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「母になる」と彼女は言った。

別にそんなに付き合いは長くない。
高校の時に出会っているから、
恐らく5年くらいのものだろう。

初めてあったとき、
私は、彼女の敵だった。
彼女の彼氏と仲が良い、女友達。
だから、
彼女の敵だった。

彼は先輩後輩関係なく、
「人」に好かれるタイプ。

だから、きっと、不安で仕方なかったのだと思う
ましてや、そのそばにいるのが女友達だなんて。

何度も彼女からの視線を受けたし
何度も私と話すなと彼氏にも言っていたし
それを私も聞いていた。

そんな彼らは、何年か、別れてくっついてを
繰り返していた。

そのたびに話を聞くのも私だったし
間にはいって喧嘩を止めるのも私だった
そしてそれは、
いつのまにか、彼女から、私に、
頼ってくるのが普通になった。
不思議なことに、
私は彼女の、敵ではなくなっていたのだ。

いつからどうしてなんのために、
聞いたことはないけれど
疑問に思ったこともなかった。
別に、信頼や好意を嫌がるほどひねくれてはいない

そんな彼女から、久しぶりに連絡が来た
私は20で仕事に出ていたし、
彼女は学生だったから、
あまり連絡もとらず、会いもせずにいたのに。

電話がしたい、とひとことだけ。

かけて、第一声目

私、お母さんになるの。

彼らがあのあとも続いていたことは
SNSを通じて知っていた。
喧嘩も少なくなったもんだな、と
他人のことのように
(実際他人のことなのだけど)見ていた、のに。

お母さんになるの。
まや、私、お母さんになるの、信じられる?

信じられない、等とも思わなかったけれど
よかったね!とも言わない自分に驚いた

喧嘩のたびに、妬いて心苦しくなる度に
不安になるたびに、
私のところに来ていた彼女が、
そのときの

もうやだ、どうしよう

のトーンと同じトーンで言ったのだ。

おめでとう、と少し間が空いてから発した言葉に
彼女は、なにも追求したりしなかった。
なんでそんなに間があくの、なんて
聞いたりしなかった。
ただ、

まやのお陰で、別れなかった。

と。
話終わって、電話を切ったあと、
安堵し、疲弊し、傷ついた。

何をいっているんだ、
私のお陰、だなんて。
私のお陰なわけがないのに。
なんやかんやで、
きっと彼らは別れなかっただろうし
私のお陰な訳がない。

睨み付けて、毒を吐き、
一緒にいたりしないで!と叫び、
私のよくない噂をながし、
聞こえるように悪口を言ってきて、
自分が苦しくなったら
今度は頼ってくるようになるなんて。

なんて身勝手
なんてわがまま
なんて残酷

私はあのときそう思っていたのに。

おめでとう、とすぐ言えなかったことに
よかったね、とすぐ言えなかったことに
私は少し傷ついた。

なれていたはずの女の子のわがまま
かわいいとすら思っていた女の子のわがまま
同姓の私が受け入れられないのに、
男性は受け入れられるのだろうか。

つくづく女は身勝手だ、と思うのに。
どうしてもその身勝手すら、
愛されるべきと思ってしまう。

私もつくづく女なんだな、と思う夜。

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