見出し画像

サリー・ルーニー『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」12月16日放送分)

※MRO北陸放送(石川県在局)では、毎週木曜日の夕方6:30〜6:45の15分間、書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」を放送しています。このシリーズでは、月毎に紹介する本の一覧と、放送されたレビューの一部を無料で聞くことが出来るSpotifyのリンクを記載しています。

https://open.spotify.com/episode/17YwLZABiq1hhhuLjZXgkC?si=1__c0u_5SRifIWQNIdl8ng&utm_source=copy-link

※スマホの方は、右上のSpotifyのマークをタッチすると最後まで聴くことができます。


<収録を終えて>
 アイルランドの作家のデビュー作。書き上げたのは26歳の時で(現在は30歳)、ごく日常を描いていても湧き上がる生々しい「今の若者っぽさ」があります。これが計算なのだとしたら凄まじい。その後執筆した作品が、次々とドラマ化しているのも納得です。

ラジオでお話したとおり、あらすじはよくある恋愛物? というか……
主人公は名門大学に通う女子大学生で、親友(この人も女性で、実は主人公とは元恋人同士だった)と一緒に詩の創作活動を行っています。2人は、あるお洒落夫婦(俳優の夫と、人気インタビュアーの妻)にそれぞれ恋をして、その関係に悩みながらも自己を見つめるという内容です。登場人物それぞれが、フェミニストであったり資本主義に懐疑的だったり婚姻関係に疑問を呈したりと、まさに今の時代のリベラルな方々を象徴しているような設定で、そこを切り取って「今っぽい」ということもできます。

ですが、それ以上に時代性があるのが、タイトルにある通り「カンバセーション」の多さ。主人公は会話で、メールで、SNSで、沢山の会話を他者と会話を重ねます。友人たちと、恋人と、恋人の妻と、上司と、家族と。誰に何を言うか、誰に何を言われるか、その往復によって自らの世界が構築されていく様子は、TwitterやInstagram、FacebookなどのSNSでのやり取りが毎日の中で当たり前になっている私達の生活を思わせます。

また、それほど言葉を交わしているにも関わらず、登場人物たちは自らの内面にあるコンプレックスを胸に秘め、自らの弱い部分をもって他者と関わろうとしないところも、どこか今の時代を感じさせます。

例えば、才能に溢れ明晰な女性である主人公は、自らの出自や貧しさを抱え、卑屈な思いを抱いています。
一方、主人公の友人(元恋人)は、美貌と知性、そして上流階級の出身であることから完全無欠な存在に見えますが、主人公に対し自らの才能の限界を感じています。
そして、インタビュアーと俳優という華やかな夫婦にも軋轢があり、屈折を抱えていることも物語を介して明らかになっていきます。

登場人物たちは複雑な人間関係のバランスの中で、自らのコンプレックスを刺激する対象を「上手に」見つけ、相手の内面を理解することなく、ただ屈折する思いを募らせていきます。その様子は、華やかなInstagramを見て他人の生活を羨みがちな私達の姿に重なるようにも感じられます。

この物語が高く評価されるのは、そんな私達の弱さを代理的に抱え、克服しようと試みる主人公の姿に共感するからなのでしょうか。

人と交わす言葉の数々は私の中に降り積もり、いつの間にか誰もいない小さな町を構築しているようです。私たちは自らの内部に築いた世界の登場人物として、物語を生きているのかもしれません。

<了>





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?