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新しい音楽頒布会 Vol.5 ポップ、ロック、メタル、ワールドミュージック

今週は目玉なし。代わりにいろいろなアルバムを紹介します。「これ!」という目玉はなかったけれど、いいアルバムには出会えました。おススメ6枚。

おススメ1:Alvvays/Blue Rev

PitchfolkのBest New Musicでレコメンドされていた1枚。カナダ、トロントのインディーポップバンドの5年ぶり3作目となるアルバムです。女性ボーカルを擁する男女5人組。ギターポップとネオアコを組み合わせたような音。ギターポップやネオアコは日本の用語なので、英語で言うとジャングルポップやトゥイーポップですね。ザ・スミスやベルセバ、ペイルファウンデーションなんかに近い音像を持ちつつ、ヴァンパイアウィークエンド的な軽快さも持ち合わせています(あそこまでリズムに拘りはないけれど)。こういうバンドはストレートなサウンドな分、曲の善し悪しがまっすぐでる気がしますが本作は良曲が詰まった素晴らしい作品。こういうジャンルが好きなら年間ベストの名盤かも。適度にスピーディーでスリリングながらドリーミーな感じ、ちょっとリラックスできる感じもあって退屈しないし、聞き疲れません。このバランスは見事。


おススメ2:WILLOW/<COPINGMECHANISM>

USのSSW、WILLOWことウィロウ・スミスの1年ぶり5作目のアルバム。この人の場合アルバムと言っても1枚40分以下なのでミニアルバム的な感覚というか、60年代、70年代的なのかもしれません。ウィル・スミスの娘として女優デビューしていますが歌手活動も本格的。前作もグランジ・オルタナテイストをうまく取り入れて耳に残る出来でしたが本作はさらにロックサウンドに接近、ポップパンクやポストパンクと言える音像になっています。かなりメロディアスでボーカルの音程移動がめまぐるしい。オリヴィアロドリゴの中のパラモア成分を5倍ぐらいにしてボーカルをややR&B方面に技巧的にした感じ。適度にエッジが効いていてロック耳にも心地よいし、ハードロックファンにも訴求できる音。何より展開が目まぐるしく、様々なアイデアが盛り込まれていて飽きさせません。やや音が軽めなのが珠に傷ですが、そのあたりはキャリア(年齢)相当。思ったよりはるかにいいアルバムで驚きました。ハードロックファンにも見つけてほしい掘り出し盤。


おススメ3:Al-Qasar/Who Are We?

フランスを拠点に活動するフランス/モロッコ混合バンド、アルカサルのデビューアルバム。WOMAD2022にも出演しておりワールドミュージック界隈で話題になりつつあります。サイケデリックロック、デザートロックにグナワ音楽(モロッコの音楽)やアラビックな要素を加えた感じ。完全モロッコのバブ・ルブルーズに比べるとやや人為的な感じがしますが、中心人物のトマ・アタール・ベリエ(Thomas Attar Bellier)はもともとUS西海岸でバンド活動やエンジニアを行っていた様子。いわばUSやフランスの音楽シーンのことも知っており、そうした「外部の視点から見たモロッコ風味」を抽出している部分も感じます。それを洗練ととるか偽物ととるかで評価が分かれそうですが、そこまでゴリゴリのモロッコ音楽マニアもそうそういないと思うので、単純にサイケデリックロックとして聞くと面白い出来。本当にプリミティブでトライバルな、儀式や呪術を感じさせる生々しさはありませんが流すと部屋が適度にアラブになります。おススメ。ライブはもっと生々しいのかな。


おススメ4:King Gizzard & The Lizard Wizard/Ice, Death, Planets, Lungs, Mushrooms and Lava

オーストラリアのメルボルンで結成されたキングギザード&ザリザードウィザード。おそろしく多作なバンドで2022年だけで5枚のスタジオアルバムを出しています。すげぇな。ジャズミュージシャン的というか、かつてのフランクザッパみたいな感じ。どうやって作っているんだろう。どんどん曲が湧き出てくるんでしょう。天才の特徴の一つに「多作」という条件があるといったのはピカソだったか。まさにそういう意味では「天才」ですね。ジャムセッションを全部採っておいてコラージュしているのだろうか。音楽的にはグレイトフルデッドやPhishのようなジャムバンドに近い。適度に冗長ながら退屈さはありません。この辺りは演奏技術が成せる業か。ものすごく多作な分アルバムによって出来不出来があるんですが、本作は全体的に心地よいグルーヴに包まれた「実験がうまくいった」アルバム。とにかく酩酊感があります。とはいえテンポはけっこう軽快で、最近のUSストーナーまではいかない感じ。3曲目「Magma」など祭囃子に近いリズムだと感じます。飲酒時のBGMに最高。


おススメ5:Queensrÿche/Digital Noise Alliance

ドリームシアター”以前”のUSプログレメタルの雄、クイーンズライクの新譜。巨大な商業的成功を収めた80年代~90年代前半を経てかなり迷走した時期があり、中心人物であったフロントマンのジェフテイトが去って80年代的なプログレ風味がある正統派HMに回帰してからはや10年、ボーカルが元クリムゾングローリーのトッドラトゥーレに変わってから4作目となるアルバムです。ここ数作と大きくは変わらず、少し引っ掛かりがあるUSパワーメタル。ボーカルの歌い方に癖があります。前半はやや平坦ながら後半に向けて盛り上がっていき、きっちりと読後感とも呼べる余韻を残してアルバムが終わるのは流石。ただ、初めて聞いて一番耳に残るのが最後のビリーアイドルのカバー「Rebel Yell」というのはちょっといただけません。前半にキラーチューンが1曲か2曲あれば今週の目玉だったんだけれどなぁ。プログレメタル好き、USパワーメタル好きにおススメ。


おススメ6:Ibrahim Maalouf,Angelique Kidjo/Queen of Sheba

レバノン生まれのトランぺッター、イブラヒムマーロフと西アフリカ、ベナン出身のシンガー、アンジェリークキジョーのコラボアルバム。二人ともフランスを拠点に活動しており、現在のワールドミュージックシーンでは名の通った人物です。欧州のワールドミュージックの中心地はフランス。イブラヒムマーロフはトランペット奏者ながらアラビック音階、微分音(12音階にはない細かい音階)を扱うことができる特殊な改造楽器を用いており、本作はアラブ(レバノン)音楽と西アフリカ音楽がクロッシングした独特な音像。実験的な部分もありますが、それぞれの分野で第一人者とも呼べる2人の共演だけに音楽的な面白さ、スリリングさがしっかり詰まったアルバムです。音楽好きの間でもっと話題になっていいと思うユニークな魅力と熱量が詰まったアルバム。ちょっとアルバム全体の統一感に欠けるのが玉に瑕か。オムニバス感があります。

最近のアンジェリークキジョーはトーキングヘッズのアルバム丸ごとトリビュートといい、オリジナルアルバムの充実度といい、ワールドミュージック界の中で個人的に最注目のアーティストかもしれません。YouTubeはこのアルバムからではありませんが、彼女のTinyDeskでのライブを。


以上、おススメアルバム6枚でした。それでは良いミュージックライフを。

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