#002 2014年度金賞「剣フック」

これはデザインの導入授業で必ずといっていいほど紹介する事例です。まさにプロダクトデザインの真骨頂とも言うべきデザインだと思っています。

「剣フック」はランヤードの環

剣フックはランヤードの構成部品のひとつです。ランヤードとは和名で安全帯と呼ばれている「高所作業者が落下しないように命綱を体につなげるための装備品」を指します。構成部品は大雑把に分けて

1.環(カラビナ)と呼ばれるフック部分
2.紐
3.体につなぐベルト部分

の3つで構成されています。使用シーンはどのような状態かというと以下のような感じです。

(引用元はこちら/ボウスプリット上の高所作業 posted by (C)miyappp)

建築関連事故の半分は落下

これは剣フックのプレゼンテーション動画にも出ていますが、建築関連事故の約半数は落下による事故だそうです。しかもその半分は足場作業中の落下事故だそうです。では何故、命綱をつけているにも関わらず足場作業中に落下してしまうのでしょうか?それは、ランヤードの付け替え時に発生していたそうです(詳しくは下の動画をご覧ください)。

超簡単に説明すると「移動する時、必ず命綱を"付け替える"瞬間が発生するが、それは落下事故が引き起こされる危険な瞬間でもある」ということです。では、なぜ付け替えの瞬間に落下してしまうかというと「フックをつける動作中に指が引っかかって、うまく付けられず、そのままバランスを崩して落下する」だそうです。

どうしたら指が当たらなくなるか?

それに気がついた株式会社基陽さんでは、これを打破すべく開発に取り組んだそうです。そこで生まれたのが剣フックです。従来のフック部分と大差ないので、パッと見た感じではその凄さが分かりません。ということで、授業で使用している素材を使いながらザッと説明してみたいと思います。まずは、一般的なフックと剣フックを線図で表してみました。左側が一般的なモデルで右側が剣フックです。

さて、いかがでしょう?これで分かるでしょうか?中々分かりませんよね?ということで命綱の断面図も入れてみたいと思います。それがこちらです。

命綱にも色々なサイズはあるかと思いますが、最大サイズを想定してみました。段々と見えてきたかと思います。そして、最後に「引っ掛ける瞬間の手」を入れてみたいと思います。それがこちらです。

たしかに指が引っかからないですよね。サイズ感を変えずして「指が引っかからない」を実現しています。このポイントは2つです。

1.開口部が広がるようにフックの断面を微妙に調整
(強度確保のためにフック部の幅や断面形状が細かく調整されているように感じます)

2.スリーブ(手を引っ掛ける部分)部に指型形状のくぼみを入れている
(これも強度確保を狙いとしたトラス形状や手のサイズのばらつきを考慮したくぼみ形状など、細かく考慮がされているように見えます)

実に芸が細かい(芸と言ってしまうと失礼かもしれませんが・・・)です。いずれにせよ、ものすごくキメ細かく検討がされているのはよくわかります。

詳細な検討が命を救う

「サイズ感や使い方、パッと見た感じの印象を変えずして命を救う」デザイン。素晴らしいですよね。まさにプロダクトデザインの真骨頂だと私は感じます。

なので、私もデザインの導入授業で「デザインを志すのであれば、ここまできめ細かに形状を検討するように心がけよう。そうすると救える命もあるし、場合によってはあなたの安易なデザインで人が死んでしまうこともある。」なんていう説明をしたりします。その事例としては、実に素晴らしいさんプルケースだと思っています。こういうデザインが世の中に沢山あらわれるといいなぁなんて思っています。

以上、剣フックのご紹介でした。

(ヘッダー画像はグッドデザイン賞受賞対象のページより引用)

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蘆澤 雄亮

元・グッドデザイン賞の事務局員、現・大学教員です。

グッドデザイン賞を受賞した「よきものたち」

グッドデザイン賞を受賞したものたちの中には「これはみんなにも知っておいて欲しい」というものもたくさんあります。そんな「これは知っておいて欲しい」というものについて解説してみたいと思います。
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