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新しい音楽頒布会 Vol.10 フィリーソウル、パワーポップ、ポップロック、アマピアノ、ヘヴィ・プログレ

すっかり寒くなってきましたね。秋から冬へ変わりつつあります。今週はUS2枚、ナイジェリア1枚、UK2枚の計5枚をどうぞ。

おススメ1:Bruce Springsteen/Only the Strong Survive

デビュー50周年を迎えるUSロックのボスことブルーススプリングスティーンの新譜。今作はオリジナル作品ではなくカバー集です。カバー集としては「We Shall Overcome: The Seeger Sessions (2006)」に次ぐ二作目。ソウルのカバー集で、ポップソウルやフィリー(フィラデルフィア)ソウルと呼ばれるようなストリングスが入ったシティポップの源流的な曲を集めたアルバム。普段のボスのアルバムに比べるとアーバンでポップな雰囲気です。中盤やや薄味に感じるところもありますがそこは流石の存在感で終盤になるにつれて熱が籠っていく。聞き終わった後は単に心地よく聞き流すだけではない熱量が残ります。こういう歌の力、暑苦しいとまで言える歌力がボスの真骨頂ですね。ソングライターとしては安定した作品を生み出し続けているボスですが、こうしたカバー集も新しいインプットとして必要なのでしょう。ボスの作品としては異質で、爽やかで聞きやすいけれどボーカルにはロックな熱量が籠った1枚。いつものボスを求めると物足りなさがありますが、良質な音楽が楽しめる良盤だと思います。


おススメ2:Enuff Z'Nuff/Finer Than Sin

USのベテランロックバンド、イナフズナフの17枚目のアルバム。80年代、グラムメタルブームの最中にデビューしたものの本質的にはポップロックバンドであり、ポールギルバードやワイルドハーツなどに影響を与えました。USなのにUKっぽい、というかビートルズ的なメロディセンスを持っており、中心人物はチップ・ズナフ(メインはベース)とドニー・ヴィー(ギター兼ボーカル)の2名。ただ、ドニーは2013年に脱退しており、2016年からはチップがメインボーカルも兼任する体制になっています。もともとはドニーがメインボーカルだったのですが、チップがボーカルを兼任するようになってリードボーカルがやや弱くなった分、ハーモニーがさらに強化されています。その所以もあってかワイルドハーツと音の共通項が増した気が。チップズナフのワンマン体制になってからは創作意欲が活発なようで2016年以降で6枚のアルバムをリリース。バンドの調子が良いのでしょう。本作も良質なメロディが詰まった佳作。メロディの煌めきは健在です。イタリアのフロンティアレコードからのリリース。フロンティアレコードはベテランアーティストの才能を引き出すのが本当にうまいレーベルですね。


おススメ3:Cassyette/Sad Girl Mixtape

UKのニューカマー、CasseyttoカセットことCassy Brooking。本作がデビューアルバムです。2019年のデビューシングル「Jean」が注目され、ニューメタルやポップパンク界で注目のアーティストに。デビューアルバム未リリースながら2022年6月のDownload UKにも出演していて気になっていました。メインステージではないもののそこそこ大きな扱いだったんですよね。WargasmとCasseytteはUKでは注目株。まだ突き抜けた個性まではありませんがキャラクターが立っているし、USのウィロウスミス(ウィルスミスの娘)と近いような音楽性を感じます。90年代的なポップパンクサウンドとニューメタル的な音を2020年代の感覚でミックスしている。ややベタながらセンスが良い曲とサウンドでここからどこまで化けるか楽しみなアーティスト。


おススメ4:Wizkid/More Love, Less Ego

Wizkidウィズキッドことアヨデジ・イブラヒム・バログンは1990年ナイジェリア生まれ。アフロビート界、ひいてはアフリカ音楽界屈指の大スターになりました。南アフリカ由来のディープハウスシーン、アマピアノに分類されることも。本作は2年ぶり5枚目のアルバム。抑制された情熱というか、アフロビートならではのUSとは異なる生命力を感じるリズムと、アーバンでクールな質感が混ざった他にはない個性。前作はビルボード1位を獲得していますが本作はどうなるか。今年はラテンの枠を超えてBad BunnyがUSで巨大なセールスを記録しましたが本作はどうなるでしょう。最新のUSのメインストリームの音の中に溶け込みつつもリズムやメロディがアフリカ色が残っており、新鮮に聞こえる気がします。音楽って多様性が大事ですからね。似た感じのものばかりだと飽きてくるけれど、そこに新しいスパイスが入るとハッとする。


おススメ5:Ashenspire/Hostile Architecture

UK、スコットランドのヘヴィロックバンド、エイシェンスパイア。ポストブラックメタルやアヴァンギャルドメタルに分類されていますが、一聴するとヘヴィプログレ、ヘヴィロック色が強い。ダルシマーとか民族楽器を導入しており、ちょっとトラッド的なセンスがあります。個人的な印象としてはヘヴィ化した(初期~中期のヘヴィロック期の)ジェスロタルみたいな感じ。USのインペリアルトライアンファントと双璧をなすアヴァンギャルドメタル、みたいな評価も目にしますが本作はそんなに前衛的だったり不協和音の追求をしている印象はなく、メロディにはUKトラッドミュージックの影響を感じます。個人的にはかつてスロヴェニアで活動したカルト的なプログレッシブロックプロジェクト、Devill Dollを連想したり。前衛的で暗黒な感じはあるけれど、けっこう聞きやすい。わかりやすいドラマがあります。あまり前衛的すぎるものは聴くシチュエーションがかなり限られますが、このアルバムは娯楽性もあっていいバランス。独自の領域を切り開いた名盤。あと音がけっこう有機的。「メタル」から想起されるカッチリした音像よりはもうちょっと荒々しい質感があります。ポストメタル(ニューロシスとか)的。


以上、5枚が今週のおススメでした。それでは良いミュージックライフを。

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