、だんだんに「四角形」は「窓」のような枠(わく)、フレームが起源だったのではないか、と論じています。

そして、こう述べています。

「でも人間の最初の家となれば、窓どころではないだろう。木の枝や枯草でつくった人間の「巣」には窓はなくても入口があっただろうが、四角形ではなく、ただのぼそぼその穴だったに違いない。それ以前に人間がまだ猿だったころ、世の中に四角形はあったのだろうか。
なかった。」
 
この一文を読んで、私は衝撃を受けました。
そう、自然界に四角形はないのです。
身の回りの四角形はすべて人工物なのです。緑の田畑も人が耕作したものです。

そして、彼は「では、人間はどうやって四角形をみつけたのか」とさらに問いを重ねます。

「どうも四角形というのは人間の頭の中で生まれたらしい。四角形は人類の考えた特許のようだ。そうするとそれはいつのことか。そのきっかけは何だったのか」

常識を疑うとはまさにこのような問いをいうのだな、と思います。

このあと、さらに考察が丁寧に重ねられていきます。大変に面白いのでぜひお読み下さい。
すべてのページに絵が添えられており、それがまた抜群にセンスが良いです。

この本を読んで、前述のアート作品については、私の中で感想が白紙に戻りました。
四角形が大地を象徴するなんて、いったい誰がいったのか。少なくとも私が自分自身で気がついたり、考えついたことではないのです。どこかで聞きかじったことを何となくあてはめていただけだったのです。だから自分の内に、もやもやした感じが残ったのでしょう。

本書は、哲学的な内容ですが、難しい専門用語はいっさいなく、強く主張する感じも受けません。著者の論説そのものが面白いのですが、それ以外に、当たり前のことを「ちょっと待てよ」と立ち止まって突きつめて考える、そしてそれを文章にする、そうすることで、思考を違うところへ進めることができる、そういった事も本書から教わりました。


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