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政策考論:児童手当

 こんばんは。Sagishiです。

 今回は「教育政策」に関する記事を書いていきます。その中でも、「児童手当」に焦点を当てていきます。

1 児童手当の仕組み

 児童手当は、0~3歳まで月15,000円、3~15歳まで月10,000円を給付する制度です。一人あたり198万円を支給することになります。

 制度理念としては、「子ども・子育て支援」「家庭・生活の安定」を目的にしています。また、「格差是正」「教育機会平等の確保」などの役割も持っており、「社会」が「子ども」を支えるという社会公共政策です。

 制度の詳細設計では、所得制限や子どもの人数に関する規定が設定されています。


2 予算規模

 2021年度の国家予算のうち、教育・科学技術予算は5.4兆円です。うち、児童手当が占める国家予算は1.15兆円程度を占めています。

 児童手当は社会公共政策であるため、地方自治体にも負担金が発生しており、国家予算と地方自治体の予算を合算すると、規模としては2.1兆円程度です。


3 多いのか少ないのか

 2兆円というかなり大きな予算規模のある児童手当ですが、実際一人あたり198万円の支給というのは多いのでしょうか少ないのでしょうか。

 結論から言えば、めちゃくちゃ少ないと言えます。内閣府が2002年に出しているデータがありますが、18歳までの子どもに掛かる費用は1,730万程度です。単純計算で一人あたり198万円では全然足りていません。

 教育無償化が進んでいることもあり、10~20年前より負担率が下がっているのは事実であり、また一部の自治体では塾代助成金などの仕組みがあるため、家計における教育支出の割合が抑えられてきてはいますが、まだ大きな開きがあります。

 例えば、住宅購入プランニングをすると、子どもが多いほど住宅を購入するのが厳しく・難しくなることが分かります。

 年収500万程度だと、銀行からローンで最大4,500万円程度まで借りることができますが、子どもが2人いると最大借入ローン金額より大幅に低い3000万円の住宅を購入しても、家計は破綻寸前まで行くことがありえます。

 はっきり言うのであれば、現在の日本で子どもを産むことは「社会的ディスアドバンテージ」になっていると言えます。


4 適正な給付規模を検討する

4-1 支給期間の是正

 まず現行の児童手当制度の問題として、15歳までの支給になっていることが問題だと言えます。というのも、教育費用が本格化してくるのは15歳以降だからです。これは内閣府が出しているデータを見れば分かります。

 教育費用が本格化してくる年齢を前に、児童手当の給付を打ち止めるのは非合理的だと言えます。成人する18歳までは支給を続けるべきと考えます。


4-2 支給額の是正

 現行制度のまま支給期間を18歳まで延ばすと、総支給額は234万円になります(予算規模は約2.6兆円と推測)。しかし、この金額でもまだ不足感はあります。

 国民民主党の児童手当改正案では、18歳まで月15,000円の支給となっています。この案を採用すると、総支給額は324万円になります(予算規模は約3.5兆円と推測)。現行制度よりはるかに改善されていると感じます。

 家計目線だとまだ不足を感じますが、予算規模の無秩序な拡大だけは気をつけたいです。というのも、児童手当は政府目線だと固定支出になるため、国債などで予算を確保するのではなく、固定収入で予算をつける必要があると考えられるからです。つまり児童手当の予算規模が大きくなると、消費税の増税などの何らかの増税を検討しなくてはなりません。

 民主党政権が「子ども手当」で月26,000円の支給を目指そうとして、予算を確保できず頓挫した過去を反省する必要があります。国民民主党案の「18歳まで月15,000円の支給」(予算規模約3.5兆円)は、ひとまず目指すことが可能な現実的なラインだと感じます。


4-3 所得制限の是正

 現行の児童手当は所得制限を設けていますが、どのような年収の家庭においても、子どもを産むことが「社会的ディスアドバンテージ」になっていることには変わりがないです。

 そのような状態を是認することは、社会的に望ましいことでしょうか? 子どもがいないほうが良い家が買える、良い生活ができる、そんな社会が望ましいか。わたしはそうは考えません。どのような世帯においても、この「社会的ディスアドバンテージ」がなくなるようにすべきだと考えます。よって、所得制限は撤廃すべきです。


5 予算確保

 仮に国民民主党案で児童手当を改正するとして、現行制度より年間で約1.5兆円程度の予算規模の拡大になります。

 現行の児童手当の負担比率のまま、地方自治体に予算を負担させるのは現実的ではないので、増加した予算のほとんどは国で賄うことになると想像できます。児童手当は瞬間的な政策ではなく、恒常的な政策なので、この予算を税金で確保しようとすると大変です。

 国民民主党が提案している「教育国債」を使い、児童手当の予算に当てるという案もありえはしますが、固定予算であることを考えると何らかの増税は避けられないようにも思います。ここをどのように対応するかは、政策立案においてよく検討が必要でしょう。


まとめ

 子どもに関する予算の増額は、社会的ディスアドバンテージを緩和させ、子どもを授かることに対して経済的負担・不安を持たせない社会を形成するためには不可欠な政策です。将来世代・現役世代の負担軽減の観点からも、ぜひ前に進めてほしい政策です。

 旧来の自民党の議論を見ていると、なかなか所得制限の撤廃や支給額の増額はすぐには難しいように感じます。しかし、与野党を超えて、教育分野について政策を進めてくれることを期待していますし、今まさに必要な議論だと感じます。

 「所得制限撤廃」「支給期間の18歳までの延長」「支給金額の毎月15,000への増額」の3つの観点があるので、それぞれの観点から政策の実現を目指していきたいです。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/