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祖谷のランバージャック ④ 〜山師の追い山〜

2004年に徳島県の山奥で山師の仕事をはじめた。約20年前を綴ろうと思う。

前回まで伐倒の話を主にしてきたので、今日は弁当の話を書きたい。当時は山小屋のような所で一人暮らしをしていた。

その頃、僕は自炊の経験が乏しく、ラフティング仲間ともたまに会う程度で、近くにご飯を作ってくれる人はいなかった。

そんな僕の弁当作りだが、まず、炊飯器のタイマーを夜にセットすれば、翌朝、炊き立てのご飯が食べられるのを知る。

また、朝起きてすぐにコーヒーを飲む習慣がある。インスタントの味噌汁を大量に買い溜めて、コーヒーと一緒に作った。

自炊を始めた頃、土方弁当と呼ばれる型のお弁当容器を使っていた。(ドカタベントウ)

一番底にインスタントの味噌汁、そして大きい器に白ご飯。さらにオカズを入れるであろう容器の中に缶詰めを入れていた。

最速2分で出来る弁当の完成である。缶詰だと容器を洗う必要もない。冬場に焚火で暖めた、さばの味噌煮缶と食べる弁当は、最高に美味しかった。

「缶詰めばっかり食っとらんで、アマゴ釣りんさい」

と親方が家の前の川でアマゴを釣ってきた。アマゴはとても賢い魚で、人影を見ると食い付かない。岩に隠れるようにして釣る方法を覚えた。

仕事から帰って日暮れまでに5、6匹は釣れるようになった。この経験が今でも生きている。

冬になって、魚が釣れなくなった頃、

「拓よー、追い山に行かへんかえ?」

と親方が犬と一緒に追い山と呼ばれる猟へ連れて行ってくれた。国さんは地元の猟師として有名で、犬を5匹も飼っていた。

一面真っ白な銀世界の雪山では、虫の音ひとつ無く、ひたすら静寂が広がっている。そこに発信器をつけた猟犬と一緒に並んで歩く。

犬と自分の呼吸する音だけが、静かな森に聞こえていた。

「猪の足跡を見つけたぞ」

と誰かが言った。親方は皆んなの持ち場を決め、犬を放す。すると静寂の世界から一転して、凄まじい喧騒がひろがった。

けたたましく吠える犬と牙を剥いた猪の命を賭けた闘いである。

さっきまで優しく接していた犬たちが、目を血走らせて、何倍も大きな猪相手に飛びかかっていった。

「早く撃て!!」

と無線で親方から指示が出るが、僕は手が震えて狙いが定まらない。

「ズドーーン」

耳が裂けるような音がした。そして猪は頭から血を流してバタンと倒れる。後から駆けつけた猟師が撃ってくれたのだ。

群がる犬を払い除け、剣なたでトドメを刺す。心臓から血を抜きとるのだ。

真っ白な雪の上を大量の血が流れ、苦しそうにしていた猪の息が絶えた。


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