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朝の7時45分に、少し熱めのコーヒーを。

ふーっと、一息ついてコーヒーを飲む時間が好きだ。

と言っても、僕の家には別にコーヒーの豆を挽くミルがあるわけではないし、ささやかなこだわりとしては丸山珈琲のオンラインストアで浅煎りの粉を定期購入しているくらいのもので、グアテマラの豆を熱心に取り寄せたり、週末にときどきコーヒースタンドをやったりする友人たちに比べれば、僕は「まあコーヒー好きかな」のレベルだ。

ただ一つだけ、どうにもこだわってしまうことがある。それはコーヒーを飲むタイミングのことだ。毎日飲むコーヒー、それをいつ、どんなタイミングで飲むかが問題なのだ。

月曜日の朝、6時にアラームで起きて顔を洗って、歯を磨いて、そしてコーヒー?ではない。まだ早い。あかん、このタイミングは早すぎる・・・。この冬の時期なら、まず電気ケトルで沸かしたお湯を飲む。そのままだと熱いので、少し水を入れて冷ました白湯にする。それをマグカップでゆっくり飲んで服を着替えて、ささっと髪を整えたあと、パソコンを開いて小1時間ほどメールをチェックしたり、Googleカレンダーで今日のスケジュールを確認したりする。

そして7時20分ぐらいになると、昨日買っておいた「あんことクリームチーズのパン」を忘れずにリュックに入れて家を出る。10分ほど車を走らせて職場に到着し、まだ誰もコーヒーを淹れていない時は、紙のフィルターをコーヒーメーカーにセットし、職場で購入しているAGFのブレンドコーヒーの粉を大きめのスプーンに2杯、水とともに流し込んで10分ほど待つ。

そして7時45分くらいになると、持ってきたタンブラーに出来上がったコーヒーを注いで、あんことクリームチーズのパンをリュックから取り出して、一口かじってから本日一口目のコーヒーをすする。

ああ至福だ。この時間を何なら昨日の夜ベッドに入った時から待っていたんだよ、という気持ちになる。雪が降った寒い朝なんかには、特にこの朝の一杯目のコーヒーが染みる。

コーヒーのお供のパンにハムチーズや、スパイシーソーセージを選ぶこともある。どのパンにしようか仕事帰りに選ぶのも毎日のひそかな楽しみだったりする。

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大体はこんな風に一日がはじまって、ここで仕事のギアを一気に上げる。一杯目のコーヒを飲む時は仕事のスイッチを入れるタイミングでもあるから、タイミングは極めて重要だ。そしてバチッとスイッチを入れる意味でも、朝は少し熱めのコーヒーがいい。

今は島根県で田舎暮らしをしているが、東京で働いていた20代前半の頃は、自宅の豊洲から有楽町線に乗って麹町の駅で降り、7時には店が開く駅前のスタバで、トールサイズのラテを「熱め」で注文し、新宿通りを四ツ谷方面に歩き、6階のオフィスに着いてから、窓際のお気に入りの席で新宿通りを行き交う車を眺めながら一息ついて、まだ熱いラテを飲む時間が好きだった。

こんな僕の気持ちを見透かしたかのように、吉田修一さんの「空の冒険」というANA機内誌の連載にこんな一節がある。

少し枯れた芝生に、紅葉が舞い落ちる。風はなく、日差しはおだやかである。池を見渡すお気に入りのベンチは空席。来る途中に買ってきたカフェオレはまだ熱い。日々の喜びは?と聞かれたら、仕事の合間に訪れる近所の公園でのこんな一瞬を挙げたい。( 翼の王国 2018年12月号 / 吉田修一「空の冒険」より)

些細なことなんだけれど、吉田修一さんの日常を見るまなざしと、その解像度の高さには、いつも惚れ惚れしてしまう。

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さてコーヒーを飲むタイミングの話に戻ると、仕事が休みの日、土曜日の朝なんかは8時くらいに起きてから、まずは例の通りお湯を飲む。夏なら冷たい水をコップ一杯ごくっと飲む。それから洗濯機を回し、早速コーヒーを淹れたいところだが、いやもう少しだけ待とう。

ゆっくり歯を磨いて、天気がよければ布団を干して、洗濯機のタイマーが終わるのを待ち、溜まった洗濯物を全部干し終わって、ふーっと一息つく。そしてトースターでハムチーズのパンを焼きながら、浅煎りのコーヒーを淹れる。ネルドリップからぽとぽと落ちていくコーヒーをぼーっと眺めながら、コーヒーの香りが広がってくるのを楽しむ時間がいい。

そして冷蔵庫に何か果物があればそれを切って、コーヒーをマグカップに入れたら、ハムチーズのパンをかじりながら本日一口目のコーヒーをすする。少し酸味があってジューシーな浅煎りがやっぱり美味しい。平日より少しだけ贅沢で、ゆったりした土曜日の朝はとても幸せだ。

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何だか他愛もないことをつらつらと書いてきたが、家で漬けている大根のぬか漬けも、昨年夢中になって豚バラのブロックからつくった自家製ベーコンも、風呂上がりにグイッと飲む黒ラベルの缶ビールも、そして朝の一杯目のコーヒーも、どれも口にするタイミングが僕にとっては重要なのだ。

それぞれの絶好のタイミング、おいしいタイミングをじっくり待つ、その時間こそが何よりも楽しく、愛おしい。

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