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立憲民主党の政策をチェックする

 こんばんは。Sagishiです。

 今回は国民民主と維新に引き続いて、立憲民主党の政策を見ていきます。

1 重点政策について

 重点政策である『政権政策2021』(pdf)を確認します。政策の基本設計にあたる資料です、文章が多いため抜粋して記載します。

①新型コロナ関連
・医療/介護従事者への一時給付金の支給(20万)
・低所得者への一時給付金の支給(12万)
・事業規模に応じた持続化給付金の支給
・コロナ関連対応の司令塔を官房長官に集約
・「危機管理・防災局」の設置

 ①に関しては、ほとんど岸田内閣の政策と重複しています。また、国民民主党の政策とも重複しています。唯一違うのは「コロナ関連対応の司令塔を官房長官に集約」を謳っている点です。各政策に特に異論はありません。

②一億総中流社会の復活
・1年間、年収1,000万以下の所得税の免除
・時限的な消費税5%への減税
・最低賃金1,500円への段階的引き上げ
・医療/教育/科学技術への予算重点分配
・法人税への累進課税の導入
・所得税の最高税率の引き上げ
・金融所得の総合課税化
・社会保険料の月額上限の見直し

 「年収1,000万以下の所得税の免除」ですが、所得税の減税は高所得者ほど得をし、低所得層には効果的な政策ではないため、支持しません。本政策が立憲民主党の最重点政策としてアピールされていますが、現金給付以上のインパクトはないように思います。

 「最低賃金1,500円」は極端な政策だと感じます。目標としては理解できますが、最低賃金1,000円すら達成できていない状態で、公約として掲げるのは疑問です。数年程度で実現できるようなものではなく、仮に政権を取ったとしても「公約違反」になる可能性が非常に高いと想像できます。また、最低賃金を1,500円と設定する根拠も不明であり、支持できないです。

 「法人税への累進課税の導入」も極端な政策です。社会主義的な政策で、企業の成長マインドを阻害する恐れがあると感じます。資本主義経済にどんな悪影響を及ぼすかのシミュレーションもない状態では、この政策を支持することはできません。

 また「増税」への言及が多いように感じます。これは民主党政権が財源不足で苦しんだ経験からなのでしょう、全体的に緊縮志向なのが立憲の基本的な姿勢のようです。それ自体は良いですが、国内経済を活性化させることは一般的に財政均衡よりも優先すると考えられています。立憲民主の「一億総中流社会」の欄には、具体的な経済政策や成長戦略の記述がほとんど見られず、どのようにして経済成長を実現するのかが見えてきません。もう少し、経済的に明るい方向へ行くための政策を立ててほしいと感じます。

③原発ゼロ・カーボンニュートラル
・2030年に温室効果ガスを55%削減
・2030年を目処に原発ゼロ
・送電網の整備・運用を国有化
・自然エネルギー比率を2030年に50%、2050年に100%

 いずれも、かなり強烈な政策が並んでいる印象です。「温室効果ガス削減」は世界共通の目標でもあるので、とりあえず置いておきましょう。

 「原発ゼロ」ですが、個人的にはエネルギー安全保障の観点から、主要電力会社に最低1基は原子力発電所を永続的に運用させたいと考えています。というのも、もし台湾有事が発生して、台湾海峡のシーレーンが封鎖されれば、日本が火力発電に使用している天然ガス・石炭・石油の供給が途絶えることになります。その状態が長期化し、冬を迎えてしまうと、現実問題として雪国では死者が出ることも考えられます。少なくとも、日本のベースロード電源の代替ができて初めて、原発ゼロは主張されるべきだと考えます。

 「送電網の整備・運用を国有化」は、わたしは支持しません。国有化よりも先に、JERAのように、国内の発送電・パワーグリッドの企業を統合させていくのが先だと考えます。各電力会社の送電網管理システムを統合させていくだけでも、5~10年以上の規模を擁する大事業になり、これをデジタル庁が管轄するとなると大変なことです。まずは民間主導での統合ができないかを模索していくべきでしょう。

 「自然エネルギー比率を2030年に50%、2050年に100%」は、コメントに窮します。「2050年に100%」という、絶対に実現不可能なこと・非現実的なことを公約に書くのは無責任だと感じます。日本のベースロード電源を、比率として50%程度にかりに太陽光発電に移行できたとして、最後の需給の調整をするのは火力発電がその役割を担うのが現実的です。

④暮らしの安心への投資
・国公立大学の授業料半額、給付型奨学金の拡充
・一人暮らし学生/低所得層への家賃補助制度
・児童手当の所得制限廃止と高校卒業までの延長
・出産育児一時金の引き上げ
・子ども省の創設
・不妊治療への保険適用化
⑤多様性を認め合える社会
・選択的夫婦別姓の早期実現
・LGBT平等法の制定
・議会の男女同数を目指す
・差別防止のための国内人権機関の設置

 ④と⑤はさすがリベラル政党という感じで、政策が充実しています。財源の記述がないのは気になりますが、政策の基本設計にはほとんど異論はありません。

 立憲民主党の「児童手当」は政策として弱く感じます。現行の「児童手当」を高校卒業まで延長したとして、1人あたりの給付額はたったの36万円しか増えません。1人あたり給付額が120万円増える国民民主党案とは大きな開きがあり、国家予算も4,000億円程度しか増加しないため、そもそも政策として練り込まれていないように感じます。

 また「家賃補助制度」で、一人暮らし学生に限定している理由は何なのかという疑問があります。高校生ぐらいの年齢から一人暮らしで働いている層は、この政策から外すのでしょうか、政策の理念が不明確に感じます。

⑥現実的外交
・海上保安庁の領海警備/体制強化
・核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を目指す
・辺野古新基地建設の中止

 「海上保安庁の領海警備」は、維新や国民民主が主張している政策と同じですが、自衛隊法に関する記述はないようです。「辺野古新基地建設の中止」は感情的には理解できますが、日米の安全保障体制に鑑みれば非現実な主張でしかありません。民主党政権の失敗から何を学んだのかという感情にさせられます。

⑦まっとうな政治
・内閣官房直轄に自民党の問題を明らかにするチームを作る
・公文書記録管理院を設置する
・内閣人事局の人事制度の修正/官邸の強い人事介入を修正
・安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止
・カジノ解禁を撤回
・地方自治体への一括交付金の新設
・20歳から立候補できるように被選挙権を引き下げる

 立憲民主の「公文書記録管理院」は、維新の「公文書院」とは異なるようです。維新の「公文書院」は省庁の公文書管理を集約する役割を持つ機関ですが、立憲民主の「公文書記録管理院」は省庁の公文書管理の評価と監視を行う機関のようです。個人的には、維新案のほうを支持します。

 また、「内閣人事局」の権限修正ですが、そもそもは「内閣人事局」は、「政治主導」を謳う民主党の肝入りの政策だったはずです。それをいざ自民党が運用すると反対に回る、というのは納得がいきません。実際どのように修正するのかの詳細設計もなく、不透明な政策に思えます。いずれにしても立憲民主党は旧民主党時代に掲げていた「政治主導」の路線からは、大きく後退してしまったようです。

 「安保法制や共謀罪の違憲部分を廃止」は、どこが違憲かは政策の詳細設計にも書いていないですが、おそらく集団的自衛権などのことを言っていると想像します。集団的自衛権の行使撤回は、明確に時代に逆行しており、わたしは反対します。「カジノ解禁を撤回」も反対です。

 「被選挙権を20歳」は支持しますが、20歳の根拠は何でしょうか。維新案の18歳のほうが妥当ではないかと感じます。


2 個別政策について

 続いて政策の詳細(pdf)を見ていきますが、かなり文章が多く、しかも具体的な政策の提案ではなく、目標や理念の記述がほとんどです。そのためどれに賛成でどれに反対か、というのが指摘しにくいです。

 特に「ジェンダー平等」欄は記載内容が細かすぎて、各論や目標の記述が膨大にあるがゆえに、総論として何が政策目標なのかが分かりにくいです。わたしは、目標というのは政策でもなければ公約でもないと考えます。『政策集』と銘打つのであれば、最低限そのあたりの整理をしてほしいです。

 その中でも、目についた支持・不支持政策について下記に書きます。


2-1 支持する政策

●皇室
・皇位の安定的継承と女性宮家の創設にむけて国民的議論を深めます。

 「女性宮家」について明確に記載しているのはわたしは評価します。

●デジタル
・決済手段の多様化と低コスト化を図るため、中央銀行によるデジタル通貨の発行に向けた取り組みを進めます。

 立憲民主が「デジタル円」に前向きなのは驚きですが、強く賛成します。


2-2 支持しない政策

●デジタル
・行政手続きのデジタル化の推進に当たっては、システムの安全性と信頼性の確立が重要であり、委託先を含め、データを管理するサーバーの設置を国内に限定します。

・マイナンバーカードの普及率が低迷しているため、スマホ内にマイナンバーカード同様の機能搭載を可能にします。

・国産クラウドサービスを確立します。

 政府系システムの8割程度が、AWSに移行する予定です。どのようなデータを国内設置に限定するのか明確なことを書くべきです。そうでなければ、非現実なことを言っているとしか思えません。

 「スマホ内にマイナンバーカード同様の機能搭載を可能に」は冗談を言っているとしか思えません。日本で販売するスマホにだけ、特別なチップを実装するとでも言うのでしょうか。ガラパゴス直行で、世界の市場から弾かれること間違いなしです。

 「国産クラウドサービスを確立」と書いていますが、国産のクラウドサービスならKCPSやNTTデータクラウド、ニフティクラウドなど、30以上のクラウドサービスがすでにあります。恐らく、AWSやAzureのようなパブリッククラウドを差しているのでしょうが、現実を直視すべきです。

●経済政策
・ベーシック・サービス(医療、介護、障がい福祉、子育て、保育、教育、放課後児童クラブ等)の充実により、将来不安を解消することで、経済成長を促します。

 前者は、立憲民主の党首・枝野幸男がよく主張していますが、何を言っているのかよく分からないです。

●ジェンダー
・女性活躍推進法の実効性を高めるため、男女の賃金格差と女性労働者の非正規比率等について、企業等が把握し目標を設定することを義務付ける法改正を行います。
・前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を義務付ける「勤務間インターバル規制」を導入します。

 推進の方針には賛成しますが、法改正による義務化には反対します。また「勤務間インターバル規制」には反対です。

●産業
・先端半導体の国産化を推進します。

 現実を直視しましょう。ファウンドリにしてもファブレスにしても、すでに投資をしても「先端」に追いつける状況ではありません。


3 まとめ

 立憲民主党の政策を見ていきましたが、やはりリベラル色が強力であると感じます。さすがはリベラル政党という感じで、共感する目標も多いです。しかし、『政策集』としては膨大な目標が記述されているばかりで、内容の整理が済んでおらず、まとまりがないという印象です。

 これだけの各論や目標にすべて目を通して、そのすべてに何らかの評価をするというのは非常に困難です。おそらく、有権者のほとんどが立憲民主党の政策目標には目を通してはいないでしょう。また、「~は許されません」など、およそ政策集とは思えないような表現も散見されます。人によっては好印象を抱くかもしれませんが、わたしは読みにくさを感じましたし、あまり良いと思いませんでした。もう少し、まとまりのある政策集にする努力が必要で、政調会が機能しているのか疑問に感じます。

 最後に、共産党との選挙協力を進めているにしては、割と中道な政策になっていると感じました。ゆえに、なぜ共産党と選挙協力をするのかと残念でなりません。立憲と共産は仮に選挙協力はできたとしても、政策の一体化は不可能であると、立憲民主の政策集を読んで改めて感じました。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/