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2022年映画マイベスト10

 「シネマビーツ」Podcastで2022年のマイベスト10を語ったんですけど、例年noteでも書いていたので、文章でも残しておきたいなと思います。今年も良い映画多くて結構悩んだ。。。

【第10位】ちょっと思い出しただけ(日本)

ここ数年、恋愛振り返り系の国内映画が多いけど、その中で一番自分に刺さった映画。冒頭で二人が別れることを観る側は知らされているだけに、そこからカップルの6年間を遡っていくことで、最も美しい恋愛の始まりに近づいていく構成に胸が苦しくなる。二人が過ごす部屋に置かれている小物等の変化で、観る側が二人のそのタイミングでの関係に思いを馳せることができるようになっており、観る側が自発的に映画にコミットすることで、二人の話をより一層自分事化していく。池松壮亮と伊藤沙莉という演技の上手い二人によるカップルの様子も辞めてくれというくらいにリアル。観ている間は、ずっと自分の過去の恋愛も同時に頭に浮かんで辛かった。ただ、映画自体は過去の恋愛を引き摺るのではなく、とても前向きに捉えていることがわかる作りになっているのも良い。まさに『ちょっと思い出しただけ』という具合に。

【第9位】選ばなかった道(イギリス/アメリカ)

おそらくベストに選ぶ人がほとんどいないであろうし、評判も、観たという人の声もあまり聞かないけど、個人的にはかなり響いた映画なのでランクイン。ハビエル・バルデム演じる男は認知症を患っているのだけど、『ファーザー』のように認知症自体にフォーカスはしておらず、あくまで過去を振り返る男の物語を追体験する上での設定でしかない(監督のサリー・ポッターが自身の介護経験から着想を得ているとしても)。映画として伝えているのは、「人生の分岐点で違う道を選んでいたら、、、」というifの話。それは自分みたいな人間は考えがちなことなのだけど、この映画が最後に伝えるメッセージに救われた想いがした。全然違う映画だけど、メッセージの方向性だけ切り取れば『ちょっと思い出しただけ』とも共通するとも言える。今後も自分はまた同じことを考えると思うので、その都度見返したい。あと、父親を介護するエル・ファニングが超絶愛おしく、応援したくなる。父親の病院の予定と自身の仕事の大事な会議は予め調整しておこうよとは思うけど、それもご愛嬌。

【第8位】TITANE/チタン(フランス/ベルギー)

今年観た映画の中で、一番ぶっ飛んでた映画。ウルトラバイオレンスの向かう先は『プロミシング・ヤングウーマン』的なフェミニズム映画なのかと思いきや、安易に理解をすることを拒絶するような展開に、「これは何の映画を見せられてるのか?」と困惑していると、ジェンダーを超越した人類愛のような壮大なテーマに繋がっていく(ように思える)というとてつもない映画(これは何の映画?感は『MEN 同じ顔の男たち』のラストにも感じたけど、『MEN〜』の方がまだ取り付く島がある感じ)。フェティッシュな映像や音楽使いのカッコ良さも含めて、フレッシュなイメージが脳裏に焼き付いた映画。

【第7位】RRR(インド)

ラージャマウリ監督の映画は、我々が馴染みの薄いインド映画の文脈にハリウッド、香港映画のエッセンスを取り込んだハイブリッドな超エンターテイメント作品と言った感じ。これはこれで『TITANE/チタン』同様に観たことないエクストリーム映画と思う。一カット一カットを拘り抜いたとにかくアガる場面の連続で終始脳が喜んでいるような感覚の3時間。極め付けはキレキレという言葉はこのためにあるというようなナトゥダンスシーンの多幸感は、自分がこれまで劇場で味わったことのないレベルに達していた。

【第6位】ボイリング・ポイント/沸騰(イギリス)

全編1カット長回しというアプローチが、チャレンジとして凄いというだけではなく、そのことによる圧倒的な没入感や登場人物の一人一人にスポットライトを当てる効果に繋がっているのが素晴らしい。説明的なセリフも無し、僅かな登場シーンで各人のキャラクターやバックグラウンドを理解させるストーリーテリングが巧み。クリスマス前の忙しいレストランという場に自分もいるような感覚になれるというバーチャル体験としても楽しいだけではなく、組織論としても学びがあったり、各キャラクターを通じて現代の様々な社会問題にまでリーチしていく裾野の広さがあり、奥深い映画だった。

【第5位】誰かの花(日本)

世の中に起きている問題は、絶対的な悪の存在によるものの方が珍しく、それぞれが自分なりの正義や希望に基づいており、だからこそ解決が困難なのであるということに目を向けさせられる作品。そして、それは全く他人事ではなく、何かのきっかけで自分も直面するであろうことを想像させる。奥田裕介監督の社会に対する誠実な向き合い方に心を打たれた。そして、主人公を演じるカトウシンスケ氏をはじめとして、善でも悪では割り切れない実在感のある人間の演技は見応えがあった。

【第4位】ニューオーダー(メキシコ/フランス)

格差社会が広がった世界のディストピア映画。システムが暴走し始めると、末端にいる人間達では何もしようが無く、悪の実態が見えないまま、無慈悲な暴力や抑圧が繰り広げられるという恐怖は、不気味だが、リアリティがあり、真の意味でのホラー映画と感じた。この映画の中でも、無慈悲な暴力は、個々の人間がどんな人間であるかは無関係に作動する。その人が良い人だろうが、悪い人だろうが、貧しかろうが、金持ちだろうが。その全く話が通じない感覚に非常に恐ろしさを感じた。映画としても、冒頭、長回しで映される結婚パーティに徐々に不穏な空気が漂い、いつの間にか最悪の状態になっている場面は見応えがあった。暴徒が象徴的に使用する緑のペンキが鮮烈な印象を残す。

【第3位】わたしは最悪。(ノルウェー)

女性が社会で活躍することが当たり前になっているノルウェーの女性は、結婚、子育て、仕事、遊びと選択肢が幅広いだけに悩むことも多いのかもしれない。何を選択するのか、それは男性よりももっと複雑だ。主人公ユリアは映画の中でずっと自分にとっての特別な何かを求めて右往左往している。それは理想の姿ではないかもしれないけど、そんな人生の中で努力したり(努力しなかったり)、恋愛したり、仲間と弾けたりという全てが人生であり、肯定されるものというメッセージに背中を押された気分になった。ノルウェー・オスローの美しい街並みや、2度ほど挟まれる斬新な映像演出(ドラッグのトリップ表現はフレッシュ)などの見どころと共にユリアの人生と並走するのは、嬉しかったり、楽しかったり、時に悲しかったりと、まさに人生という感覚を味わえた。

【第2位】シャドウ・イン・クラウド(ニュージーランド)

クロエ・グレース・モレッツの出演作って何だかんだで『キック・アス』しか観て無いかも、久々観てみようくらいの軽いノリで全然期待せずに観たら予想外に最高な映画だった。第二次世界大戦の爆撃機に乗って、グレムリンに襲われる話と聞いたら、くだらないB級映画かと思いそうなところだけど、これがしっかり面白い。前半はクロエと顔の見えない男達との会話のみだが、自然な形で物語の背景をわからせつつ、後半へ振りとサスペンス展開もあり飽きさせない。低予算映画を逆手に取った工夫(K.U.F.U.)がアツい。後半はそれまでの閉塞感をブチ破るようなド派手アクションのつるべ打ちの堪らない爽快感。クロエが頼もし過ぎてカッコ良い(いや、確かに『キック・アス』でも強かったけど)。そんなジャンル映画的な作品なのに、エンドロールで流れるある映像が流れると、これははっきりとフェミニズムメッセージを込めた映画だとわかり驚愕する(前半の会話も振りとして効いている)。近年、フェミニズムは映画のテーマとして大きな柱の一つであるけど、このようなアクション映画との組み合わせがあったとは。ロザンヌ・リャン監督、恐るべし。あと、エンドロールなどで流れる80'sニューウェーブなシンセサウンドも心地良かった。

【第1位】NOPE/ノープ(アメリカ)

合計3回観たけど、観る度に面白さが増していった映画。最初観た時は、ホラー映画かなと思ったら、アレ違う??と振り回されつつ、でも、出てくる登場人物達の会話劇の魅力と、夜中の空の映像的な美しさ、起きる出来事の意外性で楽しんだ。でも、あれどういう意味だったのかな?を考えたり、色々調べたりしながら観た2回目から、その裏に隠されたメッセージにどんどん引き込まれて行き、3回目を観る頃にはどっぷりハマっていた。黒人家族に起きた奇妙な出来事を描きながら、映画史を語るという突飛な発想が凄過ぎる。また、IMAXの四角いスクリーンをふんだんに活かし、登場人物と共に観る側も「見上げる」体験を共有するのは楽しかった。IMAXで撮る意味、観る意味をこれほど感じたことはない。ジョーダン・ピール監督、最高のシアター体験をありがとう。

【次点】
スティルウォーター、LOVE LIFE、ある男、セイント・フランシス、カモン・カモン、パリ13区、ブラックフォン

【まとめ】
今年は『NOPE』『ブラックフォン』をきっかけにホラーを観るようになったり(といっても『ミッドサマー』は途中で止めたままだけど笑)、ジャンル映画のプラットフォームを活かして、その上にメッセージを忍ばせたような映画を好む傾向が自分の中にあった気がする。テーマをそのまま直球で描くよりも、ジャンル映画としてエンタメを成立させながらも、メッセージを忍ばせる方がより、多くの人にリーチしやすかったり、そのメッセージについて普段は考えてない人にも届くのではないか。単に自分の好みかもしれないが。いずれにせよ、今年もたくさん面白い映画に出会えて良かったし、Podcast で語る体験も楽しかった。音声ならあまり辻褄を考えずに話しっぱなしで良いのが気が楽ではある。ただ、久々にこうしてテキストで映画について書いてみると、やはり音声よりも思考が深まる感覚があり、これはこれで良いものだ。来年は再び文章を書く頻度も維持したいと思った。

Podcastでの2022年ベスト10発表はこちら↓

【おまけ】
映画を観た際は、映画の理解&映画にお金落とす意味で大体パンフを買ってる(余程ハマらなかった作品を除く)のだけど、今年くらいからパンフを作ってない作品が増えてきて寂しい。日本固有らしいパンフ文化は続いて欲しい。



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