『冬の終わりと春の訪れ』 #5

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「遠山さんは、いつから物語を書き始めたんですか?」
「中学1年のとき」
「すごい、早いですね。当時書いた作品は賞に応募とかしたんですか?」
「ううん。ウェブで公開はしてたけど、賞に応募とかは無理。そんな実力ないよ」
「ええっ、勿体ない、絶対何かしらの賞狙えますよ」
「そんなこと言うの君くらいだよ……」

「っていうか僕の名前わかってます?」
「……そういえば聞いてない気がする」
「僕も言ってない気がしました。遠山さん僕に興味なさすぎっすね」
「ちょ、そんな言い方しなくてもよくない? そもそも名乗らなかったのはそっちでしょ」
「それもそうです。片山聡(カタヤマサトル)っていいます」
「片山君ね」
「……なんか嬉しいですね」
「名前呼んだだけで?」
「はい」
「変なの」

「遠山さんは、家族についてどう思いますか?」
「なにその質問」
「遠山さんの考え方を知りたいんですよ」
「……大切な存在だと思うよ、私個人にとっては、だけど」
「個人にとっては、というと?」
「例えば虐待とか受けてる子どもにとっての家族は、ただの子どもの未来の足かせでしかないと思うから。子どもがそう思ってはいなくてもね」
「確かに。やっぱり遠山さんって素敵ですね」
「……そりゃどーも」

「では次に、愛についてどう思いますか?」
「よくそんな愛とか恥ずかしげもなく言えるね」
「いいじゃないですか。で、どうなんですか?」
「……素敵なものなんじゃない?」
「あ、今逃げましたね」
「小っ恥ずかしいの!」
「じゃあ質問変えますよ」
「まだ聞くの?」


 ――遠山さんは、時折嫌そうな顔をしたり、照れたりしながらも、僕の質問に根気強く付き合ってくれた。
 遠山さんの人柄全てを知ることができたとは到底思えないけれど、こんなにも会話ができたのは初めてだった。
 知れば知るほど、遠山さんは僕にとって魅力的に映っていく。

 気づけば1時間程話し込んでいて、校舎の施錠のために帰らなければならない時間になっていた。

「遠山さん」
「ん?」
「明日も放課後時間もらえますか?」

 問うた質問に、遠山さんは呆れたように笑う。

「まだ足りないの?」
「全然」
「やっぱり変な人だなぁ」

 今日1日でどれだけ遠山さんに変だと言われただろうか。別に構わない。
 もっと、遠山さんのことを知りたい。

「流石に文化祭前日だし、クラスの出し物の準備があるから厳しいでしょ」
「あ、そういえば」

 クラスの出し物についてすっかりと存在を忘れていた。
 テンションの落ち込む僕。部屋を出て、廊下を歩き、下駄箱で靴を履き替え、門に向かう。その間僕が落ち込んでいたのを見かねたのか、遠山さんはぼそりと聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

「……文化祭、終わってからでもいいならいいけど」
「是非!」

 聞き逃さなかった僕の即答に、遠山さんはまた呆れたように笑う。

「じゃあ、LINE交換しとこっか」
「いいんですか⁉」
「教室に押しかけられる方が嫌だもん」

 意図せずして遠山さんの連絡先が手に入ってしまったことに驚く。門を出てからスマートフォンを取り出し、ふるふるでLINE交換が実現してしまった。

「じゃ、またね」
「はい、また!」

 門を出てから反対方向なようで、遠山さんは歩いて行ってしまう。僕はそれを名残惜しそうに見送った。
 しかし数歩歩いてから、遠山さんが振り返る。なんだろう? 首を傾げていると、

「やっぱり敬語違和感あるから、次までにはなくしておいてね」
「……、努力する」

 僕の返答に、遠山さんは「よろしい!」と笑った。その笑顔は、今日見た中で1番明るくて、なんだか可愛かった。



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