Yasushi Kaneko

青山ブックセンター「KOD(研究社オンライン辞書)を使った翻訳演習」の講師、金子靖(研…

Yasushi Kaneko

青山ブックセンター「KOD(研究社オンライン辞書)を使った翻訳演習」の講師、金子靖(研究社編集部)です。同講座の補習のような形で始めた『図書新聞』そのほかでの書評演習。 本を書店で買って読む、論じてみる。 このことを一緒に考えたくて始めた補習です。

最近の記事

江戸智美評 リチャード・ライト『地下で生きた男』(上岡伸雄、作品社) 

物語という形で「Black Lives Matter」と声を上げたリチャード・ライト――表題作の完成版が初邦訳、そして多才なライトを知ることのできる多彩な日本語版オリジナル 江戸智美 地下で生きた男 リチャード・ライト 著、上岡伸雄 編訳 作品社 ■第九十六回(二〇二四年)アカデミー賞脚色賞を受賞した『アメリカン・フィクション』は、黒人のステレオタイプ満載の作品を“これこそリアルだ”と歓迎する出版業界が舞台だ。主人公の売れない黒人作家が半ばジョークのつもりで、白人主流の読

    • 圓尾眞紀子評 群ようこ『老いてお茶を習う』(KADOKAWA)

      よそのお稽古場をのぞき見しているような臨場感――自分を棚に上げて笑った後は元気がもらえる群さんからのお茶の世界への招待状 圓尾眞紀子 老いてお茶を習う 群ようこ KADOKAWA ■群ようこさんといえば着物関連のエッセイもたくさん書いておられるのでお茶やその他の和のお稽古などはすでに長くご経験済みかと勝手に想像していたところ、このたび六十八歳にして初めて師匠についてお茶のお稽古を始められたとのことだ。今回の新著ではそのお稽古の最初の一年を群さんの心のつぶやきを通して読者は

      • 岩本明評 キム・チュイ『満ち足りた人生』(関未玲、彩流社)

        一人の移民女性が語る、強くしなやかな人生再生の物語――繰り返し何度も味わいたい一冊 岩本明 満ち足りた人生 キム・チュイ 著、関未玲 訳 彩流社 ■本作はケベック在住の作家キム・チュイによる『小川』(二〇〇九)、『ヴィという少女』(二〇一六)に続く三作目の小説である。自身も移民であった作者が、カナダに暮らす移民女性を主人公として新たな物語を描く。  主人公であるマンはベトナムで生まれた。生母はマンを産んですぐに亡くなり、マンは尼僧に拾われ、その後改めて育ての母に引き取られ

        • 三角明子評 ジョン・バカン著、エドワード・ゴーリー画『三十九階段』(小西宏訳、東京創元社)

          逃亡劇の成否は協力者の見極め次第――退屈な日々から一転して命がけの冒険に乗りだした主人公の心は多いに揺れ動く 三角明子 三十九階段 ジョン・バカン 著、エドワード・ゴーリー 画、小西宏 訳 東京創元社 ■第一次世界大戦前夜のロンドン。約三十年ぶりにアフリカから帰国したリチャード・ハネーは、退屈のあまり、余生を英国で過ごす計画を反故にして、アフリカへ戻ろうと思いはじめていた。ある日、外出から戻り自室の鍵を開けようとしていたハネーに、同じ建物に住むという男が話しかけてくる。そ

        江戸智美評 リチャード・ライト『地下で生きた男』(上岡伸雄、作品社) 

        • 圓尾眞紀子評 群ようこ『老いてお茶を習う』(KADOKAWA)

        • 岩本明評 キム・チュイ『満ち足りた人生』(関未玲、彩流社)

        • 三角明子評 ジョン・バカン著、エドワード・ゴーリー画『三十九階段』(小西宏訳、東京創元社)

          田籠由美評 アーロン・グーヴェイア『男の子をダメな大人にしないために、親のぼくができること――「男らしさ」から自由になる子育て』(上田勢子訳、平凡社)

          「有害な男らしさ」から脱却しよう――特に男の子をもつ父親は一度読んでみてはどうだろうか 田籠由美 男の子をダメな大人にしないために、親のぼくができること――「男らしさ」から自由になる子育て アーロン・グーヴェイア 著、上田勢子 訳 平凡社 ■世の中に潜在する歪んだ形の男らしさを、著者は「有害な男らしさ」と呼ぶ。悲しくても男だから泣けない、男たるもの人の助けを求めない、キレイなものや可愛いものは女向けだから近づかない、生意気な女は黙らす! 育児なんか女がするものだ! ……そ

          田籠由美評 アーロン・グーヴェイア『男の子をダメな大人にしないために、親のぼくができること――「男らしさ」から自由になる子育て』(上田勢子訳、平凡社)

          小平慧評 コーマック・マッカーシー『アウター・ダーク――外の闇』(山口和彦訳、春風社)

          人間の意識と無意識の構造を射抜く現代的な射程――貧しい人々の暮らしの描写は「生活感」にあふれている 小平慧 アウター・ダーク――外の闇 コーマック・マッカーシー 著、山口和彦 訳 春風社 ■社会から孤立して暮らす兄キュラと妹リンジーの兄妹に、近親相姦による赤ん坊が生まれる。キュラは赤ん坊を森の中に捨て、行商をしていた鋳掛屋がその子を拾って連れ去る。リンジーは赤ん坊のことをあきらめられず、家を出て、赤ん坊をさがしてさまよう。一方キュラも、行く先々で仕事を転々としながら妹をさ

          小平慧評 コーマック・マッカーシー『アウター・ダーク――外の闇』(山口和彦訳、春風社)

          眞鍋惠子評 イアン・ボストリッジ『ソング&セルフ――音楽と演奏をめぐって歌手が考えていること』(岡本時子、アルテスパブリッシング)

          音楽好きのあなたへ――音楽家の心の内をのぞき、音楽への新しいアプローチを 眞鍋惠子 ソング&セルフ――音楽と演奏をめぐって歌手が考えていること イアン・ボストリッジ 著、岡本時子 訳 アルテスパブリッシング 音楽好きのあなたへ――音楽家の心の内をのぞき、音楽への新しいアプローチを ■イギリスを代表する世界的テノール歌手による音楽とアイデンティティにまつわる評論集である。「世界に名だたるスーパーテナーの書いた評論ってどんなもの?」と思われる向きもあるかもしれない。著者イアン・

          眞鍋惠子評 イアン・ボストリッジ『ソング&セルフ――音楽と演奏をめぐって歌手が考えていること』(岡本時子、アルテスパブリッシング)

          玉木史惠評 メアリ・ノリス『GREEK TO ME――カンマの女王のギリシャ語をめぐる向こう見ずで知的な冒険』(竹内要江、左右社)

          愛しいギリシャ――ちんぷんかんぷんな人生の救世主 玉木史惠 GREEK TO ME――カンマの女王のギリシャ語をめぐる向こう見ずで知的な冒険 メアリ・ノリス 著、竹内要江 訳 左右社 愛しいギリシャ――ちんぷんかんぷんな人生の救世主 ■推薦するという意味の「推す」から派生した「推し」は、熱心に支持する対象を表す俗語として日常的に使われる。 雑誌『ニューヨーカー』で校正者として二十四年間勤務し、カンマの女王として知られる著者メアリ・ノリスの「推し」は、アイドルでもゲームアプリ

          玉木史惠評 メアリ・ノリス『GREEK TO ME――カンマの女王のギリシャ語をめぐる向こう見ずで知的な冒険』(竹内要江、左右社)

          佐藤みゆき評 シェハン・カルナティラカ『マーリ・アルメイダの七つの月』上・下(山北めぐみ訳、河出書房新社)

          主人公の人生とスリランカの闇が一つまた一つとあぶりだされる――2022年にブッカー賞を受賞した小説 佐藤みゆき マーリ・アルメイダの七つの月 上・下 シェハン・カルナティラカ 著、山北めぐみ 訳 河出書房新社 主人公の人生とスリランカの闇が一つまた一つとあぶりだされる――2022年にブッカー賞を受賞した小説 ■二〇二二年にブッカー賞を受賞した小説である。作者はスリランカ出身の小説家シェハン・カルナティラカ。彼にとって二作目となる長編小説であり、二〇一四年に書き始めてから執筆

          佐藤みゆき評 シェハン・カルナティラカ『マーリ・アルメイダの七つの月』上・下(山北めぐみ訳、河出書房新社)

          馬場理絵評 パッツィ・ストンマン『シャーロット・ブロンテ:過去から現在へ』(樋口陽子、彩流社)

          「作家シャーロット・ブロンテ」と「私たち」――『ジェイン・エア』を中心に ブロンテの作家としての人生の軌跡を丁寧にそして鋭い洞察力をもって解説 馬場理絵 シャーロット・ブロンテ:過去から現在へ パッツィ・ストンマン 著、樋口陽子 訳 彩流社 「作家シャーロット・ブロンテ」と「私たち」――『ジェイン・エア』を中心に<br>ブロンテの作家としての人生の軌跡を丁寧にそして鋭い洞察力をもって解説 ■パッツィ・ストンマン『シャーロット・ブロンテ――過去から現在へ』は、今もなお世界中で

          馬場理絵評 パッツィ・ストンマン『シャーロット・ブロンテ:過去から現在へ』(樋口陽子、彩流社)

          上原尚子評 閻連科『中国のはなし――田舎町で聞いたこと』(飯塚容訳、河出書房新社)

          息子が父に、父が母に、母が息子に殺意を抱く、奇妙な家族の物語――すさまじいまでの熱を持つ、猛烈に面白い小説 上原尚子 中国のはなし――田舎町で聞いたこと 閻連科 著、閻連科 訳  河出書房新社 ■すさまじいまでの熱を持つ、猛烈に面白い小説だ。表紙を開くとたちまち小説の世界に引き込まれ、土埃の舞う雑踏に立ち、鮮烈な赤を目撃し、強烈な太陽の光を浴びることになる。  まず、著者である閻連科(エンレンカ)自身が、語り手の「私」として登場する。  母親の誕生日を祝うために河南省の中

          上原尚子評 閻連科『中国のはなし――田舎町で聞いたこと』(飯塚容訳、河出書房新社)

          竹松早智子評 ルーシー・ウッド『潜水鐘に乗って』(木下淳子訳、東京創元社)

          現実と空想の狭間で出会う物語――英国コーンウォール地方の伝承が新たな短篇集に 竹松早智子 書籍名・作品名:潜水鐘に乗って 著者名・制作者名:ルーシー・ウッド 著、木下淳子 訳 出版社名・制作者名:東京創元社 ■『潜水鐘に乗って』には十二の短篇が収められている。いずれもイギリス南西部のコーンウォール地方に語り継がれてきた伝承や伝説をもとに生み出されたものだ。  コーンウォールは神秘的な土地である。荒れ野(ムーア)が一帯に広がり、岩や巨石、森や泉が点在する。切り立った崖には白

          竹松早智子評 ルーシー・ウッド『潜水鐘に乗って』(木下淳子訳、東京創元社)

          岡嵜郁奈評 キャサリン・マンスフィールド『アロエ』(宗洋訳、春風社)

          評者◆岡嵜郁奈 百年を経てなお生き残る作品とはどんなものか――百年前に早世したニュージーランドの国民的作家、キャサリン・マンスフィールドの初邦訳作品 アロエ キャサリン・マンスフィールド 著、宗洋 訳 春風社 百年を経てなお生き残る作品とはどんなものか――百年前に早世したニュージーランドの国民的作家、キャサリン・マンスフィールドの初邦訳作品 ■百年前に早世したニュージーランドの国民的作家、キャサリン・マンスフィールドの初邦訳作品である。まず長編小説として書かれ、その後、短

          岡嵜郁奈評 キャサリン・マンスフィールド『アロエ』(宗洋訳、春風社)

          檀原実奈評 アン・ラドクリフ『森のロマンス』(三馬志伸訳、作品社)

          評者◆檀原実奈 二百年余りを経て翻訳された、謎めく英国女流作家のゴシック名著 森のロマンス アン・ラドクリフ著、三馬志伸訳 作品社No.3628 ・ 2024年02月17日  The Romance of the Forestはフランス革命の勃発から二年後の一七九一年に出版され、それから実に二三二年の歳月を経て『森のロマンス』のタイトルでわが国で翻訳、出版された。  本作はゴシック小説というジャンルの名著とされてきたため、ゴシックの諸要素から現代サブカルにおける片鱗まで図説

          檀原実奈評 アン・ラドクリフ『森のロマンス』(三馬志伸訳、作品社)

          小平慧評 トルーマン・カポーティ『サマー・クロッシング 』(大園弘訳、開文社出版)

          評者◆小平慧 家族の外に「自分」を探す、若き主人公の自己探求の冒険を描く サマー・クロッシング トルーマン・カポーティ著、大園弘訳 開文社出版 No.3628 ・ 2024年02月24日 家族の外に「自分」を探す、若き主人公の自己探求の冒険を描く  アメリカの現代作家トルーマン・カポーティ(一九二四‐一九八四)は、日本にも読者が多く、少なからぬ作品が邦訳されてきたが、その名前から何を連想するだろうか。『遠い声、遠い部屋』のゴシック小説的な意匠を凝らした仄暗い世界だろうか

          小平慧評 トルーマン・カポーティ『サマー・クロッシング 』(大園弘訳、開文社出版)

          山本常芳子評 ジョーン・エイキン『お城の人々』(三辺律子訳、東京創元社)

          見えない世界――穏やかな愛で綴られる恐ろしくも不思議な物語山本常芳子 書籍名・作品名:お城の人々 著者名・制作者名:ジョーン・エイキン 著、三辺律子 訳 出版社名・制作者名:東京創元社 見えない世界――穏やかな愛で綴られる恐ろしくも不思議な物語 ■生と死は隣り合わせにある。目の前の慌ただしい現実に心奪われても、ともすれば忘れがちでも、あるいはあまりの恐ろしさに正視していられず遠くへ追い払ったようでも、死は私たちのすぐそばにある。意識の奥深くにいつも在る死後の世界も、妖精や魔法

          山本常芳子評 ジョーン・エイキン『お城の人々』(三辺律子訳、東京創元社)