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中国現地法人における内部通報制度の構築

内部通報制度とは、法令違反や不正行為等の事実、又はその疑いやおそれがある場合に、その状況を知った者が特別に設けられた通報受付窓口に対して通報する仕組みのことを言います 。内部通報制度は中国現地法人のコンプライアンス管理の一環として非常に有効な対策であるため、中国現地法人における導入事例が年々増えています。

(1) 通報受付窓口の構築

通報受付窓口については、中国現地法人専用の通報受付窓口の設置と本社の通報受付窓口の設置を中国現地法人において周知することが重要です。また、二つの窓口は、社内に設けてもよいですし、又は法律事務所等外部の第三者に通報受付窓口を設けてもよいです。特に中国に投資性会社を有する大手企業の場合は、中国の投資性会社内に、当該投資性会社に所属する中国現地法人の通報受付窓口を設ける例が比較的に多く見受けられます。一方、従業員に通報しやすい環境を作るために、積極的に通報受付窓口を外部の法律事務所や会計士事務所等に設ける日本企業も増えています。なお、通報の手段として、電話や電子メールが多いが、実際の利用実績から見ると、電子メールによる通報がほとんどです。

(2) 内部通報制度の利用

内部通報制度を導入することで、通常の業務監査等では発見されにくい不正行為をあぶり出すことが期待できます。これだけでなく、内部通報制度を通じて社内の不正行為に関する情報が取得できた場合は、内部調査の初期対応も効率的かつ安全に行うことができます。筆者の経験から、最初は匿名による通報が多いが、適切に対応することにより、通報者の信頼を得られれば、名前を開示することや面会を実現することもできます。その場合は、より確実な情報や証拠等を入手することが可能です。
中国は告発文化であると言われています。数多くの政府当局には商業賄賂の通報窓口が設けられています。例えば、国家監察委員会には通報のホットライン(12388)や通報のwechatアカウントがあります。また、通報に対する奨励金制度も多く存在します。例えば、最高人民検察院は「人民検察院通報業務規定」(1996年制定、2009年と2014年二回改正)を公布し、その第67条において、「人民検察院は、犯罪の性質、犯罪の金額及び通報材料の価値に基づき、奨励金額を確定する。案件毎の奨励金額は通常20万人民元を超えない。通報者は重大な貢献があった場合、省レベルの人民検察院の許可を経て、20万人民元以上の奨励を与えることができるが、最高金額が50万人民元を超えてはならない。特に重大な貢献があった場合、最高人民検察院の許可を得れば、上記金額の制限を受けない。」と定めています。
一方、中国においては、内部通報制度に対する不信感が高いという問題も無視できません。現地従業員にとっては馴染みのない制度であるため、会社内部で通報すれば、自分が通報したことが社内で広まって居場所がなくなるかもしれない、あるいは、会社にとって都合の悪い告発であるとみなされて告発自体がもみ消されたうえで報復人事を受けるかもしれない、という懸念を抱える従業員が多いです。そのため、内部通報受付窓口ではなく、政府当局に直接告発しようとする傾向も見られます。

(3) 内部通報制度の周知

中国では、内部通報制度に関する法律規定は整備されておらず、日本でいう「公益通報者保護法」のような法律規定はありません。よって、従業員の内部通報制度に対する不信感を払拭させるために、内部通報制度及び通報者の保護に関する制度の設計等を従業員に周知させて、理解させる必要があります。社内の掲示板等に掲示することや従業員に冊子を配るだけではなく、定期的に外部の専門家を招いて研修を実施することが有効です。

(4) 内部通報への対応

内部通報により不正の可能性が報告された場合には、速やかに情報の信憑性を評価し、事実確認等の対応を行う必要があります。さもなければ、ようやく築いた従業員の同制度に対する信頼が一気に崩してしまうおそれがあります。
内部通報を受けた後の初動対応として、通報者に対するヒアリングを行うことが多いです。匿名による内部通報の場合は、証拠物の提出や面会を求めることから進めていくことになります。その場合は、会社内部の担当者ではなく、外部の弁護士を窓口にすることが通報者の信頼を得やすいと思われます。なお、不用意に関係者に対してヒアリングを行うと、通報があったこと、通報された情報等が社内に拡散し、不正行為者にその事実が知られて証拠隠滅を図られるおそれがありますので、慎重な対応が必要であります。

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