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ピアノと私の30年⑥:音楽を再開して6年目の今

会社の忘年会でステージに立ってから、ピアノを再開することになった私。
それから今に至るまでの5年間。
ピアノと私の30年、最後です!!


謎の罰ゲームで次の演奏が決定

会社の忘年会で演奏をして、1位になれず悔しい思いをしたところで終わった20代後半編。
実はこの話には続きがあります…

共演したヴァイオリニストの先輩から、謎の罰ゲーム宣告。
「今回1位になれなかったから、罰ゲームとしてCafetalkの発表会に出ましょう」
ちょっと待ってくれ。誘ったのはあなたじゃないか。それに、ピアノを本格的に再開するなんて言ってない!

該当の記事はこちら…

Cafetalkとは、オンラインレッスンを提供しているプラットフォーム。そこでヴァイオリニストの先輩や、高校の先輩が音楽部門の講師を勤めている。
オンラインレッスン体験記は別でまた公開します。

毎年オフラインで発表会が行われるのだが…会場はなんと、銀座のヤマハホール。
その発表会に高校の先輩からレッスンを受け、出演するという罰ゲーム。
いやでもここで弾ける機会なんて、こんなことでもなければ滅多にない。もはやこれはご褒美と言ってもいい。

高校の先輩から渡されたのは、シューマンの幻想小曲集から「飛翔」

中学〜高校生くらいで弾くことも多いし、大人も好きな人が多い人気曲。たしか高校時代に同級生も試験で弾いていた。

発表会よりも先にコンサートを開催

この頃、会社では忘年会での情熱大陸のおかげで、年末から年明けにかけていわゆる「時の人」状態になっていた私。
ある日、執行役員の方から「2人でコンサートやりなよ」とお声がけいただいた。他にもそういった声がとても多くて、びっくり。

ヴァイオリニストの先輩に相談したら、あれよあれよと曲を決め、日程と会場を押さえられてしまった。
やはり毎年ソロリサイタルやら何やら本番を数抱えている人は行動が早い。

飛翔に加えて、追加されたのは12曲。J-POPや昭和歌謡とか、弾き慣れない曲も多い。
約4ヶ月でこの量をこなすのは初めて。春一番とともに、大試練が訪れてしまった。

さらに、合わせ練習で飛翔をヴァイオリニストの先輩に聴いてもらったら「下手ではないんだけど…シューマンの男心がわかってないねぇ…」と言われる始末。
果たしてこんなんでコンサートなんて、やって良いのだろうか。

不安だらけで迎えた当日。無事に全曲弾ききった。クオリティはあまり良いものではなかったし、反省点は尽きない。
いちばんの不安だった集客も、あちこちに声をかけまくったおかげで、40人弱のお客さんで満席になった。
周りの人たちに支えられた温かい会になったと思う。

罰ゲームの発表会に出演

大試練の春が過ぎ去って、とうとう夏になった。罰ゲームのヤマハホールでの発表会。
なぜかここでも先輩との連弾が追加され、飛翔だけで収まらなくなった。
連弾はサン=サーンスの動物の謝肉祭から「水族館」「フィナーレ」の2曲。
飛翔がコンサート前に出来上がっていたおかげで、2ヶ月で仕上げられた。

当日、リハーサルで音を出して、自分が極度に緊張していることに気付き、人生の終わりかのように落胆。

だって、ここ、ヤマハホールですよ?普通に生きてたら演奏できない場所よ!?

あまりに緊張していたからか、先輩が控室からステージ裏までずっとつきっきりで一緒にいてくれたのが、とーってもありがたかった。
ステージに出ていくときは、ガチガチの背中をマッサージされながら「さぁ、やなぎちゃん、お楽しみの時間だよー」と送り出された。

肝心の本番はというと、緊張しすぎてボロボロ。

その時の飛翔の演奏動画。今聴いてもなんともぎこちない。飛んでいない。
そしてこのとき、多分、人生でいちばん太っていた。腕がたくましい。

保護者の方々や、ゲスト出演の講師の先生から「演奏、素晴らしかったです!」「音がとてもキラキラしてて素敵でした」とお声をかけていただいた。
自分では穴があったら入りたいくらいの演奏だったけど、そう言っていただけたのは良かった。

発表会へのお声がけが急激に増えた

発表会が終わって一息ついていたら、高校の先輩から連絡が。
「音楽教室の先生と一緒に毎年門下発表会やってるんだけど、やなぎちゃん出ない?」
コンサートとかするつもりはないけど、演奏の機会があれば出たいな〜くらいに思っていたから、発表会という場は私にとってちょうど良かった。

曲はリベンジしたかった、ショパンのバラード2番に決めた。
レベル感は大幅アップだけど、一度弾いている曲だから、イケる!
(まさか翌年のショパンコンクールで有名どころの日本人コンテスタントがこぞって弾くと思わなかった…)

そこからお声がけの量がすごかった。

コンサートの準備でお世話になった先生(今の師匠)からも「うちの門下発表会に出よう」
さらに、小学生からお世話になっていた地元の先生にピアノを再開したと連絡をしたら「うちの発表会、来年で40回記念だから、ぜひゲストとして出てちょうだい!」
Cafetalkの発表会も案内をいただいて、翌年も出ることになった。

次の機会にはちゃんとしたステージドレスを買わないと!と思っていたので、とりあえず3年は着回す想定で曲選びしなさそうな色や柄で4着購入。

まさか、年が明けたら世界的な大惨事が起こるなんて予想もしていなかった。

コロナ禍で控えていた発表会が中止&延期

2020年2月。曲も暗譜できて、あとは1ヶ月で細かいところや表現を仕上げるだけ!発表会は3月の先輩の門下発表会、4月の山形行き、5月の師匠門下の発表会とCafetalkの合計4本。
そんなとき、最初の発表会まで約1週間というところで、政府の基本方針が発表された。東京都でのコロナ感染者がちょうど100人を超えたくらいだった。

会社では翌日からフルリモートが確定。3月の発表会は約1ヶ月延期に。
その後は皆さんご存知の通り。WHOのパンデミック宣言、東京都の緊急事態宣言での三密回避。
特にクラシック界隈への影響はすざまじかった。

延期になった3月の発表会は中止に。
せっかく練習したショパンのバラード2番を披露する場が…

更に4月の山形行きは8月に延期になったものの、東京から出ていくリスクが高いので、出演断念。Cafetalkの発表会も中止。
師匠の発表会だけは11月にこじんまりと出演者のみで集客なしで実施することに。
4本あったはずの演奏機会があっという間に1本になった。

高校の先輩とのレッスンはオンラインに切り替え。2020年は対面レッスンは数回しかできなかった。
師匠のレッスンは基本的に自宅での対面でこれまで通りだったのが、とてもありがたかった…

2021年から演奏機会が増える

感染対策が少しだけ緩和した2021年からは、高校の先輩と師匠の門下発表会が開催されることに。嬉しいことにレッスンはほぼ対面に戻り、ひと安心。

2022年からは、声楽を指導されている方の門下発表会に呼んでいただいたりして、ありがたいご縁がたくさん生まれている。
演奏を聴きに来てくれる人も回数を追うごとに増えてきていて、プライベートの友人に限らず、仕事関係の人も来てくれる。

特に昨年は感染対策がほとんど撤廃されたおかげで、たくさんの人にお声がけして、出演者のみなさんの良い音楽を聴いてもらえるし、みんなでワイワイする打ち上げも楽しい。

もちろん、この5年で演奏する曲の技術レベル、表現レベルも格段に上がった。再開当初は「ブランクがあるから…」と躊躇していたし、自分の高校時代の演奏を聴いては今の下手さ加減に落ち込んでいたけど、あれこれ弾いて勉強して、ブランクは埋められたと思う

私が2020年から演奏した(している)ライナップはこちら。

<2020年>
・ショパン:バラード2番
・ドビュッシー:ベルガマスク組曲(全曲)
<2021年>
・ベートーヴェン:ピアノソナタ8番 悲愴 全楽章
<2022年>
・リスト:エステ荘の噴水
<2023年>
・サン=サーンス/リスト:死の舞踏 S.555
<2024年>
・モーツァルト:ピアノソナタ12番 全楽章
・バッハ:平均律クラヴィーア曲集1巻 2番

表現力と表情をもっと鍛えたい

これまでのピアノ人生を振り返ってこのシリーズを書いて自分のピアノ遍歴をアウトプットしてきたけど、私はとっても怠惰なわりにピアノを弾くことだけは諦めていなかったんだと気付かされた気がする…それから、人前で弾く機会を失ってはいけないことも。

再開してから、たった5年で「アマチュアピアニスト」として認識されつつあって、周りからも趣味でピアノを弾いているという認識ではなくなってしまった。
それなりに自分にプレッシャーをかけながら演奏を続けたいなと思うものの、これから大人として演奏するのに必要なのは技術よりも表現力。

よくレッスンで「もっとそこは嫌だと思ってみて」「( ゚д゚)ハッ!とした顔をしてみて」と先輩に言われるけど、本当に私は思うことや表情で音がガラッと変わるらしい。
自覚は全くできていなかったけど、最近はなんとなくそれも分かるようになってきた。だからこそ、自分の気分が乗る曲じゃないと、なかなかうまく弾けない。

かの有名なランランのように「顔芸」と言われたり、ヴァイオリニストの木嶋真優さんみたいに表情がコロコロ変わる演奏家は聴いている側も楽しい
一瞬で表情を作るモデルさんや、演技を生業とする役者さんたちのように、音を奏でられるピアニストになれたら面白いよね。

メイクも表情も、楽器の扱い方もこれからどんどんスポンジのように吸収して、本番で吸収したものをドバッと出せるような演奏ができるように、これからも叫んだり泣いたり唸ったりしながら、ピアノと向き合います。

人に教えられるようになった

ピアノを再開して5年。技術をほぼ元通りにしつつ、じっくり時間をかけて音楽と向き合うことをやって、やっといろんなことが頭に入ってきた気がする。
表現力や音楽の作り方を理論的、歴史的、感覚的に学ぶ時間を中学・高校時代にはしっかり取れなかったから。

和声や音楽理論、音楽史を勉強し直したり、音楽や演奏家に関連する本を読んだりしているおかげで、最近は会社の人にピアノを教えたり、友人や周りの人に聞かれる音楽の質問にある程度は答えられるまでになった。

大師匠が高校時代の私に「君はピアニストには向いているけど、先生には向いていない」と言っていた。
その理由は「できない人の気持ちが分からない」から。
これは私がエリートなわけでは決してなくて「努力することが当たり前」「できるようになるまで練習するのが当たり前」で生きてきたから。

今でも私のそのスタンスは変わらないけど、そんな私が人に教えると自分から言えるようになるなんて、少しは社会人経験を通して丸くなったのかもしれない。
ただ、私のレッスンはやっぱり、かなり厳しいと思う。笑

人に教えるという行為を通して、今まで当たり前にやってきた基礎練や練習曲のような「やらなければいけないからやっていたこと」をなぜやるのか、なぜそれが必要なのか、やったらどうなるのかを自分の経験から語らなければいけなくなった。
自分で「先生に言われたからやる」から「なぜやってきたのか意味が分かる」ようになったのは大きな変化だと思う。

そんなこんなで、私は楽しく演奏をして、人に教えながら自分も学び、音楽ライフを満喫している。
これから、きっと何年経っても、舞台に立つことが少なくなっても、ピアノは引き続けるのだと信じている。
おばあちゃんになっても、音楽を楽しめますように。

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やっと、やっと、私とピアノの30年が完結しました。書いていてもめちゃくちゃ楽しかったし、いろんなことを思い出しすぎて、何を詰め込んだらいいか毎回悩みました。
出会い編から今までのピアノ遍歴を書き綴ったり、ピアノに関して書いている記事はこちらのマガジンにまとめています。


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