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【旅エッセイ】マレーシアで、日本人はモテるからとナンパしに連れてかれたら、謎の呪文「カムフロムジャパン」を習得した話

 プリングルスヤンキー(以下、プリヤン)にマレーシア、ペナン島のジョージタウンに「日本人が居たらめっちゃモテるから、ナンパしに行こうぜ!」と誘われ、プリヤン兄弟とやなぎやと3人でワクワクしながら車で、オレンジ色の街灯に彩られたペナンブリッジを渡っていた。突然訪れたマレーシア、ペナンの若者の夜遊びに混じる機会に、私はドキドキしていた。


※ この話は、以下の話を読んだ後の方が、より楽しんでいただけます。
 なお、時系列的には、下が古く、上が新しくなっております。


 車は橋を渡りペナン島に入り、20~30分ほどで、どこかのモールの駐車場のような場所に付き、車をで降りた。プリヤンが薄暗い閉店後のモールに向かって歩いて行く歩く背中を眺めながら、マレーシアの若者たちが夜遊びするスポットは、
 クラブのような場所なのか、それとも案外ボーリング場なのか、それとも…アンダーグラウンドでイリーガルな場所なのか。
 様々な妄想をしてワクワクしていた。

 しばらく歩くと、受付のような場所につき、プリヤンはそこで何やら話をしている。そして、その奥に大きく重そうな扉がある。そして扉の向こうから洩れている楽しげな音楽。
 
 クラブみたいな雰囲気だな…
 
 プリヤン「さ、行くぞ!付いて来い!」
 
 受付を終わらして、めっちゃ男前な雰囲気を出し始めた頼りになるプリヤンの背中にくっ付いて、扉の中へと入っていた。

 思っていたよりも明るい。若者が50人くらいだろうか、飲み物を片手に各々座っていた李、立ってウロウロしていたりしている。そして…この空間のど真ん中にある、高さが腰くらいの細長いステージが存在感を出しているのだが、ステージの上には誰も居ない。

 …この空間のルールが分からない!一体何をする場所なんだ!? 

 「やなぎや、何か飲むか?」
 「とりあえずビールで」

 プリヤンは、飲み物を買いに行ってくれたようで、プリヤン(弟)と二人ステージ近くの空いていた黒いソファに腰を掛けて、一体この場所がどんな場所なのかの観察を始めた。

 ちなみに、プリヤン(弟)に聞いてみたら、「初めてだから俺も分からん!」と勢いよく笑顔で返答された。

まったく頼りにならないヤツだ。

 プリヤンが戻ってくるのと同時くらいに、MCらしき人がマイクで話始めた。

 MCらしき人「※□△!!!×○★※△~!!!」
 観客  「うぉぉぉぉぉ!!!!!」

 かかっている音楽も大きくなり、観客の一気に熱量を増す熱気のようなものに気圧されていた。

 MCらしき人「▽※▼◎!!!※△×○★※△~!!!」

 何か、MCが叫ぶと、観客たちの歓声が大きくなり、ステージに人が出てきた。

 なんかのイベントみたいなものなのか???

 出てきた人たちは、ステージでダンスをしている。そして、男性のグループ、女性のグループ、混合グループ、色々出てきた。

 …なんかの発表会か?

 よく分からないままに、踊る人と音楽とビールに身をゆだね、とりあえずその時間を楽しむ事にした…

が、私はここで今日のミッションを思い出した。


 おい!プリヤンよ!お前、今日「ナンパしにいく!」って言ってたよな。「お前は日本人だからモテるはずだから」とかなんとか言ってたよな。そのわりに、一切誰かに声をかける素振りもせず、ただステージに向かって、「いえぇぇぇい!」とか、「ひゅーーーー!」とか言ってるだけやん!そして、すでに到着してから30分以上経ってるぞ!

これのどこがナンパやねん!!!

 お前がナンパに行くって言ってたし、その気持ちで来てもーてるやん!違うなら違うって言えや!心の準備みたいなんあるやんけ!あの入口で出していた男前なオーラは一体なんやってん!?

 いや待てよ…
 あのミニバスでいかつくプリングルスをバリバリ食べてたアナーキーな男が、そんなしょぼいわけない!

 きっとプリヤンには、何か作戦があるはずだ。どっちにしても、俺は勝手が分からんし、もう少し様子を見てみよう…

(ここまで、0.1秒)

 ほどなく、ダンスショータイム!?が終了し、またMCらしき人が話出している。当然、何を言っているのは分からないが、どうせ、「お楽しみいただけたでしょうか?」とか、「このあともまだまだ素敵なパフォーマンスが続くのでぜひお楽しみください!」とか言ってるんだろうな…と思っていた。

 私は、この時少し油断をしていたのだ。
 そして、私に魔の手が近づいている事に全く気が付いてなかった。

 MCが話が途切れ、次の言葉を発するまでのわずかな瞬間に、プリヤンは叫びだした!

「カムフロムジャパン!!!!!」


 …何を唐突に叫んでんだこのヤンキーは。

 突然のプリヤンの叫びに反応し、こっちを向くMC。

 絶対、今、俺、MCと目が合ってる。
 
 そして、隣ではプリヤンが、呪文のように

 「カムフロムジャパン!カムフロムジャパン!」



 
と、一心不乱に唱えている。

 いや、プリヤンよ。もうMCこっち向いてるって。

 そして、その空間にいるすべての人が、時を止めて私を凝視している。

 この時、私は人生で初めて「時間が止まる」と言う事を体験した。

 そうか!「カムフロムジャパン!」は、時を止める系の呪文なのか。プリヤンは戦士系と思っていたけど、そうではなくて時魔導士系のジョブだったのか!今度俺もその呪文使ってみよう…

ってならんからな!


 MCの人は、その空気を打破すべく、満面の笑みで、私を見ながら、
 「▽※▼◎!!!※△×○★※△~!!!」
 と言って、ステージを手で指ししめしている。

 これは、分かるぞ。
 多分「うわー!今日は日本から来てくれているゲストがいるんですね!では飛び入りで、ステージに上がってもらいましょう!どうぞ!!!!」
 とか言ってるんだろう!
 そらそうや。この空気なんとかしようとしたら、そう持ってくしかないしな。

 おい、プリヤンよ。
 めっちゃMCの人、俺に、
 「この空気、盛り返すのにちょっと助けて!とりあえずステージにさえ上がってくれたら、後は何とかするから、お願い!」
 みたいな目で見てきてるやん。

 そして、お前も「良かったな!よし行ってこい!」みたいな雰囲気だしながら、背中を押すんじゃない!

 あ!もしかしてこれがお前のナンパ作戦か!?突然ステージに上げて、俺を目立たせて、
 「あいつ俺のツレなんだ!」
 みたいな感じで、話すきっかけ作って、ナンパしようとしているのか。

 よーし分かった。それならその作戦に乗ってやろうじゃないか。とりあえず、ステージ上がって、なんとか目立ってやるから、後は頼んだぞ…
(ここまで0.2秒)

 入った時よりも人数の増えているステージに上がり、MCの人がインタビュー形式で、話をしてくれる。
 「日本から来たんだってね!名前は?」
 「ペナンには何しに来たの?」
 「マレーシアはどう?楽しい?」
 
 よくあるインタビューみたいな感じだが、私は出来るだけ会場を盛り上げ、そしてプリヤンの作戦通りに私が目立つようにいちいちオーバーリアクションな感じで、返事をした。MCに返答するのではなく、会場に向かって、

 「おれの名前は、YANAGIYAだーーーーー」
 「ペナンが俺を呼んだから来たんだよ!」
 「アイラヴ マレーシア――――――――!!!!」

 少なくとも、会場は、私の回答ごとに
 「いえーーーーい!」
 「ひゅーーーーーー!!!」
 と盛り上がってくれていた。

 よし、作戦通りにいっているはずだ!
 
 会場を少し温めることは出来ただろう。
 「そんなわけで、飛び入りの日本人ゲストYANAGIYAありがとう!みんな拍手!!!!」

 会場中鳴り響く拍手の中、私は、ステージから降りた。

 これで、プリヤンたち、会話のとっかかりも出来やすくなって動きやすくなっただろう!私はやれることはやった。

 さぁ、プリヤンよ!お前の呪文「カムフロムジャパン」の本当の力をここから見せてもらおうじゃないか!

 プリヤンのもとに帰り、時間も盛り上がる時間帯に入っていく中で、私はプリヤンの動きを見ていた…が、全然動かんやん!

 ちょ待って、めっちゃ羞恥プレイ的にステージに上げられて、頑張ったのは一体何やったん???

 「プリヤン!お前今日、ナンパするって言ってなかった!?ちょ、声掛けに行かへんの?俺にさせたあの羞恥プレイは一体なんやったん!?」
 私は、我慢できずに、プリヤンに聞いてみた。


 「………さ、楽しかったし帰ろうか」



 …えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ


 お前の、
ミニバス内でプリングルスをバリバリ食べてたあの鋭さはどこ行ってん!?「カムフロムジャパン!」って叫びまくってたあの勢いはどこ行ってん!?


 結局プリヤン、内心はめっちゃ普通の男子で、私をだしに「えーあの日本人とトモダチなの????」みたいに”声を掛けられる”のを期待していたようだった。

 ペナンブリッジを渡り帰路につく車の中は、なんとも言えない雰囲気だった。いや、そらそうやろ!


 次の日、旅友の体調も回復して、プリヤン家を出発する事にした。
 

 最後まで、次の目的地のシンガポールまでの電車のチケットを取ってくれたり、駅まで送ってくれたり、本当に親切な家族だった。

 私が勝手に、初対面での印象だけで、
 「プリングルスヤンキー」
 と思っていただけで、きっとただのめっちゃいい人だったんだろうなと思った。

 そう、幼稚園で習った大切なことを思い出した。

 「人は見かけで判断してはならない。」

 そんな、マレーシアでの旅のお話でした。

 (プリングルスヤンキーの話 完)


 いや、完って書きましたが、実はこの後も、プリヤンと再会して、色々な話はあるのですが…
コメントで「プリヤンのその後知りたーい」とか書き込まれるか、
 もしくは、私がプリヤンにまた会いたくなったら、
 「帰ってきたプリングルスヤンキー」
 を書くかもしれません笑





 

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