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声星

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記事一覧

わたしは蒼夜

回ってく ゆっくりゆっくり私の体 廃屋 ゴミ溜め 錆びた工場 めくるめく巻物 ゼンマイ仕掛けのドールハウス くるまはどこまで行けるのか?心配してない高速代 わたしだけのかなしみ追いかける 人魚は泡に わたしは塵に 誰もいないパーキング 自分の顔をぐるぐるさわる ほんとうに行ってしまったの?回ってく ゆっくりゆっくり私の心 窓ガラス 冷めた金属 舗装されたアスファルト そして海へとかえっていく だれ

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趣味

 突然なのだけど、わたし、本が好きなの。特に、本を買うのが。ええそう、その前やその後にどうということではなくてね、「本を買う」、それがいいの、わかってくださるかしら。わたし、本を買うのが好きなの。読むことではなくてよ。いえ、もちろん読むということを厭だと思っているのではないわ、あの、さらさらした土のような文字の上を滑る指先や、頁を捲るときの手にかかる幽かな甘さ、震える心を持ち上げるためのふかふかの

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行き止まる<002・詩>

つめたい世界で深呼吸して
葉っぱが連れ去られていく先を想像する
踊るような道を辿って
わたしは行けない
そこに行けない先を想像している

なにも選べない
選ぶことのできない夜がいい
身体はするどく
心くろぐろとして
世界が反転させる数々の
仄暗い幕
ひたすらの思い出

消灯

記憶・001

映画館どころか本屋すら一軒もなかった私の地元では、どんな文化だって、大人になって、地元を出てみないと知ることができなかった。電車の乗り方だって、美術館でのふるまいだって、観劇のしかただって、全部成人してから初めて理解した。初めて東京に行ったのも、自発的に美術館に行ったのも、舞台を見たのも、自動改札を通ったことさえ、私は20歳を過ぎてから経験した。そういう世界で育っていると、文化的リテラシーなどとい

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記憶002

わたしのフィールドは東京にある気もするし、東京というフィールドがわたしを殺す気もする。わたしが飛び込みたいのは体力勝負の世界だからやめたほうがいいのは分かってるんだけど、いま生命燃やさないでいつ燃やすんだ?実際、東京じゃなくてもたぶんいいのは分かってる。行ったことない土地の方がずっとずっとずっと多いし。なのに、それでも、それでも、がやめられない。これはもう呪いなんだ。‬東京ではない土地に生まれ、東

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0508

ゲージュツに携わりながら、ゲージュツのために死ねない人に対して、なぜあなたはゲージュツのためにしねないの、と聞いてしまいそうになる 命あっての物種とはいうけれど、わたしは、文化芸術の地位がもっと高くなる社会の実現、しか、きょうみがなくて、そうなるために残りの人生すべて捧げるときめていて、というかそれ以外にやりたいことも興味もなくて、それはもちろんわたしがそうしたいからという背景があるのですけど、そ

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0414

もっとフラットに、もっとノーマルに、もっと無意味に、もっと意義なく、繊細に、やさしく、赦し、深淵から、優雅であるための戯曲がほしい気がする。自分自身であることを、〔私〕であることから切り離すことなく現前化するための。なぜそうしたいか?は、よく分からない。それは問うに価する問いなのかしら?
戯曲でなくてもいいのかもしれない。文字や、言語を使うことが一番好きだけど、色や、形でもいいのかもしれない。でも

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なすすべもなく星を見ていた日を思い返して

オリオンがまず見えて、そのわずか左にこいぬ座、下方におおいぬ座がある。冬の大三角形が見事に輝くのに負けない光がそこらじゅうに瞬いていた。流れ星もたくさん見たような気がする。ぐるりと首を回したら、視界全部に広がる星々の世界は水平線のようにまるくなく、かといって平面にも見えなくて、感覚はだんだんと吸い込まれるようにおかしくなって、それから二歩も進めばよろめいた。それでも、熱に浮かされたように、目の前の

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ライナーノーツ・記録011に代えて

 帰省してから3日目の朝、風邪をひいた。原因は明らかで、前日の夜に髪を乾かすのをてきとうにしたから。地元は寒いし、うちは古いので、朝なんかはとくに、首から上がびっくりするくらい冷えている。最初はいよいよ花粉症かと思っていたけど、夜に顔が赤いことを指摘されたので熱を計って、風邪だと分かった。一夜明けてもたいして変わらなかったが、どうしても風呂に入りたかったので家風呂を使っていいか聞かれたら反対された

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序・ゲーテブルーの歓待

 ゆっくりと、しかし夏の夜の訪れよりはずっとずっと早く、すべてが暗闇に落とされていくと、ぼくは負けじとすばやく二度瞬きをして、瞳孔をきゅっとしぼる——ぼくという存在が、いまこちらへと飛び込んでくる世界に飲み込まれてしまわないように。そして客席の誰よりも早くそれになじめるように——このときと、あとはカーテンコールの瞬間が、ぼくはいっとう好きだった。この境界線上へと招待されている時だけ、この時だけが、

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1月25日<001・散文>

25になるかなしみに襲われて、ずっと昔の曲を聴く。幼い頃に好きだった曲は、ひとつの取り零しもなく今でも好きで、それのどこに安心できるのか何ひとつ理解できやしないが、それでもとても安心できると思った。何ひとつ順番通りにいかない、思っていたピイスが何ひとつ嵌らないパズルを与えられている。夜が来ればいずれ日が昇って、また一日が人々を叩きのめす。誰も、誰も、その力に逆らえない。だから私も逆らえない。私は逆

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