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スナフキンのサンダル ⑦ 〜 ダンシングロード 〜

会社を辞め、初めての旅で、ついにポイペトというカンボジア側の国境の町にやってきた。ここからシェムリアップまでは、ピックアップトラックに乗ることになる。

それはトラックの荷台に15人程の乗客がすし詰めの状態で出発した。カンボジアの道はアスファルト舗装されておらず、至るところにクレーターという大きな穴があり、そこを通るたびに人もトラックも跳ねた。

乗客の半分は欧米人のバックパッカー。残りは現地の人達で、中にはニワトリの入った竹かごを抱えるお婆さんもいた。運転手は、

「女こどもは荷台の中に、男はトラックのあおりに座れ」

と舗装されていない悪路で、あおりに座っているのは、危ない気がしたが、意外と大丈夫であった。

途中で何度も現地の人を拾ったり、降ろしたり、時として荷台の中は混雑する。

あおりに座っている自分は体の半分を外に出しながら、落ちないことだけを考えていた。

吹き抜ける風がとても心地よかった。このピックアップトラックの運転手は荷台に人を乗せていることなど気にも掛けず、猛スピードで悪路をぶっ飛ばした。

踊るように飛び跳ねるこの道は

「ダンシングロード」

と呼ばれている。総距離160キロ、大阪〜名古屋くらいの距離であった。

信号機などある訳がなく、運転手の男はクラクションを鳴らしまくって、道を横切ろうとする人や牛を怯えさせた。

のどかな田園風景が永遠と続いていた。痩せ細った水牛が、同じく痩せ細った男に引かれて田を耕している。

たまに白いアヒルの親子が水田に浮かんでいるのを見つけて心がなごんだ。

ピックアップトラックの乱暴な運転にいくらか慣れてきた頃、突然その事故は起こった。

「ガッシャーン」

何かにぶつかった衝撃で車が止まった。自転車に乗った男が道端に倒れている。トラックの男はその倒れた男に向かって、

「馬鹿やろー、気をつけろ!」

と現地の言葉を浴びせ、何もなかったかのように車を動かし出した。すると僕の横に座っていたカナダ人の青年が、立ち上がり運転席の屋根を叩いて

「ストップ!ストッープ!!」

と車を止めさせた。さらに欧米人のバックパッカーが2、3人詰めより、運転手の男に謝ってくるように英語で諭した。

そのトラック野郎は苦々しい顔をし、倒れている自転車の男の所まで渋々歩いていった。そして、謝ると思ったが、なんと足で自転車を蹴飛ばし、何か罵声を浴びせ、最後にお金を倒れている男に投げつけて帰ってきた。

この衝撃の一部始終をトラックの荷台から見ていた僕は、平和な日本に生まれて良かったと心から思った。


シェムリアップの町に着いたのは夜だった。何とか宿を見つけて、その日はぐっすり眠ることができた。


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