人は皆、先人が歩いて創り、それにより造った道、作った道がある
から歩け、其れがあるからこそ更に新たな道を拓く事ができる。

空手道、柔道、剣道と言う武道とは何か、と考えると、それぞれの
競技の決まった一筋の道である。

そうするとボクシングも道にすれば、日本独自のボクシング、つま
りボクシング道が出来るんでは、などと考えた。

さて｢術」と「道」の違いを分かりやすく例えてみる。

風邪を引いた場合、皆さんはどう言う行動を取るだろうか。
病院に行き、薬局の薬を出してもらい飲む位だと思う。

風邪薬を飲んだ場合、その風邪は治るが、その薬で一生風邪を引か
ないか、と言えば答えはNOである。

目の前にある風邪を薬で治し、その後そのままにする事が術であ
り、一種のまやかしで、2度と風邪を引かない様にする事が道だと
言える。

2度と風邪を引かない体にするには、例えば朝の日光の下、木刀で
素振りをし乾布摩擦をし、二十分でもいいので毎日運動する事を習
慣化し、食事をバランス良く摂る。

そして仕事にやり甲斐を求め没頭する。余暇は休むか思い切り遊
び、心身ともに元気であるよう心がける。

私はある会社の顧問を長きに渡り行い、その間あらゆる危機から社
を守り、1日4時間睡眠で10年間、毎日休みなく業務を行った。

感謝される事が嬉しく、楽しく過ごして来た。

そして仕事を終え、毎日経営するボクシングジムで、選手の指導を
し、汗を流す事をおさおさ怠らず、心地よく疲れ、夜はいつも気絶
するように4時間は熟睡した。

毎日これをルーティンにすると、これが一つの道となり、とうとう
風邪を引かなくなった。

季節の変わり目には必ず風邪を引くという、見かけ倒しの軟弱者で
あったそれまでの自分を考えると、1日1日が終ぞ一つの道となり
心身共に強くなり、風邪を引かなくなったように思う。

柔道、空手道、剣道に合気道、というものの熟練者で、継続し初心
を忘れず道にした人は凄い。

しかしその反面、いつしか金と欲が優先し「気」を無くすと、これ
は人生という「道」を間違えろくな事にならない事もある。

金で事件を起こす。欲で事件を起こす。

あれだけ偉いと言われた人が、いつのまにか道を忘れ、術のみでそ
の場を逃れ、結局晩節を汚す。

若い時は何度もやり直しが効くが、老人になるともう遅い時があ
り、勘違いをし諫言を嫌い、又は諫言してくれる人がいなくなる。

やがて裸の王様となり、残るのは同じ穴の狢とくだらないプライド
のみとなる。

このくだらないプライドの為に見栄や虚勢で生き、いい格好をし、
結果そのつけを払う日が来るのが遅いか早いかだけ、という事象を
私は嫌と言うほど見てきた。

大きくなる子となれない子の違いは、ほんの2、3点だと思うが、
これを深くボクシングで教え、いずれは道にしたい。

礼儀。目上の人への態度。筋。義。仁。情。

こう言った戦争前からある、日本人の美しい良い部分を、徹底的に
ボクシングに取り入れていくと、どれだけいいだろう。

先日当ジムの島田信行顧問が、大阪の飲食店で食事中、店主兼父で
ある男に対し、息子が「お前うるさいんじゃ！」と言った場面を目
の当たりにした。

「大変ですねえ、うちの息子なら半殺しですわ」と島田トレーナー
が店主に言うと、この父である店主が「どう言う意味だ。俺は子育
てを『いつか』きちんとして治す」と言い返してきたらしい。

きちんとしてたら15、6のガキが親にお前、なんて言わないと思う
のだが、ここから論争が続いたそうだ。

「あんたが正面から向き合ってないから、あんな子になんねん」と
言うと「いーや、向き合ってる。いつか治す」。

「いつからああ言う状態なのか」と聞くと「10年前からだ」と胸
を張ったそうだ。

仮にこの子が15歳とすると、10年前は5歳という事になる。

10年間、何一つ変わらぬ反抗的な子を持つこの親は「ワシはいつ
かあいつと向き合うようにしてみせますわ」と言ったと言う。

「ああそうですか。こっちはぎょうさん経験して言うてんのやけど
もう宜しいわ」と言い、島田氏は勘定を終わらせ帰ったらしい。

別に私や島田さんが分かってるんだ、と言う気は毛頭ない。
息子を本当に半殺しにする、と言ってるわけではない。

ただ我々は、この程度の子を幾度となく治してきた実績がある。

いや、今ボクシングを営む会長の殆どが、同じ経験をしている。

ボクシングジムがこう言う躾を、一つの「道」にしていけば、政治
や学校に頼らず教えれる。

治らない子は当然、ジムから出て行きたくなるだろう。

出ていく子は、どこの世界でも、壁にぶつかり大きな事を言うだけ
で、何かのせいにする、と相場が決まっている。

私は25歳で起業し、弟同然の地元の後輩を専務にし、5年後に500万円を横領された。

横領が分かった日は、流石に少し心に来たが、2日経つとけろっとしていた事を覚えてる。

勿論500万は作らせた上で、解雇した。真剣に向き合っても博打と
女に溺れ、この子は会社のお金に手をつけた。

こう言う場合、私はすぐ忘れる事ができるが、彼は一生忘れる事が
出来ない。

「あの時こうしてたら」。「俺は昔は羽振りが良かった」。
「何も助けてくれない親が悪い」。

彼は今、地元でそう言ってるらしい。

私はこの子の力があり、会社が大きくなったので感謝している。

但し、今更助けない。今は別に何も思わない。

こう言うメンタルは我ながら道にする事が得意なので、損をしたり
騙されても必ずプラスにする事も覚えた。

お金はまた儲ければ良い。しかしダメな子は何度チャンスをやって
も無駄で余計なおせっかいになるだけ、という事も知った。

だから私は、小学生からの教育に力を入れているのだと思う。

ボクシングは今、ジムをリニューアルしているが、その間私なりの
マニュアル、つまり道を作っている。

これが自分の為になるか。
世間の為になるか。

今はそう言う事を考える充電期間だと思い、日々本を読み、毎日来
る多くの友や来客と意見交換をし、楽しく暮らしている。

いつか全国のジムの有志で、こう言う事を考えれたら、と思う。

希望を忘れた時、なんの業界、なんの道でも、一瞬で瓦解するので
はないだろうか。

人は過ちを起こす。
人は間違える。

しかし考え続け、良い方向に諦めず、しつこく行動する事を忘れた
ら、この世から道徳も倫理も消滅する。

ボクシング界がリードしてそんな競技になればなあ、と深く思う。

ジムがリニューアルするまで後、1ヶ月程。
それまでにある程度、まとめた考えを持ち再スタートしたい。

世の中がどう変わろうが、人がなんと言おうが、自分の道をただ静
かに歩いて行きたい。

その道に付いてきた子が、何かを得てくれたらそれでいい。

さあ、人生道はこれからだ！