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おい、福田! ① 〜 伝説の新聞勧誘員 〜

高校の同級生である福田のことを書こうと思う。それは21世紀を目前に控えた1998年、2人は上京してたまたま近くに暮らしていた。

彼は高校を卒業し、品川区の荏原中延にある独身寮に住んでいた。僕も近くの川崎市に居たので徳島の田舎者同士でよくつるんでいた。

僕らは別々の会社に勤めていたが、常にお金がなく、蒲田のボロくて安い居酒屋で飲むことが多かった。そんな中、福田は給料日前になると

「タク、金借してくれ!」

と、こんな俺にたかって来る。そして翌週に給料が入ると返しにくるという謎の行為を繰り返していた。

しかし、ある日を境に福田の羽振りが良くなっていく。話を聞くと彼は、

「新聞の押し売りをやってる」

という。僕はその怪しい雰囲気満載の仕事内容を根掘り葉掘り聞いてやった。

まず、福田は勤めていた京浜島の工場を電話1本で辞めた。そこは歴代の先輩が毎年1人採用されており、そこそこ名の知れた会社である。

今まで信用を積み重ねてきた先輩方と母校に泥を塗って辞めたような形だ。さらに彼は、

「会社の寮を出て、今は女の所に転がり込んでいる」

という。実際に行ってみると蒲田のカラオケ屋の前で酔い潰れていたあの女がなんと主であった。

話を新聞販売に戻そう。スポーツ新聞の求人欄に載っていたその販売店は偶然にも彼女のアパートの下にあった。

無数に止まっている自転車と配達用のカブを掻き分けて、よく福田の同棲しているアパートへ遊びに行った。彼は最初、新聞配達を勧められたという。しかし、「僕は朝が苦手なんで」と雑に断り、訪問販売での新規勧誘を始めた。

福田は一見真面目そうに見えるが、喋れば人懐っこく、中身の無い会話を永遠と続けることが出来る。それがお年寄りや主婦層に何故かウケが良かった。

新規顧客をどんどん獲得して、すぐに前の仕事の給料を稼ぐようになった。さらに半年もしないうちに販売店でトップの成績を残すまでになる。彼の売り方は独特であった。訪問販売なので玄関を開けて貰わないと話しにならない。そこで彼が編み出した技がある。

東京では、アパートやマンションに表札のない家が多い、福田はとりあえずピンポンを押して、

「、、、ブンさ〜ん、、シンで〜す。」

「、、シンさ〜ん、、、ブンで〜す。」

と謎の問い掛けを繰り返す。これに反応して出て来た人は彼のマシンガントークによって新聞を買う羽目になるという仕組みである。

ここで伝説の必殺技だが、玄関の扉が開いたら、彼はすかさず片足を中に入れ、

「契約してくれるまで帰らない」

と押し売り定番のスタイルで喋りまくった。ほとんどの人が新聞を読んでいた時代なので、新聞社を乗り換えてくれる人が多かったらしい。
因みに少し前に書いた記事に福田は出てくるので、もし良かったらこちらも読んで欲しい。

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