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ポール・オースターさんのこと

ポール・オースターさんのこと。

自分にとって決定的な意味をもつ小説は何冊かありますが、ポール・オースターの『孤独の発明』もそのひとつです。
あの本の、特に前半部『見えない人間の肖像』で書かれた著者の父親についての文章は、20歳ごろの僕が父という人間について考えていたことと恐ろしいほど一致しました。
当時の僕は、父という地獄に苦しめられていて、だからこそ父という謎をなんとか相対化できる言葉を探していました。
そうしないことには生きていけなかったからです。

そんな時に『孤独の発明』を読んで、「ついに見つけた!」と思いました。
「そうです!オースターさん!僕はそういう言葉で父という人間を表現したかったんです。どうして僕よりも父のことがわかるんですか?」と叫びたくなったことを覚えています。
そして、「そうか、父は『見えない人間』だったんだ。苦しいのは俺だけじゃなかったんだ」そう思えて、すごく救われました。

『孤独の発明』を書いてくれたことだけで僕はオースターさんにずっと個人的な恩義を感じてきました。
生まれてきた苦しみを無くすことはできないけれど、それを正しい言葉で表現しさえすれば、魂を救うことはできるかもしれないと示してくれたんです。

正直に言うと『リヴァイアサン』以降の著作はほとんど読んでいません。
先日、ようやく『幻影の書』を読んだのですが、「やっぱりオースターだなあ」という安心感以上の何かはありませんでした。
あの『孤独の発明』ほどの、魂を揺さぶられるような衝撃はもうありませんでした。
それは僕がもう20歳ではないからかもしれないし、もう父のことは相対化されてしまったからかもしれません。
でも、僕のようにオースターさんに個人的な恩義を感じている方、救われたと感じている方は、この世界に沢山いるんじゃないかな、と思います。

オースターさん、あの本を書いてくれて感謝しています。
ありがとうございました。
どうか安らかに。R.I.P. Paul Auster

#PaulAuster
#ポールオースター

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