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“服装は淑女だが下着は娼婦”で有名な母だけに

ゲテモノが好きになった今、元に戻るなんて到底考えられない...と言っていた友人が、4年越しのゲテモノ不倫に終止符を打とうと奮起している時、俺は新しい恋愛でメンのヘルスがえらい角度で闇落ちしており、全然彼女の力になれないどころか、アイツのキンタマぶっ潰してぇぞ!せいや!などと喚いて彼女にLINEをしまくる始末で、一回息を止めて軽く頭をブツけた方がいいことだけは明白であった。

3日くらい汗をかき続けたパジャマでコンビニに行くことは平気なのに、なぜか執拗なまでに手洗いとうがいを繰り返してしまう。付き合うつもりなどサラサラないアイツに抱かれて喜んでいたのはその晩だけで、朝帰りした日から無性に手が洗いたくなって、触れた部分を殺菌したくて、接吻した口や喉を消毒したくて、じゃあ風呂入れやと言われてもそれは無理(めんどくさい)なのでせっせと小手先の除菌で気を紛らわせる。

「やっほ〜!いやそれがね、全然話は変わるんだけどね、」

そんな激鬱ヘコみ丸ーアイツのチンポは俺が狩るー状態に限って陽気に電話をしてくるのが母だ。

1回の電話の中で“全然話は変わるんだけどね”という枕詞が最多10回は出てくる鬼のギアチェン女だ。話が変わりすぎやし、本当に全然違う話をするので、最近では話題が豊富すぎて逆に尊敬の念すら抱いている。

鬱の時の俺は総じて当たり屋になる傾向があるが、母は全く意に介さず、今回も“実は両首と胸と背中にタトゥーが入ってんねん(どう?こんな俺、ガッカリしたやろ?)”というヘビーな厨二カミングアウトにも、“やだなにそれ初耳ー!気がつかなかったー!通りであんたと温泉入った記憶ないわけだ!あっはっは。それより全然話は変わるんだけどね”と【神戸に猛毒のヒアリ(アリの一種)が上陸した話】を延々としていた。それも3年前の話である。母にとっては4年以内は四捨五入で“最近の出来事”に分類されるらしい。マダニにも注意してね、あれも危ないんだから。
え、うん、てか見たことねぇけど?つーか俺のタトゥーより大事なマダニって何?泣くよ?
話のソースが不明なのもいつものことだ。

「全然話は変わるんだけどね」

今度はなぜかパンツの話が始まった。
“服装は淑女だが下着は娼婦”で有名な母だけに、熱の入れようが半端ない。生きてる意味が分からない...と俄然鬱モード絶好調な私を置き去り(あるいは戦略的放置)にして話は進んでいく。

その昔、大和撫子たちは着物の下に“おこし(お腰)“と呼ばれる巻きスカート状の下着しか身につけておらず、ビル火災が発生した際、上層階に取り残された撫子たちは、下で待ち構える消防団員の男児たちに“もしここから飛び降りたらワレメちゃんが見えちゃうから飛び降りれましぇーん”と言って恥を捨てられず命を落としたという...
一見、何の話をしとんのじゃわれぇ!俺の鬱とワレメに因果関係はねぇぞ!と思ったが、
だからあなたも恥を捨てなさい、旅の恥は掻き捨てよ、人生だって旅なんだから、迷惑なんてかけるだけかけていいの、ヘコんだ自分も自分なんだから責めない、雨風しのげる家があって、温かい布団、履けるパンツがあるだけで幸運!でしょ?
さすが還暦。閉経した女は悟り度がパねぇ。

「全然話は変わるんだけどね」

実は眠りの森の美女はディズニー版だとフワッとした終わり方をしているが、原作は違っていて、100年の眠りについた王女は王子のキスで目が覚めるのではなく、100年という指定年月が過ぎたので自動的に覚醒し、その際たまたま通りかかった王子がクラッシュオンハー、見つめ合うと素直におしゃべりできないTSUNAMI状態になったため強引にキッス、おいこらボケが何してくれとんねん嫁入り前の王女やぞゴラァ!と訴訟寸前になり結婚、なんとか王女の掌で転がされながらの婚姻生活と相成った、今も昔もそのスタイルが一番家庭内平和や、とのことである。知らん。

「全然話は変わるんだけどね」

図書館で昔読んだ“みっつのねがいごと”という絵本を見つけてね。小鬼を助けたおじいさんとおばあさんがお礼に3つの願い事を叶えてもらうっていうよくある話で、鍋いっぱいのソーセージが食べたいって願いをしたところから物語が展開していくんだけど。

「ねぇ、願いを3つ叶えてもらえるならどうする?」
「うーん、母は?」
「あたし?じゃあまずは1億もらってぇー、おっきいテレビもらってぇー、これで2個でしょー?3個目ー?えー?もうなーい」
「まてまてまてまてぃ!1億でTV買おうや、それ別の願いとしてカウントせんほうがよくない?」
「あ、たしかーに!じゃあスーザンボイルになりたい。」
「え?えらい飛んだな...ま、まぁたしかにな...(母はバイオレンス音痴)」
「もちろんボイルの外見じゃなくて美声ね、歌が上手くなりたいの。」
「さりげなくボイルディスらんといて、じゃあとりあえず1個目の願い事を美声にして、海外のオーディション番組出て賞金もらって、そこからメジャーデビューして金稼いだら現金の願い事なくてええやん?」
「あ、やだ超頭いいーー!!!そうするーー!!!」
「じゃあ美声以外の願い、あと2つ考えんとあかんな。」
「え、楽しみすぎるんだけど!!!今夜は快眠できそう!!!」
「ほんま...幸せな人やなぁ...」

今日という日が昨日よりは確実に成長している1日であるはずなのに、明日はそんな今日よりもっと素敵な1日になるかもしれないしれないのに、ずっと昨日の失敗や、やり残した仕事を引きずって今にコミットできていなかった。

母は、ジーニーが確実に現れることよりも、現れるかもしれないという期待だけで幸せになれる。昨日のことは全部昨日に置いてきて、今日のことは夢とともに忘れる。全然話が変わっても大丈夫なのは、少し前までにしていた自分の話に執着がないからだし、目線をすぐに変えて別の角度から違うものを見られるからだ。彼女の目はいつだって新鮮だ。

激鬱ヘコみ丸な俺だけど、3時間(家政婦の志麻さんなら15品は作れるタイム)電話していたら、パンツやオーロラ姫や願い事で頭が一杯になり、メンがヘラっていたことも、ウザ絡みしていたことも、それもまた人生かな...と山城新伍フェイスでパイプをくゆらせている俺がいた。

ゲテモノ好きになった今、元に戻るなんて到底考えられない...と言っていた友人が終止符を打とうとしているのだ、未来は誰にもわからない。
話は全然変わっていいし、人生だって、全然変わっていいのだと思う。


※昭和のアラフォーの猛々しさよ...俺ってば欣也とタメだぜ?

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