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マロン内藤のルーザー伝説(その18 渡独するの?しないの?)

極めて短期間ではあったものの幾多の苦楽を共にした1976年製ポルシェ930ターボ(ター坊)との今生の別れを経て、単身渡独の準備に追われるマロンであった。数多くの海外出張経験を誇る自称国際派のマロンではあったが、実は生まれて初めての海外転勤ということもあり、果たして異国の地でやっていけるのであろうか?ドイツ人にいじめられないだろうか?という不安に押しつぶされそうな日々を送っていたのである。

そんな不安と期待が入り交じる中、親族や数少ない親しい友人にもこれまた今生の別れとなるやもしれない挨拶などを始めたのであるが、なんと言っても名残惜しいのは長年苦楽をともにしたバンド仲間との別れであった。

「大切な話がある」喫茶店にて緊急会合を招集したマロンは、後ろ髪を引かれる思いで異国の地に向かうことをメンバーに打ち明けた。
バンドにとって唯一のベースプレーヤーが脱退するというのは、バンドの持続可能性を脅かす一大危機であり、一様に驚きの色を隠せないバンドメンバーは、しかし新たなる飛躍を自分ごとのように喜んでくれたのである。そして、マロン一世一代のお別れライブを企画しよう!ということになった。

善は急げということで、マロン思い入れナンバーを中心としたセットリストを決めて、最後のライブに向けまさに受験生さながらの最後の追い込みをかけたのは言うまでもない。そして、ついにお別れ単独ライブの日を迎えた。

バンド活動というのはライブでご一緒した他のバンドメンバーとの交流というのが結構あり、出身地・学校・勤務先など全く異なる、いってみれば普段出会わない音楽好きな仲間とのふれあいが醍醐味の一つでもある。

大勢のバンド仲間が送別の歓声を上げるなか、熱いモノがこみ上げるのを感じながら、子供の頃からの夢であった数々のビートルズナンバーを披露することができたのはやはりバンドメンバーの支えあってのことと、今でも感謝の気持ちでいっぱいである。まさに、自らのバンド活動集大成といっても過言でない一日であった。

さよならライブ(キャンディーズみたいですな)の興奮冷めやらぬ中、マロン自身は粛々と渡独の準備を進めていたのであるが、肝心の辞令交付が一向になされないのである。

気の早い上司は転勤することを一足先に職場内に周知しており、職場全体もさよならマロンムード一色になっているため、些か心地悪い気分であったものの、まあそのうち交付されるだろうと思い込んでいた私が甘かった・・
なんと、折からの業績不振により、海外転勤凍結という予想だにしなかった展開を迎えたのである。申し訳なさそうに理由を説明してくれた上司に「え・・そうなんですか・・」と返事をするのが精一杯であった。さよらなライブやっちゃったじゃん・・どうしよう・・・

その日以降、職場、そしてバンド仲間から「あの人まだいてはるわ~・・」という無言の冷たい視線を浴びるはめになったのはまさにルーザー冥利に尽きると言っても過言ではない。果たして渡独するのか?しないのか?

つづく

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