大東京カワセミ日記184 都市と自然とカワセミと。

「都市=人間のつくった人工空間」と「自然」は、二項対立でしばしば語られる。

でも、実際は、二項対立じゃない。

というのも、この場合の「自然」という言葉は、2つのレイヤーがごっちゃになって語られているからである。

具体的には、「(比較的人の手が入っていない)地形」というレイヤーと、「(比較的人の手が入っていない)生き物の集団」というレイヤー。自然という言葉には、2つのレイヤーが含まれている。

この2つのどっちも、私たちは「自然」と呼んでいるわけである。

そして「生態系」というのは、地形と生物集団と、そこに降る雨だったり、大気だったりという環境をひとまとまりにした、まさに「系」である。生態系はひとまとまりで、レイヤーで切り取って語れない。

「生態系」は、自然林にもあるし、農村にもあるし、都市にもある。

都市とはなにか。

都市とは、生き物から見れば、人間がつくった「地形」だ。

そして、そんな人間のつくった都市という地形の上に乗っかった、生態系はちゃんとある。

都市という地形のうえにも、さまざまな生物集団が暮らしている。家の中のゴキブリから、下水路に住むネズミから、電線に並ぶ鳩から。。。。こうした生物集団が暮らすことのできる「環境」が備わっているわけである。

それぞれの生物集団の「環世界」の視座を獲得すると、場合によっては「都市という地形」のほうが、「自然という地形」より暮らしやすいケースだってあることが、みえてくる。

生物学的に言えば、彼らの「ニッチ」があれば、一見無味乾燥な都市だって暮らすことができる。そのニッチを、それぞれの生き物は当たり前のように見つけ出す。それぞれの生き物の感覚系が察知できるからだ、そのニッチを。

そんな生き物ごとの主観の世界が、環世界だ。

たとえば、都市河川のカワセミ。

カワセミは清流の鳥のイメージだけど、カワセミに必要なのはきらきら美しい川じゃない。美しくってもいいけど、もっと重要な要素がある。

①魚食性なので、魚やエビなど水生生物がたくさんいる「水系」があること ②崖に巣をつくるので、巣作りに適した崖があること。

以上2点を満たした上で、③親鳥にとっては、猛禽類などの天敵から身を逃れやすいこと。④卵と幼鳥にとっては、ヘビ類などの天敵から身を護りたいこと。

以上4点が満たせると、そこはカワセミにとって「適応しやすい天国」ということになる。

一見、都会のどぶ川にしか見えない、三面コンクリート張りの都市河川も、その環境に適応した水生生物(魚、エビ、ザリガニ)などが大量繁殖していれば、①の条件を満たすことになる。


また、こうした都市河川の壁面にある水抜きの穴は、一部がすでに使われていないため、格好の巣穴になる。つまり②崖の巣穴がある、という条件を満たすことになる。自分でほらなくていいので楽ちんである。

さらに、都市河川だと、人通りが多いうえに、そもそも猛禽類がいっぱいいるわけじゃないので、③親鳥の天敵がいない。さらに、都市河川の壁面には、卵や幼鳥を狙うヘビもいない。つまり④卵と幼鳥の天敵もいない。

なんと、以上4つを満たした都市河川は、カワセミにとって「天国」だったりする。都市という地形のレイヤーの要素を精査すると、実は生き物によっては、「自然」よりも「暮らしやすい」ケースだってある。

ゴキブリが都市に環世界を見出し、ニッチを持っている生き物だけど、案外カワセミだってそうかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?